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導入迫るリスク分担型企業年金-DB制度改正(案)の概要とリスク分担型企業年金への移行時に留意すべきポイント

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
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加入者・受給者の給付減額リスクを抑えるには、より効率的な運用を実践することも重要である。リスク・リターン効率を高めることは、深刻な運用損失を被るリスクを抑えることであり、通常のDB運用においても、年金財政の安定化を図る目的から、当然のこととして取り組まれているものと思われる。ただ、リスク分担型企業年金で、財政悪化リスク相当額の算定に標準方式を適用する場合には、特に意識すべき点もある。それは、財政悪化リスク相当額に合算される価格変動リスク相当額の算定において、「内債・内株・外債・外株・一般勘定・短資」の6資産は、各資産の過去の価格変動リスクを考慮した値としてリスク係数が設定されているのに対し、“その他”に対応するリスク係数は、6資産のリスク係数を6資産の構成割合で加重平均した値として計算され、“その他”の資産区分に対応する実際の運用リスクが考慮される訳ではない点である。仮に、資産構成が「内債91%、その他9%」の場合には、“その他”のリスク係数は内債と同じ5%が適用されることになり、その結果として、価格変動リスク相当額は、積立金合計の5%として算定されることになる。“その他”の資産区分の実際の運用リスクが5%4を大きく超え、それに伴いポートフォリオ全体のリスクも5%を大きく超える場合には、価格変動リスク相当額ではカバーしきれない積立金の減少が、より高い頻度で発生することになる。以上は極端な例であるが、こうした事例を踏まえながら、“その他”に区分される運用については、よりリスクが低く、ポートフォリオ全体のリスク低減に繋がるような、他の6資産との相関が低い運用を志向する必要があると言える。
以上の点を確認するため、“その他”に区分される運用と他の6資産との相関係数を、+0.47、±0、▲0.47とする3通りのケースで、20年後の給付水準を比較した。なお、“その他”の資産構成割合は8.7%とし、残りの6資産については、3章の資産構成で合計が91.3%(=100%-8.7%)となるように設定した。また、“その他“の期待リターン・リスクは、それぞれ2.5%、8.5%としている。ちなみに相関係数+0.47 は、3章の資産構成で計算されるポートフォリオとリスクが同水準になるような水準である。企業のリスク負担割合は50%とし、その他の前提は3章と同様とした。
図表8がシミュレーション結果である。この結果から、相関係数が低いほど、20年後の給付水準の振れ幅(上位5%水準-下位5%水準)が小さいこと、下位5%の給付水準が相対的に高いことを確認できる。ポートフォリオのリスクは、相関係数+0.47のケースで5.7%、±0のケースで5.3%、▲0.47のケースで4.8%であり、ポートフォリオのリスクが抑制される結果として、給付減額リスクが抑えられたものと理解できる。
以上のように、リスク分担型企業年金で、標準方式により財政悪化リスク相当額を算定する場合には、特に“その他”に区分される運用について、慎重さが求められると言える。
4 運用リスクが5%とは、リターンの標準偏差が5%であり、期待リターンを5%以上下振れる確率が約16%、つまり、6~7年に一度の頻度で生じる可能性があることを意味する。
5――リスク分担型企業年金の健全な発展に向けて
一方、リスク分担型企業年金は、制度全体のリスクを労使で分担する仕組みであるため、企業にとっては通常のDB制度よりも経済的な負担が軽い制度と言える。リスク負担者が労使のいずれかに偏る通常のDB制度とDC制度の中間的な企業年金制度であり、少なくとも、企業の選択肢を拡げるという点で導入の意義は大きい。また、リスク分担制度は企業の拠出義務が限定されるため、退職給付会計基準上では確定拠出制度に分類され、規約に基づき予め定められた各期の掛金額を、各期の費用として処理する取り扱いとされる見込である。国債利回りの低下を通じた退職給付債務の拡大が、企業会計に大きな影響を及ぼしているDB制度とは異なり、企業にとっては企業会計上も魅力的と考えられる。ただし、リスク分担型企業年金は、加入者・受給者もリスクを負担する制度であるため、移行にあたっては、加入者・受給者のリスクを軽減する努力も求められる。その際に留意すべきポイントは、積立状況の考慮と運用効率の向上である。
移行時の積立状況によって、制度全体で負担すべきリスクに違いが生じることは既に確認した通りだが、この点に限定すれば、現在はリスク分担型企業年金への移行を検討する好機とも捉えられる。企業年金連合会の資料によれば、DB制度の平均的な積立比率(積立金/責任準備金)は、2013年度に119%、2014年度には125%にも達する。2015年度以降の運用環境の悪化を考慮しても、足元で積立剰余を確保している制度は多いものと推測されるためである。ただ、積立状況は市場環境に大きく左右され、自らコントロールすることは難しい。リスク分担型企業年金への移行を、市場任せにするというのは現実的とは言えない面もあるため、積立状況については参考程度に留める必要もあるかもしれない。
一方、運用効率の向上は、自主的に取り組むことができるという点で、優先度は高い。通常のDBにおいても、運用効率を高めるための検討が日常的に行われており、限界もあろう。ただ、リスク分担型企業年金ならではのリスク軽減方法があるようにも思われる。“その他”の運用のあり方を含め、ポートフォリオ全体のリスクを如何に抑えるか、特に、財政悪化リスク相当額に対する相対的なリスクを如何に抑えるかが、給付減額リスクを軽減する上でのポイントである。リスク分担型企業年金の導入や通常のDBからの移行を検討するのであれば、こうした制度の特性に合った運用の効率化を図るべく、資産全体の運用の在り方を再検討する必要がある。
リスク分担型企業年金は、労使間で柔軟にリスクを分担できるところに特徴がある。しかしながら、制度全体のリスクを単に分担するという視点だけでなく、リスクの総量を軽減する検討も欠かせない。こうした検討を重ね、加入者・受給者のリスク軽減を図りながら、最終的に労使双方が納得できる制度としてリスク分担型企業年金が有効活用されることが重要である。リスク軽減に向けた取り組みが進められるなかで、リスク分担型企業年金が健全に普及・拡大していくことに是非とも期待したい。
(2016年09月30日「基礎研レポート」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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