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群れ戦略か、縄張り戦略か-生き残りに向けて、環境変化にどう対応すべきか?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
その中で、群れと縄張りという、対照的な2つの戦略について紹介したい。生物の集団が、環境に適応して生き延びていく様子には、個体が集合する群れ戦略と、個体が分散する縄張り戦略が観察できる。
群れ戦略には、いくつかの利点がある。まず、1つ目に、群れることで周囲への警戒監視機能が向上する。天敵が接近してくるリスクに対して、各個体がそれぞれ、全方位を四六時中監視することは難しい。しかし、群れを作り、分担して監視すれば、常時警戒することが可能となる。2つ目に、もし、天敵に襲われたとしても、捕食される個体の数は限られ、大多数の個体は生き延びることとなる。つまり、各個体にとって、捕食されるリスクは薄まることとなる。
このように群れ戦略は、天敵への警戒を高められ、各個体の捕食のリスクを減らすことができることから、イワシのような魚や、シマウマのような動物でよく観察される。ただし、群れ戦略には欠点もある。群れが極端に大きくなると、群れの中での餌の奪い合いが深刻になったり、群れ社会の中の上下関係が複雑化したりする。そして、争いごとが増えていくのである。
これに対して、縄張り戦略は、個体が分散することで、限りある資源を分かち合うことを目指す。縄張りがうまく機能すれば、各個体はお互いに、ほどよい距離を保ちながら、自分の縄張りの中の餌を独占できる。また、繁殖のためにも縄張りが有効である。繁殖行動や子育ての際に、縄張りがあることで、巣作りをして、安定的に生活することができる。
縄張り戦略は、肉食動物のトラや、魚のアユなどで観察される。しかし、縄張り戦略も、うまくいかないことがある。資源に対して、個体の数が多過ぎると、縄張りを作れない個体が出てくる。すると、そうした個体が縄張りを侵すことを防ぐ為に、縄張りの主は、警戒を怠れなくなってしまう。こうなると、縄張りの中で、悠然と餌を独占することは難しくなる。
このように見ていくと、どちらの戦略にも、一長一短があることがわかる。これらには、人間社会にも当てはまる要素が多い。例えば、企業で働く従業員は、群れ戦略をとっていると言える。企業を取り巻く様々なリスクへの警戒を高めて、その存続を図り、対価の報酬・給与を受け取ることで、生活を営んでいる。しかし、企業の中には、社会ができて、そこでの人間関係が問題を引き起こすこともある。例えば、一部の従業員が怠けて機能を十分に発揮しなかったり、ポストの奪い合いなどで従業員間の派閥争いが生じたりして、業務が非効率になってしまうことがある。
一方、縄張り戦略は、新たな産業分野で、ベンチャー企業のオーナーが、新規技術により優位性を持つケースなどに見られる。特許により、新規技術を知的財産化して、縄張りを強固にすることができれば、そこで安定的な事業運営が可能となる。しかし、特許取得前に、類似の新興企業が出現して、市場を奪い合うようなことになれば、縄張りを保つことは難しくなる。
この2つの戦略には、優劣はつけられない。例えば、いつも群れ戦略をとる生物の集団は、環境への適応がうまくいかないと、全滅してしまうことがある。一方、縄張り戦略に固執していると、個体数が増えてきた場合に、いさかいが絶えず、各個体が疲弊してしまいかねない。
そこで、企業や個人の置かれた状態によって、2つの戦略を使い分けることが重要となる。例えば、縄張り戦略をとるアユは、個体数が増えて、その戦略の優位性が薄れると、群れ戦略をとるようになる。この例からも学べるように、大切なことは、1つの戦略に固執するのではなく、臨機応変に戦略を使い分けることである。周囲の環境を見ながら、どちらの戦略を取るかを臨機応変に変えていくという戦略は、「メタ戦略」と呼ばれる。メタ戦略を実施する際は、周囲の環境変化を察知する能力が不可欠となる。
また、メタ戦略は、戦略の多様性を増すことも意味する。群れ戦略か、縄張り戦略かの二者択一ではなく、その2つの戦略をどのように組み合わせるかで、多くのメタ戦略が考えられる。このことは、多様な考え方や価値感を生み出すことにつながる。十分な多様性があれば、環境の変化があっても、生物の集団全ては死滅せずに、生物種として、生き延びる可能性が高まるだろう。
アユがどのように2つの戦略を使い分けているのか、興味深い。関連する生物学の調査・研究の進展を期待したい。われわれ人間も、アユを見習って、周囲の環境を見ながら、柔軟な戦略をとることが必要と思われるが、いかがだろうか。
(2016年10月06日「研究員の眼」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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