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より多様な道のある社会 -スポーツ嫌い半減目標の波紋
基礎研REPORT(冊子版)8月号

櫨(はじ) 浩一
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1―スポーツ嫌い半減目標
スポーツ庁が2016年度に行った調査によると、運動やスポーツが嫌い、やや嫌いとする中学生は16.4%で、これを5年で半減させようという目標を盛り込んだ。理系教育でも、数学嫌いや理科嫌いが多いことが指摘され、理工系離れで日本の製造業が衰退してしまうのではということが問題化したことがある。また英語教育でも、学年が進むにつれて嫌いになる生徒の割合が高まるという問題があるようだ。
誰でも得意なものは楽しく好きになりやすいが、苦手なものは楽しくないし好きにはなれない。どこかでつまずいたり、何かの拍子に苦手意識を持ったりするようになり、楽しくないから敬遠するようになり、ますます苦手になっていくという悪循環に陥る。ここで苦手なものができてしまわないようにという親心から無理にやらせても、さらにいやな経験が積み重なって、ますます嫌いになってしまうだけだろう。インターネットに、「余計なお世話」と書き込んだ人たちの気持ちも良く理解できる。
2―「できない」ことも認める
誰もが多少努力すれば、どんなことであってもできるようになるというものではない。人には得手不得手があるので、苦手なことを無くそうとするよりも、得意なことを伸ばそうとする方が良いのではないか。
米国の学校では、得意な子供には進んだテーマを与えるなど、同じ学年の授業でもそれぞれの子供に応じて学習する内容が異なっているそうだ。それぞれの学習内容について、最低限これだけはできなくては困るというものはあるだろうが、それ以上は子供の能力に応じて得意なことを伸ばすようにすればよい。体育嫌いの話でいけば、体を動かして健康を維持するということが重要であって、これができなくてはならないというものは、それほど多くはないのではないか。得意ならばプロスポーツを目指して頑張るのも良いだろうし、苦手ならば健康維持のために楽しく体を動かすことで十分だろう。
人材育成のために教育の果たす役割が大きいことは言うまでもないが、誰もが高度な専門知識や能力を身に付けられるわけではない。できないことがあるということも認められるべきで、誰もが高等教育を受けて専門能力を付けるべきだというものではないだろう。
3―より多様な道のある社会
第二次産業が経済活動の主力だった時代には、均質な労働力を供給することが学校教育の重要な役割で、どのような仕事でも対応できるように、一定水準の能力があるようにすることが求められた。しかしAIを利用してより高度な作業も自動化することができるようになっていくと、人間に求められる能力は、創造性や独創性といった方向に進んでいくはずだ。そういう世界では、欠点や苦手が無く能力のバランスがとれていることよりも、どこかに飛び抜けたものを持っていることの方が重要になるだろう。社会が教育に求めることは、均質な人材の供給よりも、多様な人材を供給することに重点が移っていくに違いない。
また健康寿命が延びて働く期間が長くなると、時代の変化によって学校で身に付けた専門知識が古くなってしまうことも増える。一定の年齢になると学校を卒業して働き始め、一定の年齢になると一斉に引退してしまうという単線型の社会のスタイルは、維持することも難しくなるだろう。日本でも、一度社会に出て働いてから、もう一度学校で学び直したいという需要が増えて行くはずだ。
健康で生活できる期間が長くなったこともあり65歳以上を高齢者とする定義についてはもはや現状に合わないという批判がある。同じ時期に生まれた人たちが一斉に学校に行き、同じことを身に付けて社会に出て行くというように、年齢で何をする時期かが決まっているという単線的な仕組みから、各個人の事情や必要性に応じてもっと自由に仕事・学習・余暇のバランスや時期を選択できるという、複線的でより多様な道のある社会に変えていくことが望ましいのではないか。
(2017年08月08日「基礎研マンスリー」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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