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- 17年度予算教書-オバマ大統領任期最後の予算教書。将来に対して意欲的な提案も実現の可能性は低い
2016年02月19日
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3.長期財政見通し

17年度予算教書では、これまでみたような歳入増加策と歳出の見直しによって、現行法を前提とした財政見通し(ベースライン)に比べて、今後10年間で財政赤字を2.9兆ドル削減することを要求している(図表5)。この結果、2015年超党派予算法で規定された17年度だけでなく、その先の18年度以降についても、予算管理法が定める強制歳出削減を回避し、歳出の拡大を可能にしている。
このため、歳出額(GDP比)は18年度から21年度にかけて、ベースラインを上回る歳出となっている(前掲図表1)。もっとも、予算教書では医療費削減などの歳出抑制策も新たに盛り込まれているため、10年後の26年度にはベースラインの23.5%に対して予算教書では逆に22.8%と、ベースラインより歳出の抑制が可能との見通しを示している。
一方、歳入(GDP比)は16年度の18.1%に対して、予算教書では、26年度に20.0%とベースラインの18.5%に比べて大幅な増加が見込まれている。
この結果、財政赤字(GDP比)は16年度の▲3.3%から17年度の▲2.6%に低下した後、26年度に▲2.8%と緩やかに拡大することが見込まれている。これは、26年度のベースライン▲5.0%に比べ、財政赤字を大幅に縮小させていると言える。もっとも、野党共和党は比較的早期に財政赤字を解消する均衡予算を要求しているため、依然として予算教書と共和党が多数を占める議会では財政赤字に対する考え方に大きな開きがある。

債務残高は、16年度見込みの14.1兆ドル(GDP比76.5%)から、17年度に14.8兆ドル(同76.5%)となった後、26年度には21.3兆ドル(同75.3%)に増加することが見込まれている(図表6)。
一方、GDP比でみた債務残高の水準は、概ね7割台半ばでの安定が見込まれている。これは、リーマン・ショックに伴う景気対策で、財政赤字が急拡大する前の3割台に比べると2倍以上の高水準となっているものの、ベースラインで26年度に9割近くに増加する見通しとなっていることに比べると、財政赤字を安定させる提案となっている。
もっとも、債務残高が増加する中で歳出全体に占める利払費のシェアは増加が続いており、26年度に10年金利が4.2%まで上昇する前提で、利払費は17年度の7.3%から26年度に12.2%へ増加することが見込まれている。高齢化が進む米国では、義務的経費が構造的に増加していくことが見込まれており、社会インフラや低所得者対策などの裁量的経費に充当できる金額が抑制される可能性が高いが、利払費の増加はその自由度を一層低下させる。さらに、金利水準が想定を超えて上昇する場合には、より深刻な事態が予想される。このため、利払費の増加ペースを抑えるためにより積極的な債務残高抑制策が必要だろう。
4.今後の注目点等
17年度の予算については、既に大枠が決定されているほか、債務上限についても来年まで適用が先送りされているため、予算審議の紛糾に伴う政府機関の閉鎖や米国債のデフォルトリスクの可能性は極めて低い。また、予算教書で示されたヘッジファンドに対する課税強化は、2015年超党派予算法でも課税強化の方針が決定されるなど、税逃れを防止する政策等については選挙を控えていることもあり、野党共和党も合意し易いと思われる。さらに、多国籍企業に対する課税強化についても、共和党が採用の前提として個人所得税の税率引き下げを主張したことから合意に至っていないものの、共和党出身の下院議長であるライアン議長は同案を積極的に支持しており、なんらかの形で妥協の余地はあるとみられる。
もっとも、石油税については既に共和党幹部から反対が表明されるなど、大きな税制改革は任期が1年を切ったオバマ大統領には実現が難しくなっている。実際、共和党幹部は来年度の新政権発足を睨んで、本格的な税制改革案を今年1年かけて練り上げるとしており、大幅な税制改革の実現は来年度以降となろう。
16年に入り世界的に資本市場が不安定となる中で、今後米国経済が変調を示す場合に、経済対策を実行する必要があるが、それらの対策が円滑に実行できるか見極める上でも、今後の予算審議の行方が注目される。
さらに、足元で大統領選挙に向けた動きが本格化しているが、次期大統領候補をみるとクリントン元国務長官は概ね現政権の政策を踏襲すると見込まれるものの、同じ民主党のサンダース候補を含め、他の候補が大統領に選出される場合には、財政政策が大幅に変更される可能性が高く、政策の予見性が低下することで消費や企業活動に影響がでることが懸念されることから、大統領選挙の動向が注目される。
もっとも、石油税については既に共和党幹部から反対が表明されるなど、大きな税制改革は任期が1年を切ったオバマ大統領には実現が難しくなっている。実際、共和党幹部は来年度の新政権発足を睨んで、本格的な税制改革案を今年1年かけて練り上げるとしており、大幅な税制改革の実現は来年度以降となろう。
16年に入り世界的に資本市場が不安定となる中で、今後米国経済が変調を示す場合に、経済対策を実行する必要があるが、それらの対策が円滑に実行できるか見極める上でも、今後の予算審議の行方が注目される。
さらに、足元で大統領選挙に向けた動きが本格化しているが、次期大統領候補をみるとクリントン元国務長官は概ね現政権の政策を踏襲すると見込まれるものの、同じ民主党のサンダース候補を含め、他の候補が大統領に選出される場合には、財政政策が大幅に変更される可能性が高く、政策の予見性が低下することで消費や企業活動に影響がでることが懸念されることから、大統領選挙の動向が注目される。
(2016年02月19日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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