2016年05月06日

円安材料無きドル円の行方~金融市場の動き(5月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. (為替) 4月末以降、円高がさらに加速した。改めてドル円を取り巻く環境を見渡してみると、円高要因が数多く存在する。最大の材料は米国の利上げに対する慎重スタンスが強まりドル安圧力になっていることだ。さらに、政治からの円高圧力も強まっている。ルー米財務長官の介入へのけん制や、米為替報告書における為替監視対象指定によって、日本の為替介入のハードルが上がったとの観測が台頭している。また、従来、恒常的な円売りを発生させていた日本の巨額の貿易赤字が既に解消しており、実需面でのドル円の下支え材料も失われている。このように、円高を示す材料が増え、円安材料としての最後の砦となっていた日銀追加緩和が完全にスルーされたことで、円が急伸した。そして、今後の最大のカギはやはり米利上げとなる。米国が段階的な利上げを続けるとの見方が強まれば、緩やかな円安ドル高基調に回帰する可能性が高い。筆者はこの見方を維持している。また、脇役とはなるが、日銀が次回6月か7月に、十分な追加緩和に動けば、金融政策の日米格差の鮮明化に繋がり、円安をサポートする材料となる。ただし、しばらくは逆にさらなる円高に警戒が必要だ。当面は米利上げ観測が強まりにくいうえ、円安材料も特段見当たらないためだ。日銀の決定会合も次回までは1カ月以上ある。米経済指標が下振れて利上げ観測がさらに後退すると、105円突破を試す展開となる可能性がある。さらに、政治面でも米大統領選でトランプ氏が共和党候補指名を確実にしたことで、市場がトランプ大統領実現の可能性を織り込みにいき、米経済の不確実性や強力な円安牽制の可能性が意識されることで、円高ドル安が進む可能性がある。
     
  2. (市場の動きと予想) 4月のドル円は円高、ユーロドルはほぼ横ばい、長期金利もほぼ横ばいであった。当面、ドル高は進みにくく、ドル円では円高に警戒が必要な時間帯が続きそう。長期金利は現状程度での一進一退が継続するだろう。
ドル円レートの推移(日足)/主な通貨の対ドルレート騰落率(年初来)
■目次

1.為替:円安材料無きドル円の行方
  ・円高要因が増えている
  ・円安には米利上げ観測復活が必要
  ・しばらくはさらなる円高リスクも
2.日銀金融政策(4月): 追加緩和を見送り、ネガティブサプライズに
  ・(日銀)維持
3.金融市場(4月)の動きと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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