2017年07月19日

海外や日本におけるクラウドワーカーの現状や課題―新しいワーキングプアや貧困・格差の拡大を防ぐ対策の実施を―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

文字サイズ

4――日本におけるクラウドワーカーの現状

では、日本の現状はどうだろうか。日本にはいくつかの調査があり、調査により数値が異なっている。まず、ランサーズ株式会社の「フリーランス実態調査2017年版」に基づき、日本におけるフリーランスの現状について話したい。同調査によると日本におけるフリーランスの数は2017年現在1,122万人で労働力人口の17%を占めており、前年に比べて5%も増加した。また、同調査ではフリーランスの経済規模は推計18.5兆円となり、対前年比15%も増加したと発表している。

フリーランスの働き方は、常時雇用がベースだが副業でフリーランスの仕事をこなす「(1)副業系すきまワーカー」、雇用形態に関係なく、複数の企業の仕事をこなす「(2)複業系パラレルワーカー」、特定の勤務先はないが、独立したプロフェショナルである「(3)自由業系フリーワーカー」、個人事業主または法人経営者で経営しているオーナーである「(4)自営業系独立オーナー」という4つのタイプに区分される。この中から副業系すきまワーカーは458万人で2016年の416万人と比べて32万人も増加しており、その増加が目立っている。政府は働き方改革の一環として正社員の副業や兼業を後押しする方針を打ち出し、年度内を目標に企業が就業規則を定める際に参考に使用できる厚生労働省の「モデル就業規則」の副業・兼業禁止規定をなくし「原則禁止」から「原則容認」に転換する方針を決めており、今後、副業系すきまワーカーはさらに増加すると予想されている。

フリーランスの平均年収は、(4)自営業系独立オーナーが平均350万円で最も高く、(2)複業系パラレルワーカーや(3)自由業系フリーワーカーは、それぞれ129万円と122万円で、(4)自営業系独立オーナーとは大きな差を見せている。一方、常時雇用がベースであるものの、副業でフリーランスの仕事をこなしている「(1)副業系すきまワーカー」の平均年収は60万円に留まっている(図表3)。

フリーランスのうちオンラインで働くフリーランスは155万人で、フリーランス全体の約14%を占めている。フリーランスの仕事に対する満足度は56%で、ノンフリーランスの36%に比べて高いという結果が出た。満足度の理由としては「自分の能力をいかせていると感じる」が54%で最も高く、次は「収入が増えた」(32%)、「ワークライフバランスが良くなった」(28%)、「ライフイベントに合った仕事ができる」(27%)、「家族との時間が持てるようになった」(27%)などの順であった。一方、フリーランスを継続する上での障壁としては、「収入がなかなか安定しない」ことが45%で最も高い割合を占めており、今後フリーランスの処遇水準改善が急務であることがうかがえる。
図表3フリーランスの収入
次は、日本におけるクラウドソーシングの現状を見てみよう。クラウドソーシングとは、在宅で仕事をするSOHOワーカーやそれに近い人たちなど、独立した存在で仕事を請ける専門家に業務を依頼することを意味し、日本では2012年頃からクラウドソーシングの利用が急増している。矢野経済研究所の調査結果によると、日本におけるクラウドソーシングの市場規模は、2011年の44億円から急速に成長し、2017年度には1,350億円に、2020年には2,950億円に増加すると推計されている(図表4)。
図表4 日本におけるクラウドソーシングの市場規模の予測
2014年にはクラウドソーシング業界を代表する企業が力を合わせてクラウドソーシング業界の活性化と健全な発展に貢献することを目的に、クラウドワークス、パソナテック、ライフネス、ランサーズ、リアルワールドを理事企業とするクラウドソーシング協会が設立された。2016 年4月12日現在、クラウドソーシング協会には、合計44社(正会員 28 社、賛助会員 16 社)が会員企業として登録されている。

クラウドワーカーに関する関心が高まる中で、日本では2010年からクラウドコンピューティングEXPOが開催されている。クラウドコンピューティングEXPOは、クラウドコンピューティングに関する製品・サービスが一堂に出展する専門展である。2017年には5月10日~12日において東京ビックサイトで第26回が開催され、NTTコミュニケーションズやソフトバンクを含めた1,600の企業が参加した。3日間の来場者数は88,725人に達している。

現在、日本でクラウドソーシングを提供している主要事業者への「登録企業数」は数十万社に至っている。中小企業庁(2014)によると、常用従業員5人以下の企業の中で、クラウドソーシングサイトに発注した経験がある企業の割合は約7割に達していた。日本経済新聞9では、2016年11月の時点で330万人に達しているクラウドワーカーは、今後IT技術の発達ともに更なる増加を見せ、2020年には1千万人まで増加すると予想している。クラウドワーカーの仕事の内容はデータの入力といった単純作業にとどまらず、人工知能(AI)の開発支援など、多様な分野まで広がっている。

総務省の「平成26年版 情報通信白書」によると、クラウドソーシングの業務案件は大きく、(1)プロジェクト形式、(2)コンペ形式、(3)タスク形式に区分される(図表5)。(1)プロジェクト形式は、相対的に規模の大きい案件であり、スキルが求められるプログラムやアプリ開発、そしてホームページの構築や記事の執筆など比較的に長期の案件が含まれる。発注方法は「報酬制」と「時給制」が適用され、1案件あたりの収入は所要時間により数千円から数百万円超まで幅広い。「報酬制」は、仕事を契約する際に成果物に対する報酬額を決め、成果物に対して報酬を支払う発注方法であり、募集時の提示金額をふまえ、クライアント(発注者)と受注者の間で条件交渉を行い、最終的な金額を決定する。一方、「時給制」は、仕事を契約する際に1時間当たりの報酬(時給)を決めて、働いてもらった時間分だけ報酬を支払う発注方法である。大手クラウドソーシング企業である「クラウドワークス」は、オンライン上のタイムカードアプリである「CWタイムカード」を利用し、受注者(クラウドワーカー)が仕事を行った時間を計測する。CWタイムカードには、クラウドワーカーが仕事をしている間のスクリーンショットやキータッチ・クリックの回数などが記録される10

(2)コンペ形式は、小規模から大規模までの幅広い案件であり、主な案件としては、ロゴやバナー作成、ネーミングやキャラクターの作成などが挙げられる。作業期間は比較的中期で、発注方法は「報酬制」を基本にしており、1案件の所要時間は数分から数時間程度で、1案件あたりの収入は所要時間により数千円から数十万円超が一般的である。

最後に、(3)タスク形式は、アンケートなどの簡単な作業を、多数の受注者に分散して依頼するケースで、スキルが求められないデータ入力 、アンケート、短文の記事作成など、比較的に小規模の案件が多い。発注方法は「報酬制」が適用され、1案件あたりの所要時間は数分程度で、1案件あたりの収入は所要時間により数十円~数百円である。
図表5 一般的なクラウドソーシングの案件例
一方、厚生労働省は、在宅ワークの実態を把握するために、2012年度から2014年度まで委託事業(委託先:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を行い、「在宅ワーカーのためのハンドブック」という報告書を発刊した。報告書では、在宅ワークに対してパソコンなどを使い、請負契約に基づき、サービスの提供などを行う在宅での仕事として定義している。なお、請負契約は、当事者の一方が、仕事を完成することを約束し、相手方が、仕事の結果に対して報酬を支払う約束をする契約である。

報告書では日本における2013年時点の在宅ワーカーの数を126.4万人(専業で在宅ワークを行う人が91.6万人、副業で在宅ワークを行う人が34.8万人)と推計している。在宅ワークの仕事による平均月収(1ヵ月あたりの手取り金額)は、「5万円以下」が27.7%で最も多く、次が「10~19万円」(18.5%)、「6~9万円」(18.0%)の順であり、9万円以下が全体の45.7%を占めていた。

在宅ワークを見つけた経路は、知人の紹介関係が27.8%11で最も多く、インターネットのプラットフォーム>を利用して仕事を見つけたと考えられるケースは13.6%(インターネットの求人情報への応募9.6%とマッチングサイトを利用4.0%)程度であった(図表6)。しかしながら、上記でも言及したように、クラウドソーシングが2012年ごろから急増していることを考慮すると、インターネットのプラットフォームを利用して仕事を見つけた者の数は調査時点と比べて大きく増加している可能性が高い。
図表6 在宅ワークの受注方法
 
9 日本経済新聞(2016)「ネットで仕事受注 クラウドワーカー330万人-3年で倍増、低賃金やスキル向上が課題」2016年11月15日日本経済新聞電子版ニュース
10 CWタイムカードは時給制の仕事の成約後に表示されるダウンロードページよりインストールできる。
11 以前の勤め先関係の知人の紹介(10.9%)、勤め先関係以外の知人(在宅ワーカーを除く)の紹介(12.0%)、他の在宅ワーカーからの紹介(4.9%)の合計。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【海外や日本におけるクラウドワーカーの現状や課題―新しいワーキングプアや貧困・格差の拡大を防ぐ対策の実施を―】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

海外や日本におけるクラウドワーカーの現状や課題―新しいワーキングプアや貧困・格差の拡大を防ぐ対策の実施を―のレポート Topへ