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アクチュアリー気候指数の開発-異常気象の発生度合いは、指数で表せるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
ACIは、幅広い利用者を念頭において開発されている。想定される利用者の範囲は、アクチュアリーをはじめ、保険会社の経営者、公共政策の立案・検討を行う公的部門の担当者、そして一般市民にまで及ぶ。このため、ACIは、統計的に適切に確立されたものであることに加えて、誰でも一目で理解できるような明快さを兼ね備えたものとなっている。
21世紀には、地球温暖化を背景に、グローバルな気候変動が進むものと予測されている。その中で、北米でのこうした取り組みには、各国のアクチュアリーが注目をしている。本稿では、ACIの概要を紹介するとともに、その活用の広がりについても検討することとしたい。
2――ACIの枠組み
1 ドイツの気候学者ケッペンが考案した、ケッペンの気候区分法が有名。この区分法では、世界各地の植生の相違を、気温と降水量に置き換えることで、区分の明確化を可能としている。
指数は、月ごとおよび季節ごとに設けられている。そして、単月(季節)の指数と併せて、月の5年移動平均、季節の5年移動平均の指数も設定されている。これは、気候変動を、日単位や週単位ではなく、より長いスパンで捉えようとするものと考えられる。
3|指数は、0を異常なしとして、プラスとマイナスの乖離度の大きさで表される
指数は、6つの項目の乖離度をもとに計算される。6つの項目とは、高温、低温、降水、乾燥、強風、海水面を指す。計算にあたり、1961年~1990年の30年間を、参照期間とする。そして、あらかじめ、各項目の計数値について、参照期間中の平均と標準偏差を求めておく。
ある1つの項目に、注目する。この項目について、ある月の乖離度を求めることにしよう。そのためには、その月の計数値から、参照期間中の平均を引き算する。その引き算の結果を、参照期間中の標準偏差で割り算する。このようにすることで、その月の計数値が、標準偏差の何倍くらい、平均から乖離しているかという、乖離度が計算できる。
乖離度が標準正規分布に従うものと想定すると、-1から1の間に入る確率は、約68.3%となる。逆に、乖離度が1を超える確率は、約15.9%となる。乖離度が2を超えるのは珍しいことで、その確率は、約2.3%。乖離度が3を超えるのは大変珍しいことで、約0.1%の確率となる。このようにして、異常の度合いが、定量化される。この乖離度を、6つの項目それぞれで計算して、その平均をACIとする。
3――ACIの各項目細部の作成方法
1|高温は、上側10%に入る日の割合から算出
高温は、Global Historical Climatology Network(GHCN) のデータを用いる2。参照期間中の気温分布に照らした場合に、月(もしくは季節)のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。気温は、1日のうちにも変動するため、最高気温と最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、高温の乖離度とする。
2 GHCN-Dailyと呼ばれる。世界の180を超える国と地域の地表に設置されている90,000ヵ所を超えるステーションの気候データを統合したデータベース。アメリカ海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration, NOAA)が所管している。地表を経度、緯度とも2.5度ごとの区域に分けて、各区域の気候データを収集している。
低温は、高温と同様に、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月(もしくは季節)のうち、下側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。1日の最高気温と最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、低温の乖離度とする。なお、低温の乖離度は、負値で表示される。そこで、他の項目の乖離度と比較する際には、マイナス記号を付けて正の値に変換される。
3|降水は、5日間の降水量の最大値から算出
降水は、月(もしくは季節)のうち、連続する5日間の降水量(降雪も含む)の最大値を、ミリメートル単位でとる。高温や低温と同様に、参照期間中の降水分布に照らして、月(もしくは季節)の、参照期間からの乖離度が計算される。
4|乾燥は、乾燥日が連続する日数から算出
乾燥は、降水量が1ミリメートル未満の、乾燥日が連続する日数について、データをとる。気温や降水と異なり、乾燥については、GHCNのデータからは年間でのデータしか取得できない。このため、年間データを線形補間して、月(もしくは季節)のデータとする。気温や降水と同様に、参照期間中の乾燥日数に照らして、月(もしくは季節)の、参照期間からの乖離度が計算される。
5|強風は、上側10%に入る日の割合から算出
強風は、参照期間中の日中平均風力分布に照らした場合に、月(もしくは季節)のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。そのために、まず、風速のデータが、風力に変換される。風力は、単位面積が単位時間に受けるエネルギーを指す。具体的には、風速の3乗に、大気密度3を乗じて、2で割り算をして得られる。風速のデータは、National Centers for Environmental Prediction(NCEP)のデータ4を用いる。
参照期間中の強風の分布に照らして、月(もしくは季節)の、参照期間からの乖離度が計算される。
3 大気密度は、1.293kg/m3という固定値となる。
4 National Center for Atmospheric Research(NCAR)と合同で行われた調査のデータ。経度、緯度とも2.5度ごとの区域に分けた上で、取得される地表の風速データが用いられる。
海水面は、時系列の海水面データから算出される5。ただし、季節によって海水面の高さは変わる。そこで、参照期間中の30年間の毎月のデータのうち、1月のデータ、2月のデータ、…(冬季のデータ、春季のデータ、…)など、同じ月(季節)の30個のデータをもとに、参照期間の平均や標準偏差を計算する。これらをもとに、参照期間からの乖離度が計算される。
5 Permanent Service for Mean Sea Level(PSMSL)の76ヵ所のステーションのデータが用いられる。これは、経度、緯度とも2.5度ごとの海域ごとに設けられた計潮器がベースとなる。得られたデータは、地上に対する相対的な海水面であるため、陸地の上下動の影響を除いた、絶対的な海水面のデータに調整する必要がある。そのために、ICE-5Gと呼ばれる調整モデルが利用される。
(2017年09月12日「保険・年金フォーカス」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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