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超高齢社会を支援する福祉機器-国際福祉機器展の概況と今後の福祉機器開発・活用への期待-

青山 正治
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介護ロボット以外の様々な福祉機器にも技術革新が及んでいる。以下で、筆者が特に注目する2点の機器について触れる。一つ目の「リトルキーパス」は、ロボット技術を活用した歩行車として、はじめて、介護保険制度の福祉用具貸与の対象となる見通しの機器である(図表-5)。2つ目の「OHaNAS(オハナス)」は福祉機器ではないが、前述の「福祉機器開発最前線」の特設ブースに展示されたコミュニケーション機能に特化した一般家庭向けのロボット玩具である。この機器は、玩具として開発されたという点で、将来的な発展性や普及の拡大に大きな可能性が感じられる(図表-6)。以下で簡略な説明を加える。

街中で高齢者が、腰掛けることも出来る荷物入れのついた4輪の歩行車で買い物をする姿を見かけたことがあろう。この歩行車にロボット技術を適用したものが「リトルキーパス」であり、高齢者の歩行を支援する。上り坂ではオートでパワーアシストが、下り坂では制動力が働き、坂道を横断する際の横流れをも防ぎ安心して歩行できる。このほか、ハンドルも左右の両端だけでなく、疲れた際などには前傾姿勢で肘置に肘を置き前方のグリップを握って歩行することもできる(2WAYハンドル)。性能としては2時間の充電で4時間の平地と上り下りにおける歩行を支援する。
なお、この機器は、2016年春から介護保険制度による福祉用具貸与(レンタル)の13種目にある「歩行器」に新たに加えられる予定である。対象は歩行が難しくなる要介護3から4の人や、パーキンソン病などの疾患による歩行障がいを持つ人の歩行機会を増やし、残存能力の維持・増進を目標としている。12月より18.5万円(税別)で販売が開始され、来春以降の動向が注視されよう。

図表-6の機器は一般家庭向けのコミュニケーションに機能を絞ったロボット玩具(OHaNAS)であり、展示され衆目を集めていた。この製品はタカラトミーとNTTドコモの共同開発でスマートフォンなどを介してクラウドを活用し、人と会話できる玩具であり、低価格(19,800円税別)でもある。外見は両手のひらに乗る球体型で羊をイメージしたロボット玩具であり、既に10月から発売されている。球体の本体正面の黒い円形の顔に当たる部分内に、円形の中抜きの目が2つあり、機器が話す際は青色に、ユーザーの音声を聞き取る際にはオレンジ色に点灯する(写真の状態)。このロボット玩具の特徴は、通常の介護施設向けなどの高度のコミュニケーションロボットとは異なり、大きく動いたり移動したりはせず、人との会話機能に特化している点である。福祉機器に含まれる介護ロボット4とは全く異なるジャンルの“ロボット玩具”であり、スマホやタブレット端末を介してクラウドを活用するコミュニケーション用の一機器である。
筆者は、手頃な価格でロボットとの会話が楽しめる機器が一般家庭向に広く普及すれば、さらに応用用途が生み出され、予想外に将来のホーム用ロボット市場のベースを醸成する可能性を秘めているのではないかと考えている。ロボット玩具という新たなジャンルからのアプローチであり、今後の販売動向やユーザーからの反応に注目したい。
4 介護ロボットは厳格な定義がされていないが、福祉機器に含まれる介護ロボットには高い安全性の確保や効用・効果に関するエビデンスなどが要求される。この点で「OHaNAS」は福祉機器ではなく一般家庭向けのロボット玩具ではあるが、今後の用途開発や展開が注目されよう。
3――超高齢社会における日常生活を支援する福祉機器
1|高齢化の進行は福祉機器を生活必需品に
福祉用具や福祉機器というと何か特定の人向けの製品と思われがちである。だが、老眼鏡も福祉用具の一つであり、加齢の進行に伴って必要性が高まる中高齢者にとって重要な生活必需品である。
また、「アシストウォーカーRT1(図表-4の5番)」や前述の「リトルキーパス」は、脚力が低下した高齢者や歩行が困難になりつつある高齢者が日常の生活で活用することによって、脚力の衰えを抑制し、脚力の維持・増進を図ることが可能になると考えられる。
さらに、歩行支援によって、利用者の活動性が維持され、地域の高齢者の集まりに参加したり、介助者を伴わずに単独で買い物をしたりといった社会参加の可能性が維持・拡大されれば、高齢期のQOLを高めることにも大きく寄与する可能性がある。
ロボット技術を活用した既存の福祉機器や介護ロボットなど新たに登場する機器群が、低下する身体機能や喪失した機能を補うだけでなく、今まで以上に、利用者の自立支援を実現することで、利用者の活動性を維持・拡大する可能性があることを考えれば、福祉機器は、今後の高齢化のより一層の進行に伴い、まさに日常生活に欠くことのできない生活必需品となっていくのではないだろうか。
2|日常生活を支援する福祉機器の今後の開発・普及にあたって
このような現状を踏まえ、さらに新たな福祉機器群の登場と活用を促進するためには何が求められるだろうか。簡略に述べると、一つ目には、高齢者などの様々な状態像を持つ人や介助者にとっても安全で使い易い機器開発が必要である。二つ目には、機器の熟成を一層進めるために機器の継続した改良が必要であろう。三つ目には、それらの機器をなるべく廉価で必要とする多くの人が活用できる仕組みが必要とされよう。
さらにこれらを実現する上で、出来るだけ社会全体で様々な福祉機器の開発や普及について合意形成がなされ、課題解決が必要とされる分野の福祉機器開発が迅速に推進されることが必要ではないだろうか。その為には、様々な新たな福祉機器が登場しつつある現状について、また、それらの機器活用によって利用者の自立支援や介護者や介助者の負担軽減が可能となることについて、社会全体が深く理解することが重要であろう。
筆者は、国際福祉機器展が、この普及・啓発活動において、非常に大きな役割を果たしていると確信している。近年、頭打ちの傾向にある国際福祉機器展の来場者数が、主催者や関係者の努力やメディア等の喧伝によって、今後拡大していくことを大いに期待したい。
おわりに
高齢期の日常生活の課題をよりよく改善する上で、小学生から高齢者までの幅広い世代が多種多様な福祉機器の存在を知ることは極めて有益であり、是非とも、幅広い世代の数多くの人々が国際福祉機器展に足を運んで欲しい。
<参考資料・レポート等>
1. 政府及び行政などの公表資料
・財団法人保健福祉広報協会「H.C.R.2015 イベントのご案内」(2015年10月7~9日)会場配布
2.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート(Web版)」
・「3年度目となる「ロボット介護機器」開発補助事業の動向 -2015年度より国立研究開発法人日本医療研究開発機構が実施-」(2015年9月29日)
・「利用意向高い介護ロボット -「平成27年版情報通信白書」の介護用ロボット利用の意識調査-」(2015年8月28日)
・「社会で広く理解を深めることが重要な介護ロボット -紹介されたロボット介護機器の3機種-」(2015年6月30日)
・「介護ロボット開発・普及の現在位置と今後への視点-“ロボット介護”の開発と新たな開発・普及サイクルの構築-」 (2015年4月30日)
・「『ロボット新戦略』における介護分野のアクションプランの要点-介護保険と地域医療介護総合確保基金による新たな普及方策-」
(2015年3月30日)
・「本格化するサービス分野でのロボット開発 -介護ロボット開発動向からサービスロボットへの示唆-」(2014年12月26日)
・「介護ロボット開発の進展と今後の開発への示唆 –複数の展示会で注目を集める様々なロボット-」(2014年11月28日)
・「『再興戦略改訂』に組み込まれた『ロボット革命』の実現 -『社会的な課題解決』へ向けた『5カ年計画』策定に注目-」(2014年9月30日)
・「ロボット介護機器に対する2年度目の開発支援事業が始動 –経済産業省2014年度事業概要と今後の開発への期待-」(2014年7月29日)
・「『ロボット介護推進プロジェクト』が目指す開発・普及の土壌の醸成 –開発支援の現在位置と『ロボット介護』普及への布石-」(2014年6月30日)
・「重要性増す在宅での自立を支援する機器開発-拡充されたロボット介護機器(介護ロボット)の『重点分野』」(2014 年4月22 日)
(2013年度以前の基礎研レポートは「執筆一覧」より)
3.ニッセイ基礎研究所 「研究員の眼(Web版)」
・「ロボットを上手に活かす超高齢社会の構築に向けて」(2015年5月27日)
・「超高齢社会の生活者を支援する介護ロボット」(2013年11月27日)
・「本格化する『ロボット介護機器』の開発支援」(2013年4月5日)
・「介護ロボットだけではない『介護ロボット』」(2013年3月21日)
・「幅広い分野で技術革新が進展する福祉機器」(2012年10月4日)
・「介護ロボットは普及するか」(2012年6月28日)
(2015年11月30日「基礎研レポート」)
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