2017年01月31日

EIOPAによる2016年度保険ストレステストの結果について(3)-EIOPAの報告書の概要報告-

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4―ストレステストの結果-(6)2次的影響の分析-

この章では、「(6)2次的影響の分析」について、報告する。

1|2次的影響
金融危機はショックに対する金融機関の反応が金融システムに打撃を与えた基本的なショックを増幅することを示してきたことから、特定のストレスに対して、個々の金融機関がどのように反応するのかを理解することは、潜在的なマクロ・プルーデンス・リスクを特定するのに役立つ。

2次的影響のマクロ・プルーデンス的な重要性は無視されるべきではないことから、今回のストレステストでは、参加会社に対して、2次的影響に関する定性的アンケートを実施している4。その目的は、全体レベルで考えた場合に、追加的なリスクを増幅したり、引き起こす可能性のある集団行動を見つけ出すことにある。例えば、資産の売却は、個々の保険会社のストレスに対する合理的な対応であるかもしれないが、そのような戦略は、多くの会社で行われた場合、元のストレスを増幅し、他の金融部門へ波及する可能性がある。

2|具体的な質問内容とそれに対する回答
具体的には、以下の質問とそれに対する回答が示されている。

(1)ダブルヒットシナリオのケースで、ショックが2~3年続いた場合の対応
70%の会社が、特に配当の抑制によって、資本水準を増加させる。59%が、商品構成を変化、特にユニットリンク型商品によりフォーカスする。利益分配の抑制(57%)や保証利率を見直す(56%)ことで、負債のリスクを再編成する。国債(45%)、投資適格金融債(22%)、非金融社債(27%)の購入で、資産のリスクを再編成する。

(2)中期的に収益性を維持するための行動
コスト、特に管理コスト(79%)、コミッション(59%)を引き下げる。商品構成を調整(70%)する。保証利率を引き下げる(57%)。

これに対して、会社編成やM&A(合併と買収)への意欲は比較的少ないか、殆ど無い。

(3)6ヶ月以内にポジションを解消しなければならない場合の市場を動かす力
多くの保険会社が自社のポートフォリオの解消は、大きな(large)又は重要な(significant)影響があると評価している。特に、国債については、それぞれ11社と36社が、大きな又は重要な影響があると評価している。しかしながら、大規模な資産売却が収益性を回復するための意図した戦略であるとは確認されておらず、むしろ回答者の約半数が国債の保有を増加させる意図を伝えている。それにもかかわらず、この意図された行動は、それが実現すれば、国債市場に重大な影響を及ぼす可能性がある。

(4)選択された重要変数に関するシナリオの影響に対するプロジェクション
多数の回答者は、ダブルヒットシナリオは、重要変数(解約率、保険契約者行動の変化(年金選択、一時金受取等)、既存契約の将来保険料、新契約の想定保険料及び保証利率)の見直しにはつながらない、と回答している。
 
4 アンケートへの参加会社数は、質問毎に異なっており、224社から235社の範囲内にある。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、前回と今回のレポートで、ストレステストの結果について報告してきた。これにより、金利や資産価格等の市場の変化に対する欧州保険会社の脆弱性と耐性力の概要が明らかになっている。

前回のレポートでは、今回のストレスシナリオに対して、多くの会社は耐性力を有しているが、一部の会社は大きな影響を受けて、十分な資本を確保できない状況も想定されることが示されている。さらには、ストレスシナリオにおいて会社が適切な資本を維持するために、LTG及び移行措置に大きく依存している国や会社がある実態も明らかにされている。

今回のレポートで報告した「デュレーション及びキャッシュフローパターン分析」や「デリバティブ分析」については、収集されたデータが限定されていること等から、分析結果は限定されている。ただし、問題意識等は示されていることから、今後さらなるデータ収集等を通じて、詳細な分析が行われていくことが期待されることになる。

次回、最終回のレポートでは、ストレステストの結果を踏まえての結論と次のステップ及びEIOPAによる監督当局への勧告、さらにはこの報告書に対する関係団体からの反応について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年01月31日「保険・年金フォーカス」)

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レポート紹介

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