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2017年09月21日
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次に、物販・外食・サービス支出の変化を品目別に確認する。年齢毎の傾向を見ると、(1)59歳以下と(2)60歳以上で異なる(図表7)。
(1)59歳以下
食料、家電、被服・靴、書籍、教養娯楽用品、外食、観覧・入場料等、交際費が主に減少した(図表7の緑色箇所)。娯楽的な消費だけでなく、衣食住など幅広く支出を減らしていることが特徴的である。消費行動に関する変化としては、39歳以下で書籍や教養娯楽用品、観覧・入場料等など時間消費型の支出が4.1~6.0千円/月減少しており、デジタルコンテンツが既存の娯楽商品・サービスのシェアを奪っている影響と考えられる。
食料、家電、被服・靴、書籍、教養娯楽用品、外食、観覧・入場料等、交際費が主に減少した(図表7の緑色箇所)。娯楽的な消費だけでなく、衣食住など幅広く支出を減らしていることが特徴的である。消費行動に関する変化としては、39歳以下で書籍や教養娯楽用品、観覧・入場料等など時間消費型の支出が4.1~6.0千円/月減少しており、デジタルコンテンツが既存の娯楽商品・サービスのシェアを奪っている影響と考えられる。
以上をまとめると、1999年以降は全ての年齢で物販・外食・サービス支出が減少したが、特に中年世代が大きく減らしている。中年世代の物販・外食・サービス支出減少は、可処分所得減少が主因である。貯蓄率や消費支出に占める物販・外食・サービス支出の割合に大きな変化は見られないため、可処分所得減少が物販・外食・サービス支出を押し下げたことがわかる。品目別で見ても全般的に支出を減らしており、節約型の消費行動を取っていたことが推測される。
また、若年世代と高齢世代は、可処分所得の変化に対する物販・外食・サービス支出の減少要因が中年世代と異なる。若年世代は可処分所得減少が限定的だが、物販・外食・サービス支出を減らしている。これは貯蓄率上昇に加え、支出を減らした品目が可処分所得減少の減った中年世代と同様であることから、節約型の消費行動を取ったためと推測される。中年世代の可処分所得減少を目の当たりにして、将来の経済的な不安が高まり、支出を減らした可能性が高い。また商業施設の売上高に繋がらない支出が増加したことも物販・外食・サービス支出が減少した背景にある。若年世代では特に住居費が大きく増加している。他にも通信費や光熱費が増加しているが、これは全ての世代に共通している。
高齢世代は、可処分所得減少と比較して、物販・外食・サービス支出の減少幅が小さい。その理由は、貯蓄率が低下していることである。収入は少ないが資産は多い傾向のある高齢世代は、可処分所得の変化に対する物販・外食・サービス支出の変動が相対的に小さいことがうかがわれる。品目別に見ても、中年世代のような節約型のような傾向は見られず、可処分所得減少ではなく、外食を増やすなど生活様式の変化により支出品目が変化したものと推測される。
また、若年世代と高齢世代は、可処分所得の変化に対する物販・外食・サービス支出の減少要因が中年世代と異なる。若年世代は可処分所得減少が限定的だが、物販・外食・サービス支出を減らしている。これは貯蓄率上昇に加え、支出を減らした品目が可処分所得減少の減った中年世代と同様であることから、節約型の消費行動を取ったためと推測される。中年世代の可処分所得減少を目の当たりにして、将来の経済的な不安が高まり、支出を減らした可能性が高い。また商業施設の売上高に繋がらない支出が増加したことも物販・外食・サービス支出が減少した背景にある。若年世代では特に住居費が大きく増加している。他にも通信費や光熱費が増加しているが、これは全ての世代に共通している。
高齢世代は、可処分所得減少と比較して、物販・外食・サービス支出の減少幅が小さい。その理由は、貯蓄率が低下していることである。収入は少ないが資産は多い傾向のある高齢世代は、可処分所得の変化に対する物販・外食・サービス支出の変動が相対的に小さいことがうかがわれる。品目別に見ても、中年世代のような節約型のような傾向は見られず、可処分所得減少ではなく、外食を増やすなど生活様式の変化により支出品目が変化したものと推測される。
4. 商業施設の売上環境の変動要因分析
それでは物販・外食・サービス支出を押し下げた要因は何なのだろうか。物販・外食・サービス支出の変化を下記の(1)所得要因、(2)消費行動要因、(3)人口・世帯要因の3つに分解することで、これまでの物販・外食・サービス支出変化の理由を探る(図表8)。
(1)所得要因
各世帯の可処分所得の増減によるもので、可処分所得が増加すれば支出が増加する。
(2)消費行動要因
各世帯の消費性向や消費品目の選択によるもので、貯蓄率が上昇したり、住居費や光熱費など商業施設の売上に繋がらない品目の支出が増えたりすると、物販・外食・サービス支出は減少する。
(3)人口・世帯要因
各世帯の可処分所得や消費行動は、各世帯の年齢によって決まる部分が多く、その傾向は比較的安定している。年齢毎の可処分所得や消費行動の傾向が変化しなくても、世帯数や世帯構成(世帯人数や年齢など)が変化することで、日本全体の消費構造が変わってくる。
(1)所得要因
各世帯の可処分所得の増減によるもので、可処分所得が増加すれば支出が増加する。
(2)消費行動要因
各世帯の消費性向や消費品目の選択によるもので、貯蓄率が上昇したり、住居費や光熱費など商業施設の売上に繋がらない品目の支出が増えたりすると、物販・外食・サービス支出は減少する。
(3)人口・世帯要因
各世帯の可処分所得や消費行動は、各世帯の年齢によって決まる部分が多く、その傾向は比較的安定している。年齢毎の可処分所得や消費行動の傾向が変化しなくても、世帯数や世帯構成(世帯人数や年齢など)が変化することで、日本全体の消費構造が変わってくる。
(a)1984年~1999年
物販・外食・サービス支出は、所得要因と人口・世帯要因の影響で増加した。
所得要因は1984年から1994年にかけて年率+2.7%~+3.9%と大きくプラスに寄与した。これはバブル期前後の賃金上昇によるものである3。1994年から1999年にかけては、金融機関の相次ぐ破綻など、バブル崩壊の影響が実体経済に顕在化したことで、可処分所得の伸びが急速に落ち込み、寄与度はほぼゼロとなったが、1984年から1999年を累計すると所得要因は年率+2.4%のプラス寄与となった。
消費行動要因は年率-1.2%~-0.7%のマイナス寄与となった。支出の中には食糧などの生活必需品も含まれ、所得ほど経済環境の変化の影響を受けなかったため、消費行動要因は所得要因と逆の動きを示す傾向があったことが推察される。
人口・世帯要因は、年率+1.0%~1.3%と一貫してプラスに寄与した。世帯数が増加したことに加え、人口割合の大きい「団塊の世代」が消費の多い50代に移行する期間であったことが要因である。
(b)1999年~2014年
物販・外食・サービス支出は、可処分所得減少を主因に減少した。
1999年から2009年は長引く景気後退の影響により、可処分所得は減少を続け、年率-1.4%~-1.6%とマイナスに寄与している。2009年から2014年は所得要因が+0.6%となったが、1999年以降で累計すると年率-0.8%の寄与となった。
消費行動要因は、1999年以降で累計すると年率-0.1%程度にとどまり、この期間を通して見ると影響は限定的だった。
人口・世帯要因は、1999年以降はプラス寄与が1%を割り込み、2009年から2014年にかけては寄与度が年率+0.3%まで縮小した。これは世帯数の増加ペースが減速していることに加え、「団塊の世代」が最も消費する年齢層から、時間推移と共に消費を減らす年齢層となったことも要因である4。
近年の小売業の売上不振の要因として、「消費離れ」など消費行動要因が指摘されることが多い。しかし以上の分析からは、可処分所得減少が商業施設の売上環境悪化の原因であったと言える。また前章の分析もあわせると、消費のボリュームゾーンである中年世代の可処分所得減少が大きく影響したものと考えられる。若年世代は、中年世代の可処分所得減少による将来の経済的な不安の高まりから、物販・外食・サービス支出を減らし、貯蓄率を高めたものと推測される。そのため、これも中年世代の可処分所得減少による影響であると見なせば、上記の分析結果以上に、中年世代の可処分所得減少が物販・外食・サービス支出を押し下げたことが示唆される。
3 物価変動は考慮していないため、所得増加には物価上昇の影響が一部含まれる。
4 拙稿の佐久間(2017)「商業施設売上高の長期予測~少子高齢化と電子商取引市場拡大が商業施設売上高に及ぼす影響~」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017年8月31日)の分析では、人口・世帯要因の寄与度は今後マイナスに転じる見込みである。
物販・外食・サービス支出は、所得要因と人口・世帯要因の影響で増加した。
所得要因は1984年から1994年にかけて年率+2.7%~+3.9%と大きくプラスに寄与した。これはバブル期前後の賃金上昇によるものである3。1994年から1999年にかけては、金融機関の相次ぐ破綻など、バブル崩壊の影響が実体経済に顕在化したことで、可処分所得の伸びが急速に落ち込み、寄与度はほぼゼロとなったが、1984年から1999年を累計すると所得要因は年率+2.4%のプラス寄与となった。
消費行動要因は年率-1.2%~-0.7%のマイナス寄与となった。支出の中には食糧などの生活必需品も含まれ、所得ほど経済環境の変化の影響を受けなかったため、消費行動要因は所得要因と逆の動きを示す傾向があったことが推察される。
人口・世帯要因は、年率+1.0%~1.3%と一貫してプラスに寄与した。世帯数が増加したことに加え、人口割合の大きい「団塊の世代」が消費の多い50代に移行する期間であったことが要因である。
(b)1999年~2014年
物販・外食・サービス支出は、可処分所得減少を主因に減少した。
1999年から2009年は長引く景気後退の影響により、可処分所得は減少を続け、年率-1.4%~-1.6%とマイナスに寄与している。2009年から2014年は所得要因が+0.6%となったが、1999年以降で累計すると年率-0.8%の寄与となった。
消費行動要因は、1999年以降で累計すると年率-0.1%程度にとどまり、この期間を通して見ると影響は限定的だった。
人口・世帯要因は、1999年以降はプラス寄与が1%を割り込み、2009年から2014年にかけては寄与度が年率+0.3%まで縮小した。これは世帯数の増加ペースが減速していることに加え、「団塊の世代」が最も消費する年齢層から、時間推移と共に消費を減らす年齢層となったことも要因である4。
近年の小売業の売上不振の要因として、「消費離れ」など消費行動要因が指摘されることが多い。しかし以上の分析からは、可処分所得減少が商業施設の売上環境悪化の原因であったと言える。また前章の分析もあわせると、消費のボリュームゾーンである中年世代の可処分所得減少が大きく影響したものと考えられる。若年世代は、中年世代の可処分所得減少による将来の経済的な不安の高まりから、物販・外食・サービス支出を減らし、貯蓄率を高めたものと推測される。そのため、これも中年世代の可処分所得減少による影響であると見なせば、上記の分析結果以上に、中年世代の可処分所得減少が物販・外食・サービス支出を押し下げたことが示唆される。
3 物価変動は考慮していないため、所得増加には物価上昇の影響が一部含まれる。
4 拙稿の佐久間(2017)「商業施設売上高の長期予測~少子高齢化と電子商取引市場拡大が商業施設売上高に及ぼす影響~」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017年8月31日)の分析では、人口・世帯要因の寄与度は今後マイナスに転じる見込みである。
5. おわりに
商業施設の潜在的な売上規模を示す物販・外食・サービス支出は過去20年ほど低迷してきた。その背景として「消費離れ」が指摘されることも多い。しかし、「消費離れ」が起きたのも、消費意欲が低下したわけではなく、主として可処分所得が減少したためだと考えられる。特に中年世代の可処分所得減少の影響は大きく、直接的に中年世代の支出が減少しただけでなく、それを見て若年世代が将来の経済的不安を高めたことで支出を減らしたと推測される。昨今、人手不足を理由に、若手社員や給料引き上げや非正規社員を正社員化するといった動きが見られる。しかし、それだけでは日本全体の消費は盛り上がらないのではないだろうか。中年世代が消費のボリュームゾーンであり、若年世代は現在の中年世代に将来の自分を投影するため、中年世代を含めた幅広い世代の所得向上が望まれる。今後は少子高齢化や電子市場取引拡大により商業施設を取り巻く環境は悪化することが見込まれるが、景気回復の果実が幅広く分配されていけば、商業施設の売上環境も底堅く推移する可能性がある。
(2017年09月21日「不動産投資レポート」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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