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- トランプ新大統領の誕生-リーダー無き世界の到来
2017年01月11日
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1――米国第一
米国ではまもなくトランプ新大統領が誕生する。トランプ氏は「米国第一」を掲げて大統領選挙を戦い、民主党のクリントン候補を破った。このため、米国の貿易や外交政策がこれまでのような理念や原則に基づくものではなく、自国の利益を優先するものになるのではないかと懸念されている。
第二次世界大戦直後の世界経済は、主要国経済が戦災を受ける中で、米国だけが無傷という状況で、世界経済の中で、米国経済は圧倒的に大きな地位を占めていた。その後米国は世界一の超大国であり続けたが、様々な面における米国の圧倒的な優位は徐々に失われてきた。
欧州諸国の復興と日本の追い上げによって米国の貿易上の優位は徐々に失われ、1971年には金とドルの交換性を維持することができなくなり、ブレトンウッズ体制は崩壊した。ソビエト連邦が崩壊した後は、米国が軍事的には世界唯一の超大国となったが、中国などの新興国経済の急速な発展によって米国の経済的な優位性はさらに縮小していった。
第二次世界大戦直後の世界経済は、主要国経済が戦災を受ける中で、米国だけが無傷という状況で、世界経済の中で、米国経済は圧倒的に大きな地位を占めていた。その後米国は世界一の超大国であり続けたが、様々な面における米国の圧倒的な優位は徐々に失われてきた。
欧州諸国の復興と日本の追い上げによって米国の貿易上の優位は徐々に失われ、1971年には金とドルの交換性を維持することができなくなり、ブレトンウッズ体制は崩壊した。ソビエト連邦が崩壊した後は、米国が軍事的には世界唯一の超大国となったが、中国などの新興国経済の急速な発展によって米国の経済的な優位性はさらに縮小していった。
2――格差問題が背景に
最大の経済大国である米国は、世界経済がグローバル化することで最も多くの利益を得る。このため米国は貿易自由化を推進してきた。しかし米国内にはグローバル化の恩恵を得る人達と、マイナスの影響を受ける人達ができてしまい、格差は拡大した。
予備選挙では格差問題を取り上げたサンダース上院議員が予想外の善戦を演じ、世界を驚かせた。トランプ氏を大統領に押し上げたのは、移民の流入や外国製品の流入が自分達の職を奪っていると感じている人達の票だ。トランプ氏は、こうした人たちの利益を優先させる立場からTPPに反対してきた。
トランプ氏が選挙戦で掲げた政策が格差問題を改善できるとは思えないが、選挙の結果は、これまで格差の拡大に有効な対策を講じることができなかった既存の政治に対する不信感の現れだと言える。
米国による単独行動を回避してきたオバマ大統領の外交政策は、米国の力が相対的に低下してきたという現実を反映したものだった。誰が大統領になったとしても、米国がより自国の利益を優先するようになるという大きな流れは変わらなかっただろう。
予備選挙では格差問題を取り上げたサンダース上院議員が予想外の善戦を演じ、世界を驚かせた。トランプ氏を大統領に押し上げたのは、移民の流入や外国製品の流入が自分達の職を奪っていると感じている人達の票だ。トランプ氏は、こうした人たちの利益を優先させる立場からTPPに反対してきた。
トランプ氏が選挙戦で掲げた政策が格差問題を改善できるとは思えないが、選挙の結果は、これまで格差の拡大に有効な対策を講じることができなかった既存の政治に対する不信感の現れだと言える。
米国による単独行動を回避してきたオバマ大統領の外交政策は、米国の力が相対的に低下してきたという現実を反映したものだった。誰が大統領になったとしても、米国がより自国の利益を優先するようになるという大きな流れは変わらなかっただろう。
3――先進国の影響力低下
世界経済における米国経済の相対的な地位の低下は、緩やかながら今後も続くだろう。新興国経済が大きな失敗を続けない限り、21世紀半ばには中国の経済規模が米国を上回るようになるだろう。
21世紀末には人口が16億人を超えて中国の約1.5倍となるインドが世界一の経済大国となっている可能性が高い。インドは世界経済の約2割を占める最大の経済となり、中国が16.4%を占めてこれに次ぎ、米国は12.6%で世界第三位に後退する。ユーロ圏は7%弱、日本と英国は2%を下回る規模となると予想される。米国だけでなく欧州と日本が加わっても、中国やインドの協力無しには世界経済の安定を維持することは困難だろう。
人口が大きく増加するアフリカは貧しいままだと仮定したが、アジア諸国のように経済的な離陸に成功すれば、先進諸国経済が世界経済に占める割合は更に低いものになる。
第一次世界大戦前の英国や第二次世界大戦後の米国は、世界一の経済大国であると同時に世界で最も豊かな国でもあった。しかし、経済超大国となる中国やインドは、一人当たりの所得で見るとそれほど豊かな国ではない。中国やインドが米国の経済規模を上回るようになっても、その時点での一人当たりGDPは米国の四分の一程度に過ぎない。いまだに貧しい中国やインドは、世界を安定化させるために主体的に行動するという負担を回避しようとする可能性が高い。
世界経済の重心が米国からアジアへと移動する中で、世界経済はリーダーのいない世界に突入し、再び1930年代のように不安定な時代を迎える恐れがある。
21世紀末には人口が16億人を超えて中国の約1.5倍となるインドが世界一の経済大国となっている可能性が高い。インドは世界経済の約2割を占める最大の経済となり、中国が16.4%を占めてこれに次ぎ、米国は12.6%で世界第三位に後退する。ユーロ圏は7%弱、日本と英国は2%を下回る規模となると予想される。米国だけでなく欧州と日本が加わっても、中国やインドの協力無しには世界経済の安定を維持することは困難だろう。
人口が大きく増加するアフリカは貧しいままだと仮定したが、アジア諸国のように経済的な離陸に成功すれば、先進諸国経済が世界経済に占める割合は更に低いものになる。
第一次世界大戦前の英国や第二次世界大戦後の米国は、世界一の経済大国であると同時に世界で最も豊かな国でもあった。しかし、経済超大国となる中国やインドは、一人当たりの所得で見るとそれほど豊かな国ではない。中国やインドが米国の経済規模を上回るようになっても、その時点での一人当たりGDPは米国の四分の一程度に過ぎない。いまだに貧しい中国やインドは、世界を安定化させるために主体的に行動するという負担を回避しようとする可能性が高い。
世界経済の重心が米国からアジアへと移動する中で、世界経済はリーダーのいない世界に突入し、再び1930年代のように不安定な時代を迎える恐れがある。
(2017年01月11日「基礎研マンスリー」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2020/03/06 | 不安の時代ー過剰な貯蓄を回避する保険の意義 | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研マンスリー |
2020/02/27 | MMTを考える | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研レポート |
2020/02/07 | 令和の日本経済はどうなるか-経済予測の限界と意義 | 櫨(はじ) 浩一 | 基礎研マンスリー |
2020/01/31 | 不安の時代~過剰な貯蓄を回避する保険の意義~ | 櫨(はじ) 浩一 | エコノミストの眼 |
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