- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- >
- 証券市場 >
- 金融緩和による市場変化と成長~巨大な買い手の存在が金融市場の機能を低下させているか~
金融緩和による市場変化と成長~巨大な買い手の存在が金融市場の機能を低下させているか~

金融研究部 常務取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 サステナビリティ投資推進室長 德島 勝幸
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
現状では、日銀が水準を明示していない年限の金利水準を、どの程度の水準が適正と考えているかは不明であるし、明示されている年限の許容幅も定かではない。特に、10年を越える超長期金利の居所については、まったく不透明であるとしか言いようがない。日銀によるオペの状況を見て推測するしかないが、当然、為替や経済環境によって、適正と考えられる水準も変化する可能性が高い。結局のところ、日銀の動きを観察するしかないだろう。日銀が均衡イールドカーブ6の水準を提示すれば良いという見方もあるが、それこそが完全な管理相場の世界であり、現状は強大な絶対君主を抱いている以上、部分的な管理相場になっているだけなのである。
4 德島勝幸「これから日本経済の直面する課題」月刊資本市場2014年1月号
5 債券市場の機能度に関する2017年2月のサーベイ結果では、“高い”という回答が「0」で、“さほど高くない”が「57」、“低い”が「43」で、結果としてDIが▲43になっている。
6 均衡実質金利の集合。詳細については、今久保圭他「均衡イールドカーブの概念と計測」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ2015年6月を参照されたい。
3――国債だけでなく一般債にも歪みが生じている
債券市場には、国債以外にも地方債や財投機関債、社債といった発行体や根拠規定に基づいた複数の類型の債券が存在している。日本においては国債の発行残高が圧倒的であり、代表的な市場インデックスであるNOMURA-BPI総合の時価を見ると、国債の比率が80%以上を占めている。こうした債券種別構成の多様化の遅れは、他の先進国では見ることが出来ないとされる。日本証券業協会では“社債市場の活性化”に向けた検討と取組みを進めているが、金融機関による融資という社債と競合するファイナンス手段が巨大なプレゼンスを持ち、しかも、監督官庁から貸付残高の確保に向けた要請が存在している。その結果、事業会社の発行する社債市場が欧米並みの地位を獲得することは、難しいと考えられる。一方、債券の信用力評価の観点から、政府保証債や財投機関債、地方債については、明示や暗黙の政府保証が存在すると考えられることから、準ソブリン債と考えることもできるが、日本においては、国債の発行残高があまりにも大きいために、国債以外の債券についてまとめて“一般債”と括られることが少なくない。
発行体の信用力評価に意味がある社債に比して、準ソブリン債の場合は、信用力の要素がほとんどなく、むしろ流動性や規制上の取扱い格差が利回りに影響を与えている。つまり、一般債の利回りについては、同年限の国債利回りと国債利回りに対する上乗せ(スプレッド)の和と分解して考えることができる。これは、欧米の債券市場においても一般的な評価方法であり、信用リスクの観点からは無リスクとされる国債利回り7に対して、当該債券が有する信用リスクや流動性リスク等に由来したスプレッドが乗ると想定する8。このように考えることで、年限の異なる債券についてスプレッドの大小で比較考量することができるようになる。例えば、5年債でスプレッドが大きく乗った利回りの債券と、20年債でスプレッドがあまり乗っていない利回りの債券とが、結果的に同じような利回りとなる場合も考えられる。具体例を挙げると、2月9日に募集された兵庫県の15年債の利回りは0.504%で国債対比スプレッドは+11.5bpsであった。一方、約10日後に募集されたアコムの7年債は、利回り0.59%で国債対比スプレッドは+60bpsでプライシングされている。こうした年限も信用力等もが異なる債券の利回りを比較するのに際して、基軸となるのが国債対比スプレッドという考え方9である。
7 本来的には、無リスクと考えるべきなのは短期国債であり、長期国債については償還までの期間リスクが存在するために、理論的には長短スプレッドが乗っていると構成することが可能である。
8 マネタリーアフェアーズ現代社債投資研究会編著「現代社債投資の実務 第三版」第10章第2節2008年9月
9 スプレッドには、債券に組込まれたオプション性を組込んだ評価方法もあるが、理論的な詳細については、より専門的な書籍を参考にされたい。
(2017年03月22日「基礎研レポート」)

03-3512-1845
- 【職歴】
・1986年 日本生命保険相互会社入社
・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
・2025年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・日本ファイナンス学会
・証券経済学会
・日本金融学会
・日本経営財務研究学会
德島 勝幸のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/07/03 | 見直しを迫られる国内債券パッシブ運用 | 德島 勝幸 | ニッセイ年金ストラテジー |
2024/06/07 | アセットオーナー・プリンシプルへの期待-資産運用高度化の要 | 德島 勝幸 | 基礎研マンスリー |
2024/05/27 | アセットオーナー・プリンシプルへの期待-資産運用高度化の要 | 德島 勝幸 | 研究員の眼 |
2023/07/05 | 公的年金の「100年安心」は制度について | 德島 勝幸 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く -
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【金融緩和による市場変化と成長~巨大な買い手の存在が金融市場の機能を低下させているか~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
金融緩和による市場変化と成長~巨大な買い手の存在が金融市場の機能を低下させているか~のレポート Topへ