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- 米国個人消費の動向-消費を取り巻く環境は良好も、所得対比で伸び悩み
2016年05月13日
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1.はじめに
16年1-3月期の米実質GDP成長率は前期比年率+0.5%となり、前期の+1.4%から低下した。外需や民間設備投資が引き続き成長を押下げたことに加え、個人消費が+1.9%と可処分所得の+2.9%を大幅に下回る伸びとなるなど期待外れに終わったことが大きい。米国では労働市場の回復を背景に消費主導の景気回復が持続しているものの、個人消費を取り巻く環境が良好であることを考慮すれば個人消費が実力を発揮できているとは言い難い。
本稿では、個人消費の動向について確認するほか、今後の見通しについて説明する。結論から言うと、個人消費を取り巻く環境に大きな変化はなく、依然として消費にポジティブに働いているとみられることから、今後株式市場が安定し消費マインドが回復基調に復するのに伴い、所得に見合った水準まで個人消費は再加速すると言うものである。
本稿では、個人消費の動向について確認するほか、今後の見通しについて説明する。結論から言うと、個人消費を取り巻く環境に大きな変化はなく、依然として消費にポジティブに働いているとみられることから、今後株式市場が安定し消費マインドが回復基調に復するのに伴い、所得に見合った水準まで個人消費は再加速すると言うものである。
2.個人消費の動向

個人消費支出は、16年1-3月期が前期比年率+1.9%となり、15年4-6月期の+3.6%をピークに低下基調が持続している(前掲図表1)。一方、実質可処分所得は2%台後半で底堅く推移しており、足元では消費の伸びが所得を下回っている。この結果、可処分所得と個人消費の差額である貯蓄は増加基調となっており、可処分所得に対する比率で示される貯蓄率は、5%台前半で推移している(図表2)。貯蓄率は、08年の金融危機後に個人消費が低迷したこともあり、足元より高い水準で推移する場面もあったが、金融危機前に3%台で推移していたことを考慮すれば、足元の貯蓄率は高止まっており、所得対比で消費が抑制されている状況が持続していると判断される。
次に、個人消費の主要項目別の推移をみると、サービス消費が堅調に推移する一方、財消費の伸び鈍化が顕著であることが分かる(前掲図表1)。財消費は、15年4-6月期に耐久消費財が前期比年率+8.0%、非耐久消費財が+4.3%と高い伸びとなっていたが、その後は鈍化し16年1-3月期にはそれぞれ▲1.6%と+1.0%まで低下した。非耐久消費財では、ガソリン等のエネルギー関連支出や靴・衣料などが落込んだが、これらは暖冬の影響もあったとみられる。
(2)個人消費を取り巻く環境:個人消費に追い風の状況に変化はなし
14年以降に個人消費が加速する中、消費を取り巻く環境が消費拡大にポジティブであることが指摘されてきた。すなわち、労働市場の回復、家計バランスシートの改善、ガソリン価格の下落、等である。個人消費の伸びが冴えない中でこれらの環境に変化が生じているか確認しよう。
(労働市場):労働市場の回復、雇用者報酬の底堅い伸びが持続
労働市場の回復は持続している。非農業部門雇用者数は4月に雇用の伸びが鈍化したため、16年初からの月間平均増加数が19.2万人増(前年:22.9万人増)と前年から低下、好調とされる20万人超を僅かながら下回った(図表4)。もっとも、4月は特定業種の不振が全体の足を引っ張る形となっており、他の業種では全般的に底堅い雇用増加となっていた。
さらに、失業率は5%と低下基調が持続しており、完全雇用に近づいているとの見方が増えている。一方、15年半ばまでは失業率が低下する一方、時間当たり賃金上昇率が前年比2%程度に留まるなど、賃金と失業率の動きが乖離する状況がみられたが、15年秋口以降は、賃金上昇率が2%台半ばに上方シフトしており、漸く労働市場の回復が賃金に波及してきたことが伺われる。また、雇用者数の増加が加味した雇用者報酬は、前年比で4%超のペースで増加しており、消費の原資となる雇用者報酬は底堅い伸びが持続している(図表5)。
14年以降に個人消費が加速する中、消費を取り巻く環境が消費拡大にポジティブであることが指摘されてきた。すなわち、労働市場の回復、家計バランスシートの改善、ガソリン価格の下落、等である。個人消費の伸びが冴えない中でこれらの環境に変化が生じているか確認しよう。
(労働市場):労働市場の回復、雇用者報酬の底堅い伸びが持続
労働市場の回復は持続している。非農業部門雇用者数は4月に雇用の伸びが鈍化したため、16年初からの月間平均増加数が19.2万人増(前年:22.9万人増)と前年から低下、好調とされる20万人超を僅かながら下回った(図表4)。もっとも、4月は特定業種の不振が全体の足を引っ張る形となっており、他の業種では全般的に底堅い雇用増加となっていた。
さらに、失業率は5%と低下基調が持続しており、完全雇用に近づいているとの見方が増えている。一方、15年半ばまでは失業率が低下する一方、時間当たり賃金上昇率が前年比2%程度に留まるなど、賃金と失業率の動きが乖離する状況がみられたが、15年秋口以降は、賃金上昇率が2%台半ばに上方シフトしており、漸く労働市場の回復が賃金に波及してきたことが伺われる。また、雇用者数の増加が加味した雇用者報酬は、前年比で4%超のペースで増加しており、消費の原資となる雇用者報酬は底堅い伸びが持続している(図表5)。
(家計バランスシート):純資産残高は過去最高、負債の返済負担も軽減
家計バランスシートの改善は持続している。家計の純資産残高の推移をみると、金融危機後の09年4‐6月期に54.6兆ドルまで低下した後、直近(15年10-12月期)は86.8兆ドルと+32.2兆ドル(+59.0%)増加し、家計純資産残高は過去最高となった(図表6)。負債額が概ね14兆ドル台前半で推移する一方、資産残高が68.7兆ドルから101.3兆ドルと大幅に増加したことが大きい。資産別には株価や不動産価格の上昇を反映し、株式・投信が18.7兆ドル増加したほか、不動産も6.5兆ドル増加した。
さらに、家計債務残高や返済負担をみると、可処分所得に対する家計債務残高は15年10-12月期で1.05倍と02年以来の水準に低下しているほか、債務返済額に到っては統計開始以来の最低水準となっており、可処分所得対比でみた家計債務の負担感は大きく軽減していることが分かる(図表7)。
このようにみると、家計バランスシートは個人消費にとってポジティブな状況であることが確認できる。
家計バランスシートの改善は持続している。家計の純資産残高の推移をみると、金融危機後の09年4‐6月期に54.6兆ドルまで低下した後、直近(15年10-12月期)は86.8兆ドルと+32.2兆ドル(+59.0%)増加し、家計純資産残高は過去最高となった(図表6)。負債額が概ね14兆ドル台前半で推移する一方、資産残高が68.7兆ドルから101.3兆ドルと大幅に増加したことが大きい。資産別には株価や不動産価格の上昇を反映し、株式・投信が18.7兆ドル増加したほか、不動産も6.5兆ドル増加した。
さらに、家計債務残高や返済負担をみると、可処分所得に対する家計債務残高は15年10-12月期で1.05倍と02年以来の水準に低下しているほか、債務返済額に到っては統計開始以来の最低水準となっており、可処分所得対比でみた家計債務の負担感は大きく軽減していることが分かる(図表7)。
このようにみると、家計バランスシートは個人消費にとってポジティブな状況であることが確認できる。

原油およびガソリン価格の推移をみると、原油価格(WTI先物、ドル/バレル)は16年2月に03年以来となる30ドル割れとなった後、直近(16年5月12日時点)では15年10月以来となる47ドル台まで値を戻している(図表8)。
一方、ガソリン価格(小売価格、ドル/ガロン)も、16年2月に09年1月以来となる1.7ドル台をつけた後、直近は2.2ドル台に上昇している。もっとも、ガソリン価格は、依然として09年5月以来の水準に留まっており、前年同期比では▲16%程の下落となっている。
15年のガソリン・エネルギー関連の消費支出額は、3,066億ドルと個人消費全体の2.5%(GDP比1.7%)を占めている。このため、ガソリン等の価格下落▲10%につきGDP比0.2%弱程度の所得効果に伴う消費喚起が期待できる。足元のガソリン価格は前年比で下落しており、消費喚起が期待できる状況に変化はない。もっとも、ガソリン価格の反発に伴い、今後所得効果は減退が見込まれる。
(2016年05月13日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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