- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- >
- 運用リスク管理 >
- 利益調整に関する財務指標に着目した信用リスク分析-「粉飾」に起因した企業倒産の予見は可能か?
利益調整に関する財務指標に着目した信用リスク分析-「粉飾」に起因した企業倒産の予見は可能か?

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
5――Altman Z ScoreモデルとAccruals Ratioの関係
信用リスク評価においてよく用いられるAltman Z Scoreモデルと本レポートで提案したAR Scoreの関係について考えたい。一般に、Altman Z Scoreモデルとは以下の5つのファクターを用いて企業の信用リスクを計測するモデルのことを指す。
Z=1.2×F1+1.4×F2+3.3×F3+0.6×F4+1.0×F5
(1)流動性指標: F1=[運転資本]/[総資産]=([流動資産]-[流動負債])/[総資産]
(2)収益性指標: F2=[剰余金]11/[総資産]
(3)収益性指標: F3=[営業利益]/[総資産]
(4)レバレッジ: F4=[株式時価総額]/[負債総額]
(5)回転率: F5=[売上高]/[総資産]
Accruals Ratioと同様の方法でBloombergより財務データを収集し、Z Scoreを計算する。会計制度の差異、地域や業種による特殊性があるとは考えられるものの、一般的にZ Scoreが3.00以上であれば「健全な企業」、1.81よりも小さいときは「倒産状態または倒産に向かっている」と判定される12。
11 本レポートにおける剰余金には、利益剰余金(内部留保)だけではなく、その他の包括利益累計額も含めた数値を利用している。
12 Altmanは米国企業データを用いて判別分析により係数を推定した。よって、日本企業の標本を用いると係数が異なる可能性がある。参考までに、本レポートのサンプルにおいて判別分析で推定した結果は以下のようになった(ここで、「倒産または倒産に向かっている」と判断する基準は「「Z<0」」とする)。
Z=-0.38+0.62×F1+2.98×F2-1.39×F3+0.43×F4-0.28×F5
Altman Z Scoreモデルを使用する場合、これらの5つの財務指標が企業の信用力を正しく反映していることが前提となる。よって、企業によって財務諸表を「良く」見せるための利益調整が行われている場合には、このような指標を用いた信用リスク分析では、分析対象の企業において信用力の悪化をうまく捕捉できない可能性がある。AR Scoreを用いることでこのような問題点が解決できるかどうか検証してみたい。
AltmanのZ ScoreとAR Scoreとの関係(散布図)を示したのが図表16、図表17である。倒産企業であっても直前の会計期末において、比較的高いZ Scoreを持つことがあることが分かる。しかし、倒産企業のAR Scoreは非倒産企業のそれに比べて絶対値が大きいことから、Z Scoreでは判定できない水面下の信用リスクの悪化について検知できてきていることになる。また、負のZ Scoreを持つ倒産企業は負のAR Scoreを持つ傾向があることも分かる(第3象限)。負のZ Scoreをもつ企業はすでに信用力の悪化が顕在化していることから、債権者や株主から企業活動のリストラクチャリングが求められることが多いことも大いに関係しているものと思われる。
(2016年07月13日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
福本 勇樹のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/21 | 日本国債市場は市場機能を回復したか-金融正常化における価格発見機能の構造変化 | 福本 勇樹 | 基礎研レポート |
2025/04/08 | 決済デジタル化は経済成長につながったのか-デジタル決済がもたらす新たな競争環境と需要創出への道筋 | 福本 勇樹 | 基礎研マンスリー |
2025/04/03 | 家計債務の拡大と老後に向けた資産形成への影響 | 福本 勇樹 | ニッセイ年金ストラテジー |
2025/03/26 | 決済デジタル化は経済成長につながったのか-デジタル決済がもたらす新たな競争環境と需要創出への道筋 | 福本 勇樹 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【利益調整に関する財務指標に着目した信用リスク分析-「粉飾」に起因した企業倒産の予見は可能か?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
利益調整に関する財務指標に着目した信用リスク分析-「粉飾」に起因した企業倒産の予見は可能か?のレポート Topへ