2016年04月27日

非伝統的金融政策の歴史とマイナス金利

総合政策研究部 研究理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任   矢嶋 康次

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<新技術とマイナス金利>
マイナス金利でフィンテックも拡大が予想される。フィンテックとは金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、IT(情報技術)を活用し金融や決済サービスなどの分野にもたらされるイノベーションを指す。
世界的にフィンテック関連の市場が広がったのは2014年、世界の投資額は13年実績の3倍近い122億ドルまで伸びた。普及しているのは主に欧米で、日本ではまだ市場規模が小さい。
ただ、銀行は従来のように運用と貸し出しにおける利ざやを稼げなくなっている。今後は収益基盤を強化するために、フィンテックを活用してコスト削減に励むはずだ。
15年12月に複数の銀行がクラウド会計ソフトを提供するfreee(東京・品川)との提携を発表した。銀行がリアルタイムで企業の取引や財務状況を把握して、融資審査にかかるコストの削減や、従来は難しかった中小企業や個人事業主への融資が可能になっている。また三菱東京UFJ銀行は仮想通貨を開発し、送金や振り込みの手数料やシステム費用を抑えようとしている。
マイナス金利によって銀行は従来のような、利子を軸にしたサービス競争を展開しづらくなる。今後は、利子以外でどんなサービスを提供できるのかが問われ、フィンテックの活用をはじめ、人工知能(AI)のような技術も駆使したサービスに乗り出すことになるだろう。
英国のフィンテック企業であるトランスファーワイズは、「米国から英国に送金したい米国人」と「英国から米国に送金したい米国人」を結び付ける発想で、国際送金サービスを提供している。送金の全体量を小さくすることによって手数料を低くしたのが特徴で、銀行の10分の1の水準になっている。このように、フィンテックは従来の銀行が担っていた機能を他の業界が代替する、という動きももたらす可能性が高い。
そんな中で、今後注目はフィンテックを使った仮想通貨、ビットコインが代表例だ。ただ14年に取引所の1つだったマウントゴックスが破綻したため、日本での印象はあまり良くない。そういった状況のもとでも、実際には日本でも仮想通貨による取引が根付き始めている。
マイナス金利政策で当面はタンス預金が急増する事態が予想されるが、ただ金庫を買うコストや盗難のリスクが高い点を踏まえると、現金ではなく仮想通貨でやり取りするニーズは次第に高まってくるだろう。
(図表7)ビットコインの動き ただ、仮想通貨には考えるべき課題が山積みでもあり、未解決のまま、利用に弾みがつくと様々な問題や混乱が起こりかねない。
円やドルなど通貨は本来、国家が発行と管理を担い、価値を保証する。国家の経済状況や政策によって変動リスクはある。一方、仮想通貨は発行者がいるわけではなく、利用者の信用によって価値が保証されているという点が従来の通貨と大きく異なる。利用者の需要と供給によってのみ価格が決まるため、ビットコインは価格が大きく変動する(図表7)。そのため価値保蔵には不向き、という難点がある。加えて、思わぬ損失から利用者をどう保護するか、匿名性で横行しやすいマネーロンダリングをどう防ぐか、詐欺やテロ資金への流用などにどう対処するのか、といった問題も残っている。仮想通貨の普及を後押ししているのは使い勝手の良さや手軽さだが、このように検討すべき課題は少なくない。
なし崩し的な仮想通貨の広がりをこのまま放置しておくと、金融政策の有効性を失うリスクが高まりかねない。日銀は自ら発行した世の中のお金の量をコントロールし、景気を動かしている。普及によって、中央銀行である日銀が国内のお金の量を把握できなくなってしまう、といった可能性が出ている。
政府は16年3月、ビットコインなど仮想通貨を通貨として認め、その規制を盛り込んだ資金決済法の改正案を閣議決定し、国会に提出した。仮想通貨は通貨ではない、とする従来の見解を転換し「決済手段の1つ」として認めようとしている。通貨として認めていないがために野放しにあった状態を変え、いったん通貨として認めて規制をかけ、実体把握に乗り出そうとしている。
すでにマイナス金利を導入した欧州ではキャッシュレス化の動きが広がっている。イタリアやフランスでは現金による1000ユーロ以上の決済を禁じ、欧州中央銀行(ECB)はマネーロンダリング対策で500ユーロ紙幣の廃止を検討している。デンマークでは紙幣での決済を拒否できるようにする議論が始まり、電子決済が進展している。スウェーデンでは民間銀行がATMから現金を取り除く方向にある。キャッシュレスになじみがある若者なら問題はないですが、機械操作に不慣れな高齢者には仮想通貨がたとえ便利だとは言っても、ハードルが高いはずだ。
日本はキャッシュレス化を進めていくべきなのか考える時期にくるだろう。タンス預金が増加し資金が滞留し消費や設備投資に向かわない、となれば「現金課税」という議論が出てきてもおかしくない。
マイナス金利は改めて現金や利子、金融ビジネスの意味を考えるきっかけになる。そして金融の姿を変えるインパクトがある。キャッシュレス化への対応を含め、どのような社会を目指すのか、金融はどんな役割を果たすべきなのか、といった大局的な議論の必要性を私たちに突き付けている。
(マイナス金利政策の論点や課題)
マイナス金利政策は日銀の目論見どおり金利低下を促した。ただ、期待していた円安・株高とはならず、日銀が重視している期待インフレ率も低下してしまっている。
金融政策の今後については、べき論としては、例えばマイナス金利を解除すべきだ、3軸運営ではなく、金利か量の1軸にすべきだ、など多数ある。また金融政策はそもそも限界に達しており、成長戦略にもっと軸足を置いたマクロ経済政策にする必要があるなどの主張もある。
ただし、黒田総裁は「必要があればなんでもする」というスタンスを変えていない。つまりできるだけ早期に物価2%を達成するために、金利、量、質の3軸でやれる緩和策は逐次投入せず、実施するということだ。
そういう中で現在進行中のマイナス金利つき量的・質的金融緩和をできるだけ効果のあるものにするために、いくつかの課題や論点整理が必要だろう。
一つ目はこの3年の総括である。黒田日銀が進めた量的・質的緩和がどのような効果を発揮してきたのか、また副作用や限界などについての評価が必要だろう。また、当初の2年としたコミットにどのような効果があったのか、2%という物価目標についても、もう一度議論する必要もでてきている。
また市場とのコミュニケーションをどうするかである。2014年10月のハロウィン緩和、今回のマイナス金利導入と2回、市場は黒田総裁にだまされたという印象を持っている。黒田総裁はついこの間まで、追加緩和の必要性について「このままの政策で、十分に2%の物価安定目標を達成できると思っている」と自信たっぷりに発言していた。またマイナス金利についても「検討していない」としていた。「一瞬で政策の是非は変わる、緩和の効果を最大限にするためにサプライズが必要だ」と言われればそれまでだが、あまりに連続性がない。黒田総裁が会見で丁寧に緩和に至った背景説明をしても、これを数度繰り返されれば、まったく市場は信用しなくなる。また個々の審議委員がどう考えているのかなどの情報発信も工夫の余地はあるように思う。
さらに3軸の政策の緩和度合いをどう示すかのコミュニケーションも必要だ。マイナス金利に対する批判が強い中、この先緩和が3軸で行われることになるので、市場は緩和の度合いをどう測ったらいいのかまったく分からない。今後の緩和効果をきちんと引き出すためにも、3軸で、例えば量をこれだけやったら金利○%分とか、3軸トータルのインデックスといった考えで政策の緩和度合いを示すなど、コミュニケーション戦略やツールを提示する必要性が出ているように感じる。
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総合政策研究部   研究理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融、日本経済

(2016年04月27日「基礎研レポート」)

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