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医薬品・医療機器の現状 2015年度総まとめ

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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5―― 新たな医療への取組み
1|予防医療のためのワクチンの開発・接種
予防医療のために、従来より感染症対策として、ワクチンの定期接種が行われている。定期接種とは、予防接種法に基き、国や地方自治体が一定の年齢に達した人に強く勧奨している接種で、感染力が強く、予防の必要性が高いものを指す。最近の動きとして、3つの取組みを概観することとしたい。
(1) 成人用肺炎球菌ワクチン
高齢者に多い疾病として、肺炎が挙げられる。近年、高齢者の増加とともに、肺炎による死亡率が上昇しており、がん、心疾患に次いで、現在、日本人の死因第3位を占めるに至っている。

肺炎予防のためには、肺炎球菌ワクチンの接種が有効とされており、2014年10月から高齢者向けにインフルエンザと併せて定期接種が行われるようになった67。
従来、ワクチンの定期接種は感染症の蔓延を防ぐための集団予防として行われており、感染症への免疫がない乳児・幼児を接種対象とすることが中心であった。しかし、最近、体力が低下して疾病が重症化しやすい高齢者が増加していることから、個人予防として高齢者用インフルエンザや、成人用肺炎球菌の定期接種が始められている。
(2)水痘ワクチン
水痘は、感染症法で5類感染症と分類されている。重症の場合には、脳炎、肺炎、肝炎等の合併症を引き起こすとされている。2014年より、乳幼児用の水痘ワクチン68が、定期接種に加えられている。このワクチンは、これまでに世界で広く使用実績を挙げている。長期の実績から、効果や安全性の面でも問題ないとされている。対象者は、生後12ヵ月~36ヵ月の乳幼児である。水痘ワクチンの定期接種により、これらの重症のケースが減少することが期待されている。
(3)子宮頸がん予防ワクチン
子宮頸がん予防ワクチンは、2013年4月の予防接種法改正により、10歳以上の女性を対象に定期接種に使用されるようになった69。しかし、2013年6月の厚生科学審議会・副反応検討部会において、極めて少数の慢性疼痛があることを理由に、接種勧奨を一時差し控えることとされた。その後、当ワクチン接種の推進派・反対派が議論を重ねてきたが、現在までに同部会で接種勧奨を再開する判断には至っていない。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、これまでに接種した子宮頸がん予防ワクチンについて、副反応を疑われる患者の報告を求めてきた。患者の転院により追跡調査が途切れるケースがあったことなどから、報告体制を強化している。今後、情報を整理した上で同部会で議論される見通しとなっている。
2|再生医療の進展
高齢になれば、組織や臓器の劣化は避けられない。免疫力も低下して、病気になりやすくなる。近年、再生医療分野の研究開発が、各医薬品メーカー等で進められている。特に、iPS細胞やES細胞などの研究成果を再生医療に実用化する取組みが、医薬品メーカー等と大学の協働で進められている。
2014年施行の薬機法では、再生医療等製品が規制の対象に追加された。それまでは、表皮や軟骨を自家培養したものは、医療機器として公的医療保険制度の保険適用とされてきた。今後、再生医療等製品の承認申請が、相次いで行われるものと考えられる。
薬機法では、再生医療等製品について、条件・期限付承認制度が導入されている。この制度により、医薬品メーカー等は、有効性についてはまだ推定段階であっても、安全性の確認を前提としながら、薬事承認を受けて販売を進めることができる。これは、従来、疾患の希少性から臨床試験が困難な場合が多いとされてきた「オーファンドラッグ」(希少疾病用医薬品)に対して行われている条件付承認と、同様の仕組みである。再生医療等製品は、条件・期限付承認をされた段階から保険適用となる。この承認には、7年間の有効期限が付されており、その期限内に、販売した製品について多くの症例を収集した上で、再申請をすることが条件となっている。70

67 現在、成人用肺炎球菌ワクチンとしてMSD社製の薬剤のみが使用されている。新たに、ファイザー社製の薬剤を追加することが厚生科学審議会内の部会で検討されている。肺炎にはいくつかの種類があり、いずれのワクチンも、全ての肺炎に効果があるという訳ではない。今後も医薬品メーカーの更なるワクチン開発が期待される。
68 「ビケン」と呼ばれるワクチンの接種で、一般財団法人 阪大微生物病研究会で製造・販売されている。
69 グラクソ・スミス・クライン社製の薬剤と、MSD社製の薬剤が対象。
70 薬機法と併せて再生医療等安全性確保法も施行された。この法律は、製造販売ではなく、臨床研究や自由診療に関するものとなっている。この法律により、例えば、細胞培養加工を医療機関から企業に外部委託することが可能となった。
6―― 医療機器の開発
医療機器は、医薬品と同様、医療の品質や安全性などを左右する重要な要素である。しかし従来は、医療機器は医薬品の添え物のように取り扱われてきた。2014年の薬機法制定により、その位置づけは大きく変化した。医療機器は医療の一分野と言うに留まらず、日本の機械工業の技術力を活用して、経済成長を図るための有力な分野と見ることができる。本章では、その開発の現状について概観する。
1|医療機器の開発動向
高齢者の医療や要介護者のケアのためには、医療機器・介護機器の開発が大きな役割を果たすものと見られる。元来、日本の機械工業は、品質、性能、安全性の面で、海外との競争力を持つものが多い。医療機器の分野でも、日本のメーカーに多くの活躍のチャンスがあるものと考えられてきた。以下では、医療機器の製造・生産と輸出入、医療機器の価格を巡る状況、について述べることとする。
(1) 医療機器の製造・生産と輸出入
日本の医療機器の製造所の数は、以前より減少して2013年に1419事業所となっている。生産金額は、1.9兆円となっている。2014年施行の薬機法では、医療機器製造業が、許可制や認定制71から、登録制に変わった。これにより、これまであまり医療には関係がなかった機械メーカーも医療機器の製造分野に参入することが容易になり、医療機器製造産業が活性化するものと見られている。

近年、日本では、医療機器の貿易赤字が少しずつ拡大している。2000年代の貿易額の推移を見ると、輸出はほぼ横這いで推移する一方、輸入は少しずつ増加している。これは、医薬品と同様、医療機器のメーカーもグローバル化が進み、租税負担の小さい国に製造拠点を置き、そこで作られた商品を世界中に拡販するという経営戦略をとっていることによるものと考えられる。

一口に医療機器と言っても、診断用X線装置のような高額な画像診断システムもあれば、注射針のような消耗品的な処置用機器もある。また、人工関節のような生体機能補助・代行機器や、補聴器のような家庭用医療機器も含まれる。これらの種類別に生産と輸入を見ると、次の図表のとおりとなる。

画像診断システム、生体現象計測・監視システム、医療検体検査機器のような、診断・計測・監視・検査に用いる医療機器では、生産が輸入を大きく上回っている。これらの分野は、日本のメーカーの強みと言える。一方、治療用又は手術用機器、眼科用品及び関連製品は生産よりも輸入が多い。これらは、海外メーカーの製品が医師等の医療従事者に支持されているものと見られる。医療機器の生産を成長戦略として捉える際には、日本メーカーの強み、弱みを踏まえることが必要と考えられる。
71 薬機法施行以前は、国内メーカーは許可制、海外メーカーは認定制であった。
(2016年06月28日「ニッセイ基礎研所報」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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