- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 雇用・人事管理 >
- 働き方改革はどこに向かうのか~時間制約のあるフルタイム勤務への「移行」と「多元化」
働き方改革はどこに向かうのか~時間制約のあるフルタイム勤務への「移行」と「多元化」
松浦 民恵
このレポートの関連カテゴリ
1―働き方改革の3つの背景
働き方改革に取り組む企業が増えている。NTTデータ経営研究所/NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションの調査によると、「働き方変革」に取り組んでいるという回答割合は、2015年の22.2%から2016年には32.1%と、この1年間で約1割増加している(図表-1)。これまでも働き方改革に取組んできた企業はあったが、ここにきてこのように取組が活発化してきているのはなぜなのか。
本稿では、まず、働き方改革が活発化している背景について述べる。そのうえで、働き方改革の取組内容を概観し、取組の方向がどのような流れにあるのかについて考えてみたい。なお、「働き方」という言葉は多様な意味を包含して用いられることが多いが、本稿では労働時間に焦点を当てる。つまり、本稿でいうところの「働き方改革」とは「長時間労働を抑制しようとする取組」を指し、年次有給休暇の取得促進や、育児や介護の短時間勤務の拡大等のワーク・ライフ・バランス支援は検討の対象から除外する。
働き方改革が活発化している背景の一つ目として、働き方改革がダイバーシティ・マネジメントのインフラとして不可欠であるという認識が広がってきたことがあげられる。とりわけ働く時間に制約がある社員にとって、長時間労働は、生産性の向上、就業継続を含むキャリア形成のいずれに対しても阻害要因となる。
折しも、2016年4月に女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が施行され、従業員数301人以上の企業は、数値目標を含む一般事業主行動計画の策定・提出・周知、さらには女性の職業選択に資する情報の定期的な公開が義務付けられた。この情報公開の項目(選択肢)のなかにも、「労働者の1月当たりの平均残業時間」が盛り込まれている。
背景の二つ目として、働き方改革が社員の生産性向上につながると、期待されていることがあげられる。山本・黒田(2014)1は、労働者と企業の調査データの分析から、「(前略)長時間労働、とりわけサービス残業が労働者のメンタルヘルスを毀損する可能性が示唆され、またメンタルヘルスを毀損した労働者が多い企業ほど、中長期的にみると企業業績が悪くなる傾向にあることが示唆された」(318-319頁)としている。長時間労働を前提とする働き方が、メンタルヘルスをはじめとする社員の健康、ひいては生産性にマイナスの影響を及ぼしているという認識が、働き方改革の取組を後押ししている。
また、働き方改革は、社員の新しい発想やアイディアの創出につながることが期待されている。図表-2は、「部下が『仕事以外に大事にしたいこと』を行うことは、仕事面でも以下のような効果が、どの程度あると思いますか」という問いに対する、管理職の回答結果である。「疲労感を解消し、健康を維持すること」のみならず、「発想や興味の幅、感受性を広げること」「創造力を高めること」についても、管理職の9割弱が「そう思う」もしくは「まあそう思う」と回答している。
1 詳細は、山本勲・黒田祥子(2014)『労働時間の経済分析 超高齢社会の働き方を展望する』(日本経済新聞出版社)第10章を参照されたい。
背景の三つ目として、働き方改革に対する政府のコミットが強まっていることもあげられる。
2015年4月には「労働基準法等の一部を改正する法律案」が第189回国会に提出された。この法案は、第190回国会終了時点でも継続審議となっているが、「長時間労働抑制策等」と「多様で柔軟な働き方の実現」に関する改正内容が盛り込まれており、企業の労働時間制度に少なからぬ影響を及ぼす法案だといえる。
「長時間労働抑制策等」については、月60時間超の割増賃金50%に対する中小企業への猶予の撤廃、企業の時季指定による年休付与義務の創設等が盛り込まれている。
「多様で柔軟な働き方の実現」については、フレックスタイム制の弾力化(清算期間の上限を1か月から3か月へ)、企画業務型裁量労働制の対象業務の追加(課題解決型提案営業、裁量的にPDCAを回す業務)、一定以上の年収で高度な専門的知識を必要とする「高度プロフェッショナル」に対する労働時間規制の適用除外・健康確保規制等が盛り込まれている。
また、一億総活躍国民会議でも働き方改革の重要性が指摘され、これが契機となって労働基準監督署の立ち入り調査(重点監督)の対象が、月残業時間100時間以上から80時間超に拡大される等の対策が講じられた(2016年4月1日、厚生労働省「長時間労働削減推進本部」資料より)。同会議が公表した「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年6月2日閣議決定)でも、働き方改革は一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題として位置づけられ、法規制(下請代金法2、独占禁止法3)の執行の強化、労働基準法の36協定における時間外労働規制の在り方の再検討等が提言されている。
2 下請代金支払遅延等防止法。
3 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律。
このレポートの関連カテゴリ
松浦 民恵
研究・専門分野
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年05月07日
今週のレポート・コラムまとめ【4/30-5/2発行分】 -
2024年05月02日
為替介入再開、既に連発か?~状況の整理と今後の注目ポイント -
2024年05月02日
米FOMC(24年5月)-予想通り、6会合連続で政策金利を据え置き。量的引締めペースの減速を決定 -
2024年05月01日
ユーロ圏消費者物価(24年4月)-総合指数は横ばい、コア指数は低下 -
2024年05月01日
ユーロ圏GDP(2024年1-3月期)-前期比0.3%、プラス成長に転じる
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【働き方改革はどこに向かうのか~時間制約のあるフルタイム勤務への「移行」と「多元化」】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
働き方改革はどこに向かうのか~時間制約のあるフルタイム勤務への「移行」と「多元化」のレポート Topへ