2017年05月23日

訪問介護・通所介護の現状-介護職員不足は、どのように解消すべきか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本では、高齢化が進み、介護を必要とする人の数は増え続けると見られる。介護は、在宅介護と施設介護に分けられる。施設介護では、特別養護老人ホームをはじめとした入居施設の整備が進められている。しかし、施設介護に従事するスタッフの不足などから、その進捗は緩やかなものとなっている。その結果、特別養護老人ホーム入居の待機高齢者の問題は、当面、解消されない見通しである。

そこで、在宅介護の役割が重要となる。在宅介護は、自宅などで生活をしながら、介護サービスを受けるものである。本稿では、在宅介護の二本柱である、訪問介護と通所介護を、概観していく。
 

2――介護の種類

2――介護の種類

まず、公的介護保険制度における、在宅介護を簡単に見てみよう。公的介護保険では、20種以上ものサービスが給付対象とされている。よく提供される上位10種のサービスは、次の通りとなる。
図表1. 介護サービスの事業所数
このうち、第2位の居宅介護支援は、ケアマネジャー1が、ケアプランを作成するサービスを指す。これは、これから介護サービスを受けようとする要介護者本人や、その家族と相談をしながら、介護の計画を作成するもので、主に、介護サービスの開始や見直しをする際に、行われる。

日常の介護において、多くの事業所で提供されているサービスは、訪問介護と通所介護と言える。
 
1 医師、歯科医師、看護師、介護福祉士、薬剤師、理学療法士、作業療法士、栄養士などの5年以上の実務経験(900日以上の従事日数が必要)のある人が、試験、研修、レポート提出を経て、資格を取得するもの。
 

3――訪問介護・通所介護サービスの需給

3――訪問介護・通所介護サービスの需給

次に、訪問介護・通所介護サービスの、利用者と提供者の推移を見ておこう。

1訪問介護・通所介護サービスの利用者は、増加している
要介護・要支援認定者の数は、徐々に増加している。公的介護保険制度が始まった2000年度から、2014年度までに、要介護者・要支援者の数は、2.4倍に伸びている。
図表2. 要介護・要支援認定者数の推移
2001~2015年度までに、訪問介護・通所介護の利用者は、それぞれ、1.6倍、2.3倍に伸びた。2006年度に要介護1の一部が要支援に切り替わり減少したが、その後は、増加が続いている。
図表3. 訪問介護・通所介護サービスの受給者数推移
2訪問介護・通所介護サービスの提供者は、利用者よりも大きく増加している
2000~2015年度までに、訪問介護・通所介護を提供する事業所の数は、それぞれ3.5倍、5.4倍に増加した。事業所数の伸びが受給者の伸びを上回り、1事業所あたりの利用者数は減少している2
図表4. 訪問介護・通所介護サービスの事業所数推移
また、同じ時期に、訪問介護と通所介護の職員数は、それぞれ2.8倍、4.4倍に増加した。
図表5. 訪問介護・通所介護サービスの看護・介護職員者数推移
 
2 事業所の構成を見ると、株式会社等の営利法人が70%、社会福祉法人、NPO法人、医療法人がこれに続いている。公的介護保険制度の開始から15年間、営利法人の参入が進んでいることで、介護サービス供給の厚みを増す結果となっている。
 

4――訪問介護・通所介護サービス事業の経済性

4――訪問介護・通所介護サービス事業の経済性

訪問介護・通所介護の経済性はどうなっているのだろうか。介護事業を長期に渡って運営していくためには、財務面での安定性が欠かせない。そのためには、事業の収益性の確保が必要となろう。

1訪問介護は、利用回数が少ない事業所では採算割れとなっている
訪問回数1回あたりの収入は、回数の増加とともに逓減する。訪問介護には、入浴や食事の介助など身体介護中心のものと、掃除や調理の支援など生活援助中心のものがある。介護報酬上、身体介護の方が、生活援助よりも単価が高い。通常、小規模事業所は高単価の身体介護を行うことが多い。逆に、大規模事業所は多回数で低単価を補う生活支援を志向しやすい。一方、人件費等の訪問回数1回あたりの支出は、収入を上回る勢いで減少する。これにより、利用回数が少ない小規模事業所では採算割れ、回数が多い大規模事業所では黒字確保のケースが目立ち、利用頻度により収益性が大きく異なる結果となっている。
図表6. 訪問介護サービスの収支
事業所の立地別に見ると、大都市の収益性が高い。これは、介護報酬の割増率が高い3上に、訪問回数が多いことが、その背景にあるものと見られる。一方で、地方都市などでは、収益性が低い。
図表7. 訪問介護サービスの収支
 
3 介護報酬では、地域ごとの人件費の違いを反映している。具体的には、全国を、1級地(上乗せ20%)~7級(同3%)と、その他(上乗せなし)に分けて、地域ごとの上乗せ率と、サービスごとの人件費率を用いて、報酬単価を調整している。
2通所介護は、利用者数が多ければ収益性が高い
利用者1人あたりの収入は、利用者数の増加とともに逓減する。これは、1ヵ月の延べ利用者数が多いほど、介護報酬が下がる仕組みであることによる。一方、人件費や、通所施設の減価償却費等は、それを上回る勢いで減少する。これにより、利用者数が多ければ収益性が高い、結果となっている。
図表8. 通所介護サービスの収支
事業所の立地別に見ると、大都市よりも、地方都市などの方が、収益性が高い。通所介護は、施設の費用等があるため、訪問介護に比べて人件費率が低い4。このため、介護報酬上、地域ごとの割増率の違いは、訪問介護ほど顕著ではなく、収入の差はつきにくい。一方、支出については、利用者の送迎委託費や、施設の清掃委託費等で、大都市の方が高コストとなっているものと見られる。
図表9. 通所介護サービスの収支
 
4 介護報酬上、サービスごとの人件費率は、訪問介護70%、通所介護45%とされている。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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