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- マネー統計(16年4月分)~マイナス金利の影響でマネーフローが変化
2016年05月13日
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1.貸出動向: 伸び率は上昇、実勢はさらに強い可能性も
貸出の実勢を見るうえでは、為替変動等の影響を調整した「特殊要因調整後」の伸び率(図表1)1を確認することが有用となる。ドル円の前年比(図表3)は昨秋から円安幅が低減し、2月からは円高に転じた。これに伴って、貸出の伸び率も低下したが、特殊要因調整後の伸び率で見ると、逆に1月にかけて持ち直している(図表1)。ただし、特殊要因調整後でも伸び率の水準はそれほど高くなく、さらに2月・3月と伸び率は横ばいであったため、マイナス金利の効果は今のところ顕在化していない。
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは3月分まで。
1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは3月分まで。
2.主要銀行貸出動向アンケート調査: 住宅ローン需要のみ高まる
日銀が4月21日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2016年1-3月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は5と前回の8から低下した。D.I.はプラス、すなわち「増加」が優勢な状況ではあるが、勢いとしては鈍化しているようだ(図表5)。
企業規模別では、大企業向けが5(前回は8)、中堅企業向けが-1(前回は3)、中小企業向けが4(前回は5)とそれぞれ低下しているが、特に大・中堅企業向けの鈍化が響いた(図表6)。業種別のD.I.の動きはまちまちだが、マイナス金利のメリットを受けやすい建設・不動産(大企業)の上昇が目立つ。
資金需要が増加したとする先に、その要因を尋ねた問いに対しては、大企業・中堅企業では「手許資金の積み増し」が、中小企業では「設備投資の拡大」を挙げた先が最多であった。
一方、個人向け資金需要判断D.I.は9と、前回の-1から急上昇しており、資金需要が増加に転じた形となった。主力の住宅ローンが増加したためであり、その要因としては、「貸出金利の低下」を挙げる先が最多となっている。マイナス金利政策導入で長期固定金利が大きく下がった影響とみられるが、住宅投資には直結しない借り換えも多分に含まれている点には留意が必要だ。
企業規模別では、大企業向けが5(前回は8)、中堅企業向けが-1(前回は3)、中小企業向けが4(前回は5)とそれぞれ低下しているが、特に大・中堅企業向けの鈍化が響いた(図表6)。業種別のD.I.の動きはまちまちだが、マイナス金利のメリットを受けやすい建設・不動産(大企業)の上昇が目立つ。
資金需要が増加したとする先に、その要因を尋ねた問いに対しては、大企業・中堅企業では「手許資金の積み増し」が、中小企業では「設備投資の拡大」を挙げた先が最多であった。
一方、個人向け資金需要判断D.I.は9と、前回の-1から急上昇しており、資金需要が増加に転じた形となった。主力の住宅ローンが増加したためであり、その要因としては、「貸出金利の低下」を挙げる先が最多となっている。マイナス金利政策導入で長期固定金利が大きく下がった影響とみられるが、住宅投資には直結しない借り換えも多分に含まれている点には留意が必要だ。
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けが3(7-9月期実績比2ポイント低下)、個人向けが5(同4ポイント低下)となっている。どちらも増勢が直近よりも鈍るとの見通しであり、金融機関の間では先行きへの慎重な見方が根強い(図表5)。
3.マネタリーベース: 紙幣需要がさらに増加
5月6日に発表された4月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中のお金)を示すマネタリーベース平均残高は前年比で26.8%の増加となり、伸び率は前月(同28.5%)からやや低下した。日銀当座預金の伸び率が前年比36.1%と前月(39.6%)から低下したためだ。日銀当座預金の伸び率は緩やかな低下基調にあるが、これは分母にあたる前年の残高増加に伴うものである。日銀当座預金の前年差額は、ここ数ヵ月にわたって74兆円前後で安定推移しており、特に問題はない。
なお、最近増勢が強まっている日銀券(紙幣)発行残高は、前年比6.8%(前月は6.7%)と4ヵ月連続で伸び率を拡大している。訪日外国人の増加に伴う現金需要が増加要因となっているほか、相続税増税(15年1月~)、マイナンバー制度の導入(15年10月~)、マイナス金利政策の導入(16年2月~)などで、タンス預金の増加に拍車がかかっているようだ(図表7~8)。
なお、最近増勢が強まっている日銀券(紙幣)発行残高は、前年比6.8%(前月は6.7%)と4ヵ月連続で伸び率を拡大している。訪日外国人の増加に伴う現金需要が増加要因となっているほか、相続税増税(15年1月~)、マイナンバー制度の導入(15年10月~)、マイナス金利政策の導入(16年2月~)などで、タンス預金の増加に拍車がかかっているようだ(図表7~8)。
金融政策との関係では、現行の金融政策におけるマネタリーベース増加目標は「年間約80兆円増」であり、単純計算では月当たり6.7兆円増が必要になるが、4月の月末残高の前月末比増加額は10.5兆円とこれを大きく上回った。ただし、4月は季節柄、財政資金の支払いが多く、日銀当座預金が増加しやすいという事情がある。
4.マネーストック: マイナス金利の影響でマネーフローに変化
日銀が5月13日に発表した4月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.3%(前月は3.2%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.7%(前月は2.6%)と、それぞれ前月からわずかに上昇した。
M3の内訳では、現金通貨の伸びが前年比6.8%(前月改定値は6.7%)と上昇し、2003年2月以来の高い伸びを記録。マネタリーベース中の日銀券発行残高と整合的な動きを示している。また、預金通貨(普通預金など)の伸び率も6.7%(前月改定値は5.4%)と大きく上昇し、03年3月以来の高い伸びとなった。一方、準通貨(定期預金など)の伸びがマイナスに転じ、CD(譲渡性預金)のマイナス幅も大きく拡大した(図表10~11)。
M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比2.7%(前月は3.2%)と前月から大きく低下。上述のとおり、M3の伸びはわずかに上昇したものの、残高が大きい金銭の信託(前年比伸び率:前月5.9%→当月2.6%)、投資信託(元本ベース・前年比伸び率:前月11.9%→当月9.3%)の伸びがそれぞれ低下したことが響いた。
投資信託の伸び率は14ヵ月ぶりに1桁台へと低下した。金融市場が不安定な状況が続き、家計などがリスク性資産への投資を手控えている可能性が高い。
日銀がマイナス金利を導入した狙いの一つに、家計や企業等にリスクテイクを促す「ポートフォリオ・リバランス」があるが、これまでに起きたことは、(1)金利低下等に伴う高流動性資産(現金・普通預金)への資金シフトと、(2)リスク性資産への投資手控えとなっている。
今のところ、日銀の狙い通りには行っていないようだ。
M3の内訳では、現金通貨の伸びが前年比6.8%(前月改定値は6.7%)と上昇し、2003年2月以来の高い伸びを記録。マネタリーベース中の日銀券発行残高と整合的な動きを示している。また、預金通貨(普通預金など)の伸び率も6.7%(前月改定値は5.4%)と大きく上昇し、03年3月以来の高い伸びとなった。一方、準通貨(定期預金など)の伸びがマイナスに転じ、CD(譲渡性預金)のマイナス幅も大きく拡大した(図表10~11)。
M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比2.7%(前月は3.2%)と前月から大きく低下。上述のとおり、M3の伸びはわずかに上昇したものの、残高が大きい金銭の信託(前年比伸び率:前月5.9%→当月2.6%)、投資信託(元本ベース・前年比伸び率:前月11.9%→当月9.3%)の伸びがそれぞれ低下したことが響いた。
投資信託の伸び率は14ヵ月ぶりに1桁台へと低下した。金融市場が不安定な状況が続き、家計などがリスク性資産への投資を手控えている可能性が高い。
日銀がマイナス金利を導入した狙いの一つに、家計や企業等にリスクテイクを促す「ポートフォリオ・リバランス」があるが、これまでに起きたことは、(1)金利低下等に伴う高流動性資産(現金・普通預金)への資金シフトと、(2)リスク性資産への投資手控えとなっている。
今のところ、日銀の狙い通りには行っていないようだ。
(2016年05月13日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1870
経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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