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生活保護と医療-医療の格差は生じていないか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
1――はじめに
2――生活保護受給者の増加
1|高齢者世帯を中心に生活保護世帯は増加している
生活保護は、社会経済情勢に連動するとされる。生活保護受給者数は、2008年の世界金融危機の時期に急増し、2014年度にピークとなった。2016年度は11月までの平均で、約215万人と高水準で推移している。生活保護世帯数も増加し、2016年度には、約164万世帯と過去最高水準となっている。高齢の夫婦のみ世帯や、単身世帯が増えており、生活保護でも高齢者世帯の増加につながっている。1
1 「平成26年版厚生労働白書」(厚生労働省)では、「(生活保護受給者の)増加の要因は、就労による経済的自立が容易でない高齢者世帯等が増加するとともに、厳しい社会経済情勢の影響を受けて、失業等により生活保護に至る世帯を含む世帯が急増している(略)こと等によると考えられる。」とされている。(第2部第4章 第1節 2 生活保護の現状と課題 より抜粋)
3――生活保護受給者に対する医療扶助の現状
1|生活保護受給者は、国民健康保険制度や後期高齢者医療制度が適用除外となる
生活保護受給者は、国民健康保険制度や後期高齢者医療制度が適用除外となる3。代わりに、医療扶助として、原則、医療費がすべて扶助される。ただし、母子保健法や障害者総合支援法等の公費負担医療が適用される人や、被用者保険の被保険者・被扶養者は、各制度で給付されない部分が、医療扶助の給付対象となる。被保護者のうち、被用者保険に加入する人の割合は、2~3%程度と見られる4。
2 この他、国民健康保険には未納者がいる。国民健康保険の保険料収納率は、2014年度に90.95%(「平成 26年度 国民健康保険(市町村)の財政状況について(速報)」(厚生労働省)より) にとどまっており、約9%の被保険者が未納となっている。
3 一方、介護については、被保護者が、医療保険未加入で40~64歳の場合、公的介護保険制度に加入せず、要介護時には介護扶助が支給される。被保護者が、65歳以上の場合や、医療保険に加入している40~64歳の場合、公的介護保険制度に加入することとなる。その場合の保険料は、生活扶助の一部として支給される。また、要介護時に公的介護保険制度から給付されない自己負担分は、介護扶助として支払われる。
4 「平成18年被保護者全国一斉調査」(厚生労働省)によると、147.3万人中3.6万人(加入率2.5%)であった。
被保護者が医療を受けるためには、福祉事務所に申請をする必要がある5。申請を受けた福祉事務所は、医療扶助の適否を判断するための資料として、申請者に対して医療要否意見書(以下、「意見書」)を発行する。申請者は、指定医療機関で意見書に記入をしてもらい、福祉事務所に提出する。意見書は、1医療機関につき1枚必要で、外来では6ヵ月ごと、入院では1回の入院ごとに1枚必要となる。入院が6ヵ月を超えた場合には、そのつど必要となる。福祉事務所は、意見書の内容を精査し、医療の要否を検討する。併せて、障害者総合支援法等の他の法律の適用を確認し、申請者の生活状況などを総合的に判断した上で、医療扶助の決定を行う。
医療扶助が決定された場合は、入院、入院外、歯科、調剤等の必要な医療の種類に応じて、医療券・調剤券(以下、「医療券」)が発行される。医療券は暦月単位で発行され、有効期間や、指定医療機関が記載される。調剤券として発行される場合は、指定医療機関の記載欄に、指定薬局名が記載される。
5 ただし、緊急を要する場合で、保護の必要があると認められれば、申請がなくても必要な保護が行われる。
医療扶助の対象範囲は、基本的に、国民健康保険と同じ内容となる6。例えば、入院費は支給されるが、本人希望で個室等に移る際の差額ベッド代は自己負担となる7。また、先進医療等の保険外併用療養費に関する医療は原則として適用されない。
国民健康保険との違いは、指定医療機関での受診が必要な点である8,9。指定医療機関以外での受診は、患者の全額自己負担となる。即ち、医療扶助では、医療へのアクセスが制限されることとなる。
6 具体的には、(1)診察、(2)薬剤又は治療材料、(3)医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術、(4)居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護、(5)病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護、(6)移送が対象。
7 しかし、病院側が治療に必要と判断した場合は医療扶助の範囲内となる。
8 医療扶助の場合、複数の病院で、同時に同じ科を受診することはできない。例えば、ある病院で受診しながら、別の病院で、セカンドオピニオンを聞くようなことはできない。
9 ただし、緊急を要する場合には、医療券を持たない被保護者でも、受診後に届け出る等の取り扱いが認められることが一般的。(具体的な手続きは、自治体により異なる。)
(2017年02月07日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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