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企業数を絞り込んだパッシブ運用が望まれる

京都大学経営管理大学院 川北 英隆
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パッシブ運用はポートフォリオ理論に裏打ちされている。実際、アクティブ運用を行ったとして、投資パフォーマンスでパッシブを上回れないアセットマネジメント会社が数多い。では、今のパッシブ運用は望ましいのか。株式のパッシブ運用におけるインデックスの観点と、スチュワードシップ・コードの観点から考えたい。なお、アセットマネジメント会社の投資方針や能力の問題は横に置く。また、スタイル運用やスマートベータも取り上げない。
代表的なポートフォリオ理論は、「マーケット価格はすべての情報を反映している」とする。このため、アクティブに投資対象を選択したところで、マーケット全体のパフォーマンスを上回れないとの結論になる。ここで考えないといけないのは、ポートフォリオ理論がいうマーケットとは何なのかである。理論に忠実に考えると、リスク資産全体の取引市場がマーケットに近いだろう。この視点に立ち、F.ブラックはグローバルな投資を理論づけようと試みた。しかし、いまだに債券と株式を別のアセットクラスとして区分し、それぞれのアセットクラスごとに市場価格、すなわちインデックスを選定し、適当に資金配分するのが一般的である。
株式の場合、何をインデックスにするのかで、市場価格は大きく異なる。次葉に、アメリカでのインデックスの推移を図示しておく。リーマンショック後の最安値月を100としている。
図から明白なように、一般的なインデックスとNASDAQのインデックスとは価格の上昇率がまったく異なる。念のために記しておけば、図のすべてのインデックスに組み入れられているアップルはNASDAQの上場企業である。時価総額の上位を占めるアルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックもNASDAQの上場企業である。
アメリカでは、ニューヨーク株式市場で約2,400社、NASDAQで約2,900社が上場している。アメリカ市場の価格として代表的に用いられるのがS&P500、すなわち500社で構成されるインデックスである。このインデックスには上記の著名企業も含め、アメリカを代表する企業が組み込まれている。NASDAQ100は、図示した期間のパフォーマンスでS&P500を上回るが、2000年を挟んだ長期的な変動率が極めて大きいため、市場価格とみなされないのだろう。
日経平均株価はダウ工業30種(NYダウ)を模倣し、単純平均株価に基づき計算される。本家のNYダウの採用企業の株価には大きな差異がない。これに対し、日経平均株価に採用された企業の株価には千差万別と表現していいほどの差異があり、一部の値がさ株の値動きが日経平均株価を大きく左右する。このため、日経平均株価が市場価格だとされることはまずない。
TOPIXにも大きな問題点がある。インデックスの構成企業は東京証券取引所第一部市場の全上場企業、約2,000社である。一旦上場された企業は、成長が止まり、業績が少々下を向いた程度では上場廃止にならない。言い換えれば、TOPIXの構成企業は玉石混交であり、「石」の企業が市場全体の足を引っ張る。このため、TOPIXは日経平均株価の上昇率に劣後する。
TOPIXに基づいてパッシブに運用し、スチュワードシップ・コードをコンプライするのなら、2,000社との対話及び議決権行使が求められる。本気で対話と議決権行使を行うのなら、多大なコストとアナリストの投入が必要となる。片手間の対話と議決権行使なら、日本企業の経営に余計な負荷をかけ、混乱させてしまい、かえって日本の成長戦略に逆効果である。
結局のところ、TOPIX風に全上場企業の株価を集めて市場価格とするのは、衰退企業まで計算の対象としてしまい、ミスリードである。S&P500のように、市場の代表企業を選別し、計算するのが望ましい。かといって、鳴り物入りで投入されたJPX日経400は冴えない。市場規模との対比で企業数が多いからだろう。アメリカと日本の市場を比較すれば、せいぜいのところ日経平均株価と同程度の企業数が上限ではなかろうか。
(2017年06月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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