2017年08月03日

女性医療の現状(後編)-骨粗鬆症のリスクを減らすには、どうしたらよいか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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2|女性を総合的に診療できる女性医師・婦人科医師の充足は徐々に進んできた
診察を受けるにあたって、女性医師、婦人科医師を望む女性患者は多い。これは、女性医療では、身体の診察で視診や触診が行われることや、問診で月経・性などに関するデリケートな質問をされることが多いためと考えられる。前編の患者数に関する注意でも触れたとおり、女性医療では、統計に表れない潜在患者が存在すると言われている。これは、患者が心身の状態に違和感を感じたとしても、医師に対する羞恥心や恐怖心から、医療施設での受検や受療を躊躇してしまう恐れがあると考えられるからである。このことは、疾患の発見の遅れにつながり、受療後の患者の回復状況や、医療制度全体の効率性など、様々な面で、悪影響をもたらす可能性を有している。

このため、女性医療の拡充において、女性医師、産婦人科医師の充足は、基本的な課題となる。

(1)女性医師
まず、女性医師の数は、どのように推移しているのだろうか。日本では、女性医師は、徐々に増加しており、2014年には、6万人に達している。医師全体に占める女性医師の割合は、20%を超えている。女性医師の充足は、進みつつあると言える。
図表29. 医療施設に従事する医師数の推移
(2)産婦人科医師
一方、婦人科医師の数は、どのように推移しているのだろうか。女性医療を担う診療科は、主に、産婦人科(婦人科、産科を含む)や内科となる。このうち、産婦人科の医師を見ると、横這いで推移しているが、女性医師の数は、徐々に増加している。2014年には、産婦人科の医師のうち、3人に1人は女性医師となっている。
図表30. 産婦人科の医師数の推移
3|女性専用外来の拡充が進んできた
女性に特化して、医療サービスを行う医療施設として、一部の医療機関では、女性専用外来が設けられている。女性専用外来は、婦人科を中心に、内科、外科、精神科、皮膚科、形成外科など幅広い診療科に渡ることが多い。

通常、女性専用外来では、女性医師が、患者1人に20~30分の時間をかけて、じっくりと診察、カウンセリング、治療を行う。例えば、局部に生じた病変や、不定愁訴を伴う精神的な悩みがある場合、一般外来の男性医師による診療では、患者に羞恥心や恐怖心が伴うことがある。このような場合に、女性専用外来は、患者にとって救いの場になる、とされている。

女性専用外来を開設する医療施設は、徐々に増加している。日本では、2001年に、最初の女性専用外来が開業している72。その後、2004年までに、全都道府県で開設された。性差医療情報ネットワークのホームページに掲載されている開設病院数73を見ると、2006年3月には301病院、2014年2月には317病院で女性専用外来が開設されている。また、2017年8月には、女性専用外来を紹介するサイト74に、389病院が掲載されている。女性専用外来の拡充は、徐々に進んできているものと言える。
 
72 2001年5月に、鹿児島大学医学部付属病院に開設された。
73 「女性外来マップ」(特定非営利活動法人 性差医療情報ネットワーク ホームページ)(「2014年2月12日現在」のアドレス http://www.nahw.or.jp/hospital-info)
74 「病院なび」(株式会社eヘルスケア)(アドレス https://byoinnavi.jp/k01)


4|女性医療に関する包括的な統計データは、とりまとめられていない
女性医療は、日本に性差医療の考え方が紹介された1999年以降、徐々に浸透してきた。実際に、医師や外来施設の面で、その医療提供体制は、徐々に拡充している。しかし、増大するニーズを満たす点を踏まえれば、まだ、女性医療の体制整備が完了したとは言えない。

女性医療に関するデータ整備も、同様である。例えば、女性専用外来について、各医療施設ごとの診療実績はあっても、医療施設を横断したデータとしては、とりまとめられていない。このため、女性医療に関して、どういう悩みを持った患者がどれくらい来院するのか。通院回数や1回の診察時間はどのくらいなのか、といった情報が、日本全体の集計データとして、把握できない状況にある。

今後、日本をはじめ各国で、根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine, EBM)75の展開により、医療者の経験や、患者の価値観を、根拠と統合した上で、患者の医療を向上させ、医療の実効性を高めていくことが目標とされている。女性医療も、その例外ではない。限られた数の女性医師や、産婦人科医師を、どのように配置・活用して、女性医療の質や実効性を高めていくべきか。病院の女性専用外来をどのように拡充させて、どのような運用によって、患者のニーズに応えていくべきか。このような様々な課題を検討する前提として、まず、女性医療に関する、正確で包括的な統計データの整備が必要と考えられる。
 
75 最良の「根拠」を思慮深く活用する医療のこと。EBMは、単に研究結果やデータだけを頼りにするものではなく、「最善の根拠」、「医療者の経験」、「患者の価値観」を統合して、患者にとって、より良い医療を目指そうとするもの。(「『統合医療』情報発信サイト」(厚生労働省, 「統合医療」に係る情報発信等推進事業(アドレスhttp://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html)) より、筆者が一部改変。)


5|女性医療に関する、統合医療の展開は道半ば
女性医療は、身体的症状としての病気を治すことだけを目的とはしていない。患者が抱える心理的症状あるいは社会的な悩みを理解し、生活スタイル、精神状態など、全人的かつ包括的に、患者を診療することが求められる。

現在、医療の中核をなしている近代西洋医学に加えて、食事・運動・生活スタイルの指導や、各種の相補・代替医療を組み合わせて、提供する動きが始まっている。これは、「統合医療」と呼ばれている。統合医療について、厚生労働省の検討会では、「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更にQOL(Quality of Life: 生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」と位置づけている。

相補・代替医療の例としては、次の図表のものが考えられる。
図表31. 相補・代替医療の例
なお、日本では、相補・代替医療の多くが、保険適用とはなっていない76。今後、統合医療の展開に向けて、保険適用範囲のあり方を含めて、検討を進めることが必要と考えられる。
 
76 保険適用外の診療を一部でも含むと、混合診療となって、診療全体が保険適用外となる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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