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- 日韓比較(13):医療保険制度-その6 医療費はなぜ増加しているのか? ―高齢化の進展や医療の進歩、所得水準の向上などが主な原因、医師の養成及び確保のための対策の徹底を―
日韓比較(13):医療保険制度-その6 医療費はなぜ増加しているのか? ―高齢化の進展や医療の進歩、所得水準の向上などが主な原因、医師の養成及び確保のための対策の徹底を―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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3――医療費増加の要因分析
分析では、残差に自己相関があるかどうかをみるために、ダービンワトソン比を使って検定を行った。ダービンワトソン比は、自己相関がなく残差がまったくランダムに発生する場合は2になり、残差が正の自己相関が強ければ0に、負の自己相関が強ければ4に近づく。本稿の分析結果におけるダービンワトソン比は日本が2.054、韓国が1.744で自己相関は大きな問題にはなっておらず、残差がほぼランダムに発生しているので、分析モデルは、重要な説明変数を見落としておらず、適切な変数が使われたと考えられる。
図表5は、被説明変数と説明変数の推移を、図表6は分析結果を示している。分析結果をみると、65歳以上高齢者比率と一人当たりGDPの増加は日韓両国ともに一人当たり医療費を増加させるという結果が出た。さらに65歳以上高齢者比率における係数の大きさを見ると、韓国が0.206で日本の0.176より大きい。一方、医療費の公的負担比率の増加が一人当たり医療費に与える影響に対しては日本では「負」の結果が出たことに比べて、韓国では「正」の結果が出ている。図表5を見ると、日本の医療費の公的負担比率は過去20年の間、小幅に上昇していることに比べて、韓国は日本に比べて上昇幅が大きいことが分かる。分析の結果から韓国では公的負担比率の引上げ(本人負担率の減少)が、医療に対する需要を増加させたと言える。日本の場合は、韓国ほど医療需要の価格弾力性の値が大きくないことや他の要因より公的負担比率の変動幅が小さかったのが原因で係数の符号が負になったのではないかと推測されるものの、これに関しては更なる分析をする必要があるだろう。人口千人当たり医師数の場合は日韓ともに規模や競争の原理が働いているという結果になった(韓国は統計的に有意ではない)。人口百万人当たりMRI装置保有台数や大学進学率は日本のみ一人当たり医療費を増加させるという結果が出た。また、一日の一人当たり脂肪供給量は統計的に有意な結果は得られなかった。
4 Newhouse, J.P., (1970)“A Model of Physician Pricing,”The Southern Economic Journal, Vol.37,No.2, October, pp.174-183.
(2016年01月14日「基礎研レター」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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