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介護の国際数量比較-日本の介護は、他国よりも優れているのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
高齢化は、先進国を中心に世界的に進みつつあり、各国で介護制度について議論や制度改正が行われている。そこで、本稿では、各国の介護の現状を比較し、日本の介護の特徴を見ることとしたい。
2――数量比較に際しての留意点
介護は、各国ごとに発展の歴史が大きく異なり、サービスの対象者も一様ではない。このため、本来は、そうした違いを踏まえた比較が望ましい。しかし、本稿は、各国の介護制度の詳細な分析をすることは、目的としていない。数量比較により、日本の介護の特徴を大づかみすることを主眼に置く。
通常、介護サービスは、医療と連動して行われる。例えば、高齢者が脳梗塞で入院し、リハビリテーションを経て退院したとする。症状が軽快して退院したとしても、病気が完治した訳ではなく、ケアが必要となる。介護サービスは、このような状態で行われることが多い。そこで、介護の比較では、医療の結果、介護を必要とする人がどの程度出現するか、というところから見ていく必要があろう。
本稿では、5つの評価要素を設定して、7種類の統計指標を取り上げて、データを比較していくこととしたい。なお、比較には、各国のデータをまとめた、世界保健機関(WHO)の World Health Statistics 、および経済協力開発機構(OECD)の Health Statistics もしくはHealth Data を用いることとする1。
1 図表2-1、2-2では、WHOのデータ(アドレスはhttp://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/2016/en/)、図表3以降では、OECDのデータ(同http://www.oecd.org/els/health-systems/health-data.htm)等をグラフ化して表示する。
3――介護データによる数量比較
1|日本は、欧米主要国に比べて、潜在介護期間が短い
まず、平均寿命を見ていく。日本は、女性で世界トップとなっている。男性も、トップ層に位置する。ヨーロッパでは、女性はスペイン、男性はスイスの平均寿命が長い。アメリカは、相対的に短い。
次に、健康度調整平均寿命を比較する2。この寿命で見ても、日本は、欧米主要国よりも長い。2000年から2015年にかけての変化を見ると、2つの平均寿命は同じように伸びている。その結果、2つの平均寿命の差として、介護を要する可能性がある期間(以下、「潜在介護期間」3と呼ぶ。)を計算すると、この期間の長さは、15年間であまり変化していない。この傾向は、他国でも同様となっている。
潜在介護期間は、女性で9.6~11.4年程度、男性で8.0~9.6年程度となっている。日本は、男女ともこの期間が短い。一方、女性はスペイン、アメリカ、男性はスイス、スウェーデンで、この期間が長い。潜在介護期間において、ケアの提供を通じて、QOL(Quality of Life)の改善を進めることは、各国共通の課題と言える。
2 比較には、WHOが2000年に提唱した健康度調整平均寿命(Healthy life expectancy, HALE)を用いる。これは、病気やケガのために健康を損なう期間を考慮して、「完全な健康状態」で生活できる平均年数(Average number of years that a person can expect to live in "full health" by taking into account years lived in less than full health due to disease and/or injury.(WHOのホームページに記載の定義))を意味する。厚生労働省公表の、日常生活に制限のない期間、という意味での健康寿命とは異なる。
3 「潜在介護期間」は、本稿における造語であり、一般に浸透している用語ではない点に、ご注意いただきたい。
(2017年04月10日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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