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まちづくりレポート|古材と一緒に家主のこころをレスキュー~リビルディングセンター・ジャパンが信州諏訪にもたらした幸福な状況

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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1――はじめに
古い窓枠を再利用した建物、たくさんのランプやバスタブが並ぶ写真を見て、このようなところが近くにあるといいなと、ひときわ興味を魅かれた。というのは、身近にあった素敵な建物が、ある日突然なくなってしまうことをこれまで何度も経験していたからだ。
その中には、年月を経た、現在では容易に建築することができないような立派なお屋敷や、個性的で味わいのある佇まいの建物があった。そのまま残せないとしても、解体するなら処分する前に再利用できるものもたくさんあっただろうにと、更地になった現場を見て心の中で嘆くしかなかった。
ところが、昨年SNS上で、「信州諏訪にリビルディングセンターをつくる!」という見出しのクラウドファンディングを募集するリンクが目に留まった。なんと、日本で始めた人がいるのだ。しかも場所は長野県の諏訪。筆者にとっては幼少期から何度も訪れた馴染みのあるまちだ。
ウェブサイトを見ると、そこに写っているのはまだ20代ではないかと思われる若者たちだった。そして、次のようにプロジェクトを説明している。
「私達の経営理念は『ReBuild New Culture』。世の中に見捨てられてしまったものに、もう一度価値を見出し世の中に出していく。ゴミだと思っていたけど、磨いたりちょっと違う使い方をしたりしてみたら、すごく素敵になるんだ。そんな体験をひとつ積める場所に、リビセンがなれればいいなと思っています。そういう文化をつくりたい」
なんという志の高さだろう。そのために、古材をレスキューして販売し、デザインを通じて古材の活用方法を提案して、カフェを併設することで古材に興味を持ってもらうきっかけをつくるとある。
筆者は今年、期待を胸に諏訪に出かけた。
1 基礎研レター「日本初の『クリエイティブリユース』の拠点とは?-倉敷玉島のまちに息づく“創造の源”を訪ねて」参照
2――レスキューする意味とリビルド・ニューカルチャーという理念
リビルディングセンター・ジャパン2は2016年9月末にオープンした。JR中央本線上諏訪駅から歩いて10分ほどの市街地の中にある。建設会社の建物を改装したというその場所は、外観こそ「事業所」という佇まいであるが、中に入ると1階はカフェで、居心地のいい空間とBGM、おいしいコーヒーが出迎えてくれる。古材だけを目的に訪れると、いい意味で裏切られるはずだ。
カフェから窓越しに、古材の販売スペースを眺めることができる。床や壁の下地や建具の造作に使われていたと思われるたくさんの板材や柱材が整理され並べてある。2階には、建具、家具、雑貨、金物など古道具の類いが、所狭しと並んでいる。
2 長野県諏訪市 http://rebuildingcenter.jp/
古材はすべて建物が解体される過程でレスキューされたものだ。代表の東野唯史(あずのただふみ)さんは、解体される建物から古材を得ることを、「レスキュー」と呼ぶ。まだ十分使え、年月を経た味わいのある古材を、廃棄処分されることから救出する。それを販売し、購入した人が再利用することで古材は生きながらえる。事業としてはとてもシンプルに見える。しかし、そこには次のような深い考えがある。
東野さんは、レスキューは誰も損をしない仕組みで健康的だという。「古材を廃棄せずに使えばごみが減り、その分廃棄にお金を掛けずに済みます。地球の環境にとっても健康的だし、レスキューされる方も、レスキューする僕らも精神的な面で健康的で、誰も損をせずに気持ちのいい関係性で回る経済が成り立つと感じます」
建物を解体する場合通常は、専門の解体業者に廃棄物処理も含めた費用を支払う。つまり解体して、処分するにはお金が掛かる。しかし、解体する建物の持ち主は、レスキューすることでその分お金を掛けずに済む。むしろリビルディングセンター・ジャパンが買い取ることでわずかながら収入になる。
解体された建築廃材は、法令でリサイクルが義務付けられている。木材の場合、粉砕してチップや繊維にし、それを固めて木質ボードという建材にリサイクルされることが多い。しかし、古材としてそのまま再利用すれば、リサイクルのためのエネルギーは必要ない。
レスキューした古材を、東京など地域の外から来た人が購入すれば、域外のお金が地域の中に入ってくる。例えば、域外からデザインの仕事を受けた際に、施工に使う古材の製材を地域の製材所に頼めば、地域の中に仕事を生み、仕事を通じたつながりをつくることができる。
さらに東野さんは、「古材を使えば、ホームセンターで販売している新しい木材を使うより絶対にかっこよくなります。それだけで部屋がよくなり、暮らしが楽しくなる」と、古材利用者にとっても利点があるという。
このように、環境にも、レスキューを依頼する人、引き受ける人、古材を使用する人、そして地域にとってもウィンウィンの関係が成り立つ。古材は誰にとっても健康的な状況をもたらす「資源」なのだ。リビルディングセンター・ジャパンは、建物の解体現場を資源が湧いている場所と見ている。
古材を日常の中で普通に使えるようにする。そのような文化をつくりたい。それが、古材をレスキューする意味であり、リビルド・ニューカルチャーという彼らの理念が意味するところである。
(2017年06月15日「基礎研レポート」)
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03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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