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女性医療の現状(後編)-骨粗鬆症のリスクを減らすには、どうしたらよいか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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4――おわりに (女性医療の問題点 (私見))
そこでは、例えば、老年期の骨粗鬆症が、元をたどれば、思春期や性成熟期の健康状態に関連しているといった、息の長い健康管理が重要となる。また、身体の様々な病状を診る上で、不定愁訴や、精神状態など、患者の全身の状態を、包括的に理解して、診療することが求められる。
本章では、現在の女性医療が抱えていると思われる問題点について、5点ほど、筆者の私見を述べることとしたい。
<1> 乳がん検診や子宮頸がん検診の、受診率が低い
日本のがん検診の受診率は、国際的に見ると低い水準にある。特に、乳がん検診や子宮頸がん検診の受診率は、40% 程度にとどまっており、欧米先進諸国に比べて低い。日本人の2人に1人が生涯で1度はがんにかかり、3人に1人ががんで死亡する、との実態を踏まえれば、がん検診の受診率向上は、日本の医療の鍵となる課題と言えよう。諸外国で見られるような、検診費用の公費負担など、受診率引き上げに向けた取り組みが必要と考えられる。特に、乳がんは、女性の部位別のがん罹患率で、第1位を占めている。また、子宮頸がんは、若齢期に発生しやすく、妊孕性に影響する。がんの早期発見、早期治療を進めて、罹患した後の回復や、患者QOLを高めていくことが必要と考えられる。
<2> 若齢期の取り組みが、老年期のQOLに影響を与えることが、十分に理解されていない
日本の社会には、女性のライフサイクルを視野に入れて、若齢期から数十年先を見据えた、息の長い健康管理が重要であるとの認識が、十分に浸透していないと考えられる。また、女性の心身の健康は、本人ひとりにとどまるものではなく、次世代の健康にも影響するという、DOHaD説の考え方も、あまり浸透していないものと思われる。今後、女性医療が担うべき、長期的視点での医療や健康の問題を、更に広めていくために、家庭・学校・職場等、社会のあらゆる場において、教育・啓蒙活動を充実させていくことが必要と考えられる。
<3> 性差医療に対する理解が、社会に十分に浸透したとは言いがたい
日本では、性差医療の考え方が紹介されてから、まだ20年も経過していない。この間、生物学的性差だけではなく、社会的・文化的性差を含めた性差医療の理解が、社会に十分に浸透しているとは言いがたい。例えば、男女比が圧倒的にどちらかに傾いている病態については、それぞれの性別の固有疾患として捉えられており、社会全体で、医療の質や効率を高める動きには、結び付いていないものと思われる。今後、性差医療に関する研究を深化させるととともに、そこで得られた各種の知見の活用について、議論を深めていくことが必要と考えられる。
<4> 女性医療のサービス体制の整備は道半ばであり、包括的な統計データベースも未整備
女性医師は、徐々に増加している。特に、産婦人科では、医師の3人に1人が、女性医師となっている。また、女性専用外来を開設する病院も、徐々に増加している。しかし、今後の女性医療ニーズの高まりを踏まえると、サービス体制の整備は、まだ完了したとは言えない。更に、現在のところ、女性医療に関する、正確で包括的な統計データは、とりまとめられていない。今後は、引き続き、女性医師・産婦人科医師や、女性専用外来の体制づくりを進めるとともに、女性医療の統計データベースの整備にも、力を入れていく必要があるものと考えられる。
<5> 女性医療について、統合医療の展開が道半ばとなっている
女性医療は、患者の心身状態や生活全般を、長期間に渡り、幅広く捉える必要があるとされている。そのため、近代西洋医学における処置・施術や薬剤投与を前提として、食事・運動・生活スタイルの指導や、相補・代替医療の提供も考慮するべきであろう。つまり、これらを含む、統合医療が求められることとなる。しかし、統合医療の展開は、道半ばとなっている。相補・代替医療の多くが、保険適用とはならないことが、その一因と考えられる。今後、保険適用範囲のあり方の検討を含めて、女性医療に相応しい、統合医療の展開を進めるべきと考えられる。
これらの問題点について、引き続き、議論を進めていくことが必要と思われる。なお、今回、女性医療の問題点として、以上の5点を挙げたが、これらの中には、女性医療に限らず、医療全体にあてはまるものも含まれている。このため、医療全体の展開の中で、女性医療の検討を行うことが必要となろう。今後も、女性医療の進展動向に、引き続き、注目していくことが重要と考えられる。
(下記1~3の文献・資料は、包括的に参考にした)
- 「女性医療のすべて」太田博明編(メディカルレビュー社, 2016年)
- 「あなたも名医! プライマリケア現場での女性診療 - 押さえておきたい33のポイント」池田裕美枝・対馬ルリ子 編(日本医事新報社, jmed mook 47, 2016年)
- 「女性医療とメンタルケア」久保田俊郎・松島英介編(創造出版, 2012年)
(下記の文献・資料は、内容の一部を参考にした)
- 「広辞苑 第六版」(岩波書店)
- 「患者調査」(厚生労働省)
- 「国民生活基礎調査」(厚生労働省)
- 「ホルモン補充療法(HRT)チェックシート」(日本産婦人科医会)
- 「がん情報サービス 一般の方向けサイト」(国立がん研究センター) http://ganjoho.jp/public/index.html
- 「がん統計」(国立がん研究センターがん対策情報センター)
- 「がん統計-罹患データ(全国推計値)」(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター)
- 「がん統計-死亡データ(全国推計値)」(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター)
- 「睡眠障害の診断・治療ガイドラン作成とその実証的研究班 平成13年度研究報告書」(厚生労働省, 同研究班, 2002年)
- 「デジタル大辞泉」(小学館)
- 「平成20年患者調査」「平成23年患者調査」のオーダーメード集計(厚生労働省)
- 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会)
- 「骨粗しょう症薬使用で留意 副作用で顎の骨壊死」(日本経済新聞2017年7月3日, 朝刊17面)
- 「『ロコモ』を知ろう 『ロコモ』とは?」(ロコモチャレンジ!, 日本整形外科学会公認 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト)
https://locomo-joa.jp/locomo/01.html - 「ロコモ度テスト パンフレット」(公益社団法人 日本整形外科学会)
- 「ロコチェックに加え、より広い年齢層でロコモの危険度を評価する『ロコモ度テスト』を発表」(公益社団法人 日本整形外科学会, 平成25年5月27日)
- 「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント」一般社団法人 日本老年医学会(2014年5月)
- “Frailty in Older Adults: Evidence for a Phenotype”Fried LP et al. (Journal of Gerontology: Medical Sciences 2001, Vol. 56A, No. 3, M146–M156)
- 「みんなのメンタルヘルス」(厚生労働省ホームページ)の「こころの病気を知る」の「病名から知る」の「認知症」
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html - 「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究 平成26年度 総括・分担研究報告書」研究代表者 二宮利治(厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業, 2015年3月)
- 「40歳からの『認知症予防』入門」伊古田俊夫(講談社, 2016年, ブルーバックス B-1988)
- 「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 総合研究報告書」研究代表者 朝田隆(厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業, 平成23年度~平成24年度, 2013年3月)
- 「性的指向・性自認について」(人事院)
- 「自己免疫疾患はなぜ女性に多いのか」塚本浩(九州大学病態修復内科学, 2002年第3回博多リウマチセミナー)
- 「医師・歯科医師・薬剤師調査」(厚生労働省)
- 「女性外来マップ」(特定非営利活動法人 性差医療情報ネットワーク ホームページ)
http://www.nahw.or.jp/hospital-info - 「病院なび」(株式会社eヘルスケア)
https://byoinnavi.jp/k01 - 「『統合医療』情報発信サイト 利用マニュアル 2016年」(厚生労働省, 「統合医療」に係る情報発信等推進事業)
- 「『統合医療』情報発信サイト」(厚生労働省, 「統合医療」に係る情報発信等推進事業) http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html
(なお、下記2編の拙稿については、本稿執筆の基礎とした)
- 「医療・介護の現状と今後の展開(前編)-医療・介護を取り巻く社会環境はどのように変化しているか?」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート, 2015年3月10日)
http://www.-research.co.jp/report/nlri_report/2014/report150310.html - 「医療・介護の現状と今後の展開(後編)-民間の医療保険へはどのような影響があるのか? 」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート, 2015年3月16日)
http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2014/report150316.html
(2017年08月03日「基礎研レポート」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
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