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ESG投資と統合思考のために-「サステナビリティのメガトレンド」を背景にビジネス・パラダイムの大転換

川村 雅彦
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世界のESG投資市場の拡大を牽引しているのは欧米の公的年金基金などの機関投資家であり、その根拠となっているのが国連責任投資原則(UNPRI;Principles for Responsible Investment)である。その前文に投資家の社会に対する責任が明記されており、そこから「責任ある投資(RI)」という言葉が生まれた。ただし、最近では「ESG投資」と呼ばれることも多い。
SRIからSを取ってRIとしているのは、倫理観の印象が強い従来型のSRIとは狙いが異なることを打ち出すためであろう。既に述べたように、企業評価にあたっては財務情報だけでは不十分であり、受託者責任には非財務 (ESG) 情報を考慮することは適切という考え方が根底にある。言い切ってしまえば、むしろESGに配慮しないことは受託者責任に反することになろう。それゆえ、この新しい解釈がESG投資を加速化させているようだ。
このことから、本来あるべき長期投資の姿とは、財務情報と同じようにESG情報を考慮することが当たり前になるとであり、現在まさに過渡期にあると考えることができる。参考として、図表8に日本版スチュワードシップ・コードと対する形で、国連責任投資原則(前文と6原則)を示す。
機関投資家が中長期的な企業の価値創造に向けて、企業との適切なエンゲージメントを図るに当たっては、企業は投資家にとって投資判断に有用な形でESG情報を開示することが不可欠である。投資家側からみれば、企業から様々なESGパフォーマンスのローデータを詳細に開示されても、その意味するもの(アウトカム)をほとんど理解できないだろう。
さらに、企業はKPIによる中長期のビジョンや経営戦略がどのようなメガトレンド予想の下で、自社のポジショニングをどのように考えているかを説明できることが不可欠である。もちろん、機関投資家も「実力」を醸成する努力は必要ではあることは言うまでもない。
(1)IIRCの求める統合思考
2013年末にIIRC(国際統合報告評議会)が、ESGを含む企業戦略や企業価値のあり方を報告する枠組みである「国際統合報告フレームワーク」を公表した(図表9)。これを契機に、世界的に“統合型”報告書を発行する企業が増え、日本でもこの数年で増加し、昨年12月末には200社を超えた。世界ではユニークで長期的な視点から企業価値創造を報告している企業も散見されるが、日本企業はなお模索中とはいえ、財務・非財務情報の単なる合体である“合冊報告書”も少なくない。
具体的には長期的な社会的課題のうち何が経営上重要な課題か、将来に向けてどのような経営上のリスクと機会があるのか、それらに対してどのようなビジネスモデル、あるいはガバナンス体制で対応し、どのようにして中長期的な経済価値、さらにはそれらの課題解決を含む社会価値を創造していくのかを分かりやすく簡潔に開示するものである。そのために強調されるのが「統合思考」である。
つまり、統合報告書を読めば、投資家はCSR経営やその結果の背後にある経営戦略的な意味を把握できるようになることが期待される。企業側としても、従来網羅的に行っていたCSR報告を、企業価値創造の面から見直して優先順位を付けるための良い動機付けとなる。
(2016年10月21日「基礎研レポート」)
川村 雅彦
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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