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社会保険料の帰着に関する先行研究や非正規雇用労働者の増加に関する考察

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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1――はじめに
実際、非正規職(正社員・正職員以外)の月平均賃金水準は正規職(正社員・正職員)の63.7%水準1に留まっており、また非正規職の社会保険加入率は正規職のそれを大きく下回っている2。
本稿では社会保険料の賃金や雇用への帰着に関する先行研究を考察するとともに、パネルデータを用いて企業における非正規労働者の決定要因に関する分析を行った3。
1 厚生労働省(2014)「平成26年賃金構造基本統計調査結果の概況」。
2 雇用形態別社会保険加入率の詳細は、金明中(2016)「日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―」が詳しい。
3 本稿は、金明中(2015)「非正規雇用増加の要因としての社会保険料事業主負担の可能性」『日本労働研究雑誌』No.659を引用・修正しており、パネルデータによる実証分析の結果を新しく追加した。
2――社会保険料の帰着に関する先行研究の考察
Holmlund(1983) はスウェーデンにおける時系列データ(1950年から1979年まで)の時間当たり賃金率、生産者物価指数、消費者物価指数などを用いて、事業主が負担する社会保険料率(payroll tax)の増加の賃金への帰着に関する分析を行った。実際、スウェーデンにおける事業主負担の社会保険料は1950年の6%から1970年代末には40%まで引き上げられた。分析ではこのように高い保険料率は企業の利益減少をもたらしたものの、実際に引き上げられた事業主負担の約50%は労働者の賃金に帰着(賃金の削減)していると説明している。
Summers(1989)は、社会保険料の事業主負担が賃金と雇用に与える効果に対して言及しており、社会保険料の事業主負担は労働需要曲線に影響を与え、雇用者が実際に受け取る賃金の低下をもたらすものの、必ずしも雇用量の減少がもたらされるとは限らない、つまり賃金は減るが、雇用量についてはわからないと説明している。
Gruber and Krueger(1991)は、Summers(1989)の主張を簡単な公式を利用してより具体的に説明している。彼らは労働供給曲線を





式(1)は、事業主が負担する保険料の変化に対する賃金の変化を示しており、




式(2)は、事業主が負担する保険料の雇用への影響を示している。式(2)は義務づけられた健康保険により影響を受けた雇用量(




Gruber(1997)は、チリにおける給与税4改革と社会保険制度の民営化に注目して分析を行った。1981年の改革は、社会保険制度を民営化することによって公的社会保険の財源を雇用主による給与税から一般歳入に移転させ、事業主の社会保険支出に対する負担を大きく減少させた。彼はこのようなチリの急速な給与税の変化に着目し、1979~1986年までの事業所データ5を用いて社会保険制度に対する財源移転が労働市場に与える影響を分析した。その結果、企業の給与税負担の減少は、雇用には大きな影響を与えず、より高い賃金という形で賃金に転嫁されていると結論づけている。
日本の研究としてはKomamura and Yamada(2004)、岩本・濱秋(2006)、Tachibanaki and Yokoyama (2008)などが挙げられる。
4 給与税は社会保険料とその他の給与税を含めている。
5 事業所の賃金と税金関連データを含めている。
(2016年10月20日「基礎研レポート」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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