2016年12月12日

歯科医療の変化-かかりつけ歯科医は何をすべきか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

文字サイズ

2|歯科医療は、形態から機能への変化が求められるようになった
従来、歯科治療は、いかに歯の形態を回復させるか、ということに主眼が置かれてきた。しかし、健診により早期に虫歯や歯周病を見つけ、悪化する前に治療を始めるケースが増えている。これにより、抜歯せずに歯を残しつつ、咀嚼(そしゃく)や構音等の口腔機能を取り戻すことへ、口腔ケアの目標が変化しつつある。つまり、形態回復から、機能重視に軸足を移した歯科医療が進められている。

また、次節に示すとおり、口腔機能と全身機能の関連も明らかにされつつある。口を、消化や呼吸の入り口と捉えて、全身疾患の予兆を把握すべく、口腔を診る歯科医療が始められている。行政サイドからは、都道府県の地域医療計画策定(2013年~)に先立って、2012年に厚生労働省より局長通知が出されている。そこでは、5疾患・5事業18及び在宅医療に、歯科口腔保健の推進が求められている。
図表22. 歯科医療機関の役割
健康増進の面でも、歯の健康は注目されつつある。2013年スタートの健康日本21(第2次)に先立って、2012年に国民の健康の推進に関する基本的な方向が示された。その中で、5つの要点がまとめられており、その5番目に、「栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣及び社会環境の改善」が示されている。このように、栄養・食生活などと同様に、歯・口腔の健康についても、生活習慣や社会環境の改善が必要とされている。

歯科疾患を予防することで、歯を残すことができ、口腔機能が保持され、生涯にわたる健康増進につながる、というストーリーの実現に向けて、医療分野と保健分野のそれぞれで取組みが進められている。具体的には、医療分野では、歯を残す技術の向上が図られている。一方、保健分野では、成人歯科健診プログラム等の保健システムの構築が進められている。
 
 
18 5疾患とは、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患を指す。5事業とは、救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療を指す。
3|口腔ケアと全身疾患の関連性が明らかになりつつある
これまでの医学研究で、多くの病気が口腔内の疾患に関係していることが明らかにされている。特に、海外の医学研究所や国内の大学では、研究が進められている。

その中で、医学研究者や医療関係者の間で、「病巣感染」という概念が浸透している。これは、「身体のどこかに限局した慢性疾患(一次病巣)があり、それ自体はほとんど無症状か軽微であるが、それが原因となって遠隔の諸臓器に反応性の器質的、あるいは機能的障害を引き起こす病態(二次病巣)」を指す19。病巣感染の一次病巣は、扁桃と口腔内がほとんどを占めると言われる。慢性口腔感染による病巣感染や、病気の例として、次のようなまとめが示されている。
図表23. 慢性口腔感染 (咽頭感染、虫歯・歯周病、慢性扁桃炎)が、他の病気を生ずるメカニズム
病巣感染により、歯科患者が、口腔以外の臓器に病気を抱えている場合がある。このような患者に対して、医療や介護を行うためには、歯科医療関係者だけではなく、医科歯科連携、多職種連携といった、連携が不可欠と考えられる。
 
 
19 「医者は口を診ない 歯医者は口しか診ない」相田能輝 (医薬経済社) での定義に、筆者が括弧書き部分を加筆。


4|歯科の予防管理が浸透しつつある
歯科診療所では、歯科治療のみならず、虫歯や歯周病になる前の予防管理の動きが広がっている。2014、15年に行われたアンケート調査によると、フッ化物歯面塗布20を行った歯科医院の割合は、約8割、歯周疾患等の予防管理を行った割合は、約9割に上っている。歯科診療所は、補綴やインプラントといった実際の処置だけではなく、予防管理を充実させるような変化が求められている。
図表24. 過去1ヵ月に実施した予防処置
 
 
20 歯に直接、高濃度のフッ化溶液を作用させる予防法。フッ化物の過剰摂取による中毒症状を防ぐため、歯科医師と歯科衛生士だけが実施でき、幼児や小児期の虫歯予防法として定着している。
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【歯科医療の変化-かかりつけ歯科医は何をすべきか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

歯科医療の変化-かかりつけ歯科医は何をすべきか?のレポート Topへ