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「130万円の壁」を巡る誤解-2016年10月からの適用要件拡大の意味を正しく理解する
基礎研REPORT(冊子版) 2016年12月号

松浦 民恵
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1――「130万円の壁」は10月からどう変わったのか
社会保険料負担は社員と企業の双方に生じることから、就業調整のインセンティブも双方に生じる。この点を踏まえると、社会保険についても、女性の就業の観点から、見直しの議論が広がることが期待されるところである。
ただ、そのためには、社会保険の現行の仕組みを、まずは正しく理解する必要がある。ちなみに、国民年金法等の一部を改正する法律3により、2016年10月からは、これまでは社会保険が適用されていなかった短時間労働者も、以下の要件(学生は適用除外)に合致すれば社会保険が適用されることになった4。
- 所定労働時間が週20時間以上
- 月額賃金8.8万円以上
- 雇用期間1年以上5
- 従業員数501人以上
しかしながら、「130万円の壁」そのものについても、10月からの社会保険の適用要件拡大についても、少なからず誤解されているケースが多く、正しい理解が十分に広がっていないことが懸念される。
そこで、本稿では、社会保険の適用要件拡大に関する代表的な3つの誤解を取り上げ、「130万円の壁」の何が変わるのかについて解説したい6。
2――「130万円の壁」が「106万円の壁」に変わるという誤解
まず、10月に改正されたのは適用要件だけであり、被扶養者枠の基準は変更されていない(年収130万円のまま)。もともと、社会保険の主な適用要件は、「通常の就労者」(フルタイム勤務)の所定労働時間・日数の概ね3/4以上であることとされてきた。したがって、理論的にはこれまでも、この適用要件に合致していれば(3/4以上勤務していれば)、年収130万円未満でも社会保険が適用されなければならなかった(自動的に被扶養となる意味がなくなるので、被扶養からも外れる)。
つまり、被扶養者枠は、あくまでも国民年金の第3号被保険者や健康保険の被扶養者になれるかどうかの判断基準であり、年1回を目処に健康保険組合等によって判断される*7。一方、適用要件は社会保険を適用しなければならない(社員にとっては勤務先で厚生年金保険や健康保険に加入しなければならない)基準であり、被扶養者枠に入っているかどうかにかかわらず、適用要件に合致していれば社会保険が適用される。
結果として、所定労働時間・日数および今回新たに新設された適用要件に合致しているかどうかによって、社会保険の被保険者区分は図表1のように分かれることになる。図表1のうち、赤字部分が、今回の改正による変更部分である。
3――社会保険の適用が年収(106万円)で判断されるという誤解
被扶養者枠の判断基準と混同して、適用要件の月額賃金8.8万円も年収ベースで判断されるのではないかと誤解されがちであるが、適用要件の判断の拠り所となる「8.8万円以上」はあくまでも月収(月額賃金)であり、年収ではない。月額賃金8.8万円以上の社員が社会保険を適用され、結果として年収が106万円未満となったとしても、税金のように還付されることはなく、既に支払った社会保険料は戻ってこない。
4――社会保険の適用を判断する月額賃金に、残業代・通勤手当・賞与も含まれるという誤解
しかしながら、改正によって拡大された適用要件に合致するかどうかを判断する月額賃金は、残業代・通勤手当・賞与を含まない「所定内の賃金」であり、雇用契約書等に記載されている予め決まった額が基準となる。あくまでも社会保険を適用すべきかどうかを判断するためのものであることから、わかりやすさ、明確さが重視されたと考えられる。
社会保険の被保険者区分の判断は、今回の改正でより複雑になっており、前述したように正しい理解が十分に広がっていない懸念がある。しかしながら、社員が自分自身の働き方を選択するうえで、企業が法令を遵守しながら社員の労働条件を検討するうえで、さらには女性の就業の観点から社会保険の仕組みについて議論していくうえでも、制度の正しい理解は不可欠である。本稿がその一助となれば幸いである。
【参考URL】
厚生労働省「平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がります!(社会保険の適用拡大)」
なお、最近になって、配偶者控除を103万円よりもむしろ拡大するという議論が浮上してきている。
(2016年12月07日「基礎研マンスリー」)
松浦 民恵
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