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救急搬送と救急救命のあり方-救急医療の現状と課題 (前編)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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(1)一般市民が利用可能なAEDは、多数設置されている
AEDは、Automated External Defibrillator(自動体外式除細動器)の略語である。心停止直後に最も多い、心臓がけいれんして血液を流すポンプ機能を失った状態(心室細動)や、心電図で心室頻拍を示すが脈を触知できない状態(無脈性心室頻拍)になった心臓に対して、電気ショックを与え、正常なリズムに戻すための医療機器を指す31。AEDは2004年~2014年の間に、約64万台が販売された。このうち、公共施設等に設置され、一般市民が使用できるものは、PAD32と呼ばれる。PADは、約52万台設置されている。これは、人口比で言えば、約250人に 1台という高い割合に相当し、多くのAEDが設置されていることとなる。日本は、世界で最もAEDの普及が進んだ国となっている33。
日本では、街中で、AEDを見かけることは、一般的となっている。しかし、AEDの機器を取り出して、実際に使ったことがある人は限られている。一般市民の間では、心臓への電気ショックを行う複雑な機械とのイメージが先行して、AEDは難しいもの、との認識が広まっている可能性がある。
実は、AEDの操作は、それほど難しいものではない。操作は、次の3つのステップからなる。
1) 電源を入れる(フタを開けると自動的に電源がONになる機器もある)
2) 傷病者の上半身を裸にして、2つの電極パッドを、パッド等に記載の図の表示に従って、胸壁に貼る(これにより、機器が自動的に解析を始める) 34
3)機器の音声指示に従い、傷病者に誰も触れていないことを確認した後、「ショック」ボタンを押す
2004年からは、一般市民もAEDを使用できるようになった。これを受けて、駅や学校など、公共施設へのAEDの設置が進んでいる。しかしながら、一般市民のAED使用は進んでいない。2014年に、一般市民による心肺蘇生の実施率は50%を超えている一方、AEDの実施率は、わずか4.1%にとどまっている。AEDの使用について、一般市民への啓発を進めることが必要と言える。
31 心停止には、この他に、心電図では様々な波形が見られるものの心臓からの有効な拍出がなく脈を触ることができない状態(無脈性電気活動)、心臓が全く動かない状態(心静止)がある。これらの状態には、AEDは適応外となる。なお、AEDの適応可否の判断は、施術者が行うのではなく、AEDの自動解析に委ねることとされている。
32 PADは、Public Access Defibrillationの略。
33 「AEDを活かし心臓突然死を減らすための提言」(減らせ突然死 ~使おうAED~ 実行委員会 委員長 三田村秀雄, 平成24年4月22日)より。
34 傷病者が未就学児(おおよそ6歳まで)の場合、小児用の電極パッドを用いる。小児用の電極パッドがない場合は、やむを得ず成人用の電極パッドで代用する。なお、逆に、成人に、小児用の電極パッドを用いてはならない。
7――おわりに
次稿では、災害医療を中心に紹介する。具体的には、災害医療体制や、トリアージに関する課題などを俯瞰していく。
その上で、次稿の最後に、救急医療や災害医療に関する私見を述べることとしたい。
(2016年07月28日「基礎研レポート」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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