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高額な医療費明細書の増加と保険者における対応

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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健康保険組合連合会(以下「健保連」とする。)が公表している報告8によると、組合健保で発生した全レセプト9のうち、健保連に報告された101000万円を超える高額レセプトは増加傾向にあり、2014年度には、300件が1000万円を超えた。1000万円を超えたレセプトの傷病大分類による内訳は、111件が循環器系疾患、88件が先天性疾患、47件が血友病、17件が悪性新生物だった。
循環器系の疾患で1000万円を超えるレセプトの件数が最も多く、前年度と比べて16件増加している。毎年、健保連から公表されている報告によれば、高額レセプトの中でも最も月額医療費が高かった傷病は、2007年度以降7年間連続で「血友病」だったが、2014年度には上位11件が「心疾患」によるものとなった。同報告によると、循環器系疾患による件数は、補助人工心臓の手術が増えたことが影響して、近年増加しているとしている。
補助人工心臓に関しては、新たに保険適用となった医療機器があることも影響していると考えられる。また、2014年11月に施行された医薬品医療機器法によって、再生医療等製品の保険適用の議論が活発になっている。高額な再生医療等製品の保険適用が活発になれば、高額レセプトが増加する可能性がある11。
8 詳細は、健康保険組合連合会「平成25年度 高額レセプト上位の概要」、「平成26年度 高額レセプトの概要」をご参照ください。
9 「社会保険診療報酬支払基金」の報告書によれば、2014年5月審査分~2015年4月審査分の組合健保のレセプト件数は、医科で約1.74億件、医科と歯科あわせると約2.19億件だった。
10 後述する健保連の「高額医療交付金交付事業」に申請されたレセプト件数。
11 2015年11月18日に、医薬品医療機器法の施行後初めて、再生医療製品2製品が保険適用の承認を受けた。いずれも標準的な治療に用いる場合に1000万円を超える(2015年11月19日「日経新聞」より)。
3――高額レセプト発生時の保険者の対応
そこで国民健康保険(市町村国保)や組合健保では、高額レセプト発生による保険財政への影響を緩和するために、それぞれ保険者による拠出金を使った共同事業が行われている。
1|国保連合会による「高額医療費共同事業」(市町村国保)
市町村国保は、保険者規模に差があるだけでなく、地域ごとに医療費や所得による差があるため、医療費負担の多い市町村の負担を軽減する仕組みを導入している。高額なレセプト発生に対しては、「保険財政共同安定化事業」や「高額医療費共同事業」が行われている。
1件のレセプトが80万円を超える場合には、「高額医療費共同事業」によって、各市町村国保からの拠出金と、国及び都道府県による負担(市町村の拠出金に対して1/4ずつ負担)による交付金を交付している。また、1件のレセプトが30万円を超え80万円を超えない場合には、「保険財政共同安定化事業」によって、各市町村の拠出金を財源とする交付金を交付してきたが、2015年1月からは対象が拡大し、1円以上のレセプトに適用することになった。
さらに、2018年度からは、規模の小さい市町村に変わり、都道府県が財政運営の責任主体となることで、安定的な財政運営や効率的な事業の確保等の国保運営に中心的な役割を担い、制度を安定化させる。
2|健保連による「高額医療交付金交付事業」(組合健保)
健保連の「高額医療交付金交付事業12」は、組合健保の財政基盤の安定と事業運営の効率化を目的として、すべての組合健保からの拠出金による交付金を、高額療養費の一部として交付している。交付基準は、一般疾病については1件あたり100万円、特定疾病13については40万円を基準として、それを超えた部分について一定のルールに基づいて交付してきた14が、2013年11月以降は、一般疾病についての基準が120万円に上がった。
交付金事業は、事業規模が定められているため、財源とのバランスから基準も上がったようであるが、規模が小さい保険者にとっては、安定的な運営が難しくなると考えられる。
12 健康保険法附則第2条に規定する法定事業。
13 長期にわたって高額な医療費を要する疾病。人工腎臓を実施している慢性腎不全、血友病、抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群。
14 具体的には、基準額以上200万円以下の部分については半分、200万円以上の部分については全額に対してあらかじめ決まった交付率を乗じた額を、400万円以上の部分については全額交付している。
4――まとめ
こういった高額な医療費の動向にあわせて、市町村国保においては、財政運営を都道府県に移行するなど制度を安定化させるための仕組みが取り入れられている。健保連においても、高額医療交付金交付事業の基準を上げるなどの対策がとられている。
高額レセプトの発生は、高齢化だけでなく、医療技術の進歩や新たな保険適用の影響も大きいと考えられるため、規模の小さい健康保険組合がどのように事業を安定化していくかは、引き続き課題となるだろう。
(2015年11月30日「基礎研レター」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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