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- 株、上方修正銘柄をいつ買うか-早い投資判断が求められる銘柄と、じっくり吟味すべき銘柄の違い
<要約>
例年、中間決算を発表する時点で多くの企業が業績予想を上方修正するが、それが株価に織り込まれるスピードは銘柄によって異なる。発表直後から継続的に値上がりする銘柄は早めの投資判断が求められるが、しばらく時間を置いてから値上がりする銘柄はよく吟味してから買えばよい。その違いは何か。
■今期の上方修正は限定的かつ個別色が強まる
いよいよ4~9月期の決算発表が本格化する。筆者は2015年8月10日付けレポート『過度な業績上振れ期待は禁物』で、「業績予想の上方修正や期末実績の上振れは今や“恒例行事”だが、15 年度は大きなサプライズを期待するのは禁物だ。その理由として(日経平均ベースの)期初予想が例年よりも高かったことが挙げられる。」と述べた。
さらに「個別企業でも同様の傾向がみられ、15 年度は輸出関連セクターを中心に業績見通しの保守的な企業が減った」ことにも触れた。つまり、例年よりも発射台が高いのでその後の“伸びしろ”が限られるということだ。
その後、中国をはじめとする世界経済の減速が懸念され始めたほか、頼みの綱であった米国国内の景気回復に対しても最近発表された経済指標の弱さから疑念が生じており、日本企業が中間決算時点で通期見通しを上方修正する幅はますます限定的になりそうだ。特に、輸出関連の企業は強気の見通しを出しづらい環境変化に直面していると言えよう。
これらの事情(期初予想が高いことと先行きの不透明感)が複合する結果、個別銘柄の上方/下方修正度合いは濃淡が強くなると想定される。また、企業が発表する最新の見通しをどう解釈すべきかについて、投資家の判断が分かれるケースも増えるだろう。そこで重要な役割を担うのが証券会社のアナリストや報道機関が発信する情報だ。特に、証券会社のアナリストはレーティングや目標株価といった形で個別銘柄の割高割安情報を提供するので、株価に与える影響も大きい。
■市場の注目度と株価の反応
各銘柄について情報発信するアナリストの人数は企業によって異なり、図1のように大型株ほど多い。具体的には、大型株では93銘柄(93%)が10人以上のアナリストにカバーされているが、中型株では10人以上が108銘柄(27%)、5~9人が最も多く161銘柄(40%)、1~4人が105銘柄(26%)、そして27銘柄(7%)は全くカバーされていない。また、本稿の分析対象外なので参考としているが、小型株では0人が最も多く735銘柄(53%)と過半数を占めており、次いで1~4人の588銘柄(42%)と、9割以上の銘柄が4人以下または不在(0人)だ。
カバーするアナリストの人数が多いのは、それだけ市場ニーズが高いためだ。言い換えると市場の注目度が高いので、アナリストに限らず企業自身や報道機関から何らかの情報が発信されると、その情報が株価に織り込まれるスピードが速いだろう。また、これらの銘柄は多くのアナリストが割高割安を評価するため株価が一定水準に収斂しやすい可能性もある。
反対にアナリストが不在や1人だけの銘柄では情報の伝播に時間がかかるうえ、他のアナリストの見方と比較できないなどの理由で投資家が判断に時間を要するため、株価が織り込むスピードも相対的に遅いはずだ。
■注目度が高い銘柄は継続的に値上がり、低注目銘柄はじっくり吟味
実際、14年3月期と15年3月期の中間決算発表時に予想経常利益を上方修正した銘柄についてアナリスト人数別に株価の推移(市場全体との相対パフォーマンス)を調べたところ、図2のように5人以上の銘柄では発表翌日に初期反応として急激に値上がりした後も継続的に強いパフォーマンスを示した。
一方、1~4人の銘柄は初期反応こそ5人以上の銘柄と遜色ないが、その後はしばらく時間が経過してから株価が上昇しており、業績上方修正という情報の分析・評価に時間を要した様子が見られる。また、アナリストが全くカバーしていない銘柄(0人)は、発表翌日こそ値上がりしたものの、その後は市場平均並みで推移しており、企業の発表後にアナリストから追加的な分析や割高割安を評価した情報が発信されないため市場が認識しづらく、結果的に株価に反映されない可能性が示唆される。
以上の結果から、多くのアナリストがカバーしている銘柄では上方修正の発表後、速やかに投資判断することでより大きな収益を得られる可能性があると同時に、その後もアナリストの追加的な情報発信等を材料に値上がりしそうな銘柄を選別してから投資しても一定程度の収益を確保できそうだ。
また、アナリスト人数が1~4人の銘柄は、時間をかけて情報の内容をしっかり吟味してから投資しても機会損失は発表翌日の値上がり分で済みそうだ。図2からは投資判断までの猶予は約1ヶ月と示唆される。その間に情報収集・分析して銘柄を厳選することが賢明だろう。
最後に、アナリストが全くカバーしていない銘柄の場合は、いかに良い内容の上方修正であっても、それを市場に伝達する機能が十分でなく株価の値上がりに繋がらない恐れもあるので注意が必要だ。当然だが、自分だけでなく他の投資家も「もっと上がる」と思わなければ株価は上昇しない。
冒頭で述べたように日本株を取り巻く経済状況が昨年までと異なるほか、大型株主導か中小型株主導かといった市場環境の影響もあるので一概にはいえないが、市場全体の大幅上昇への期待が薄れつつある中、本稿で示した市場メカニズムに関する示唆が投資のヒントになれば幸いである。
(2015年10月23日「研究員の眼」)
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- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
2023年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会認定アナリスト
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