- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 雇用・人事管理 >
- 「知らなかった」では済まされない労働契約申込みみなし制度~10月1日から「派遣先」に科されるペナルティ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
2015年9月11日に改正派遣法(以下「2015年改正派遣法」と呼ぶ)が成立し、9月30日に施行された。この改正により、派遣法創設以来続けられてきた業務区分による期間制限が、(1)派遣先事業所単位の派遣受入期間の期間制限(原則3年、派遣先の過半数労働組合または過半数代表からの意見聴取を条件として延長可能)、(2)派遣社員個人単位の期間制限(原則3年、派遣会社との雇用契約が無期の場合は制限なし)の2本建てに見直された。派遣会社に対しては、一部の事業に認められていた届出制が廃止され、許可制に一本化されるとともに、派遣社員の雇用安定化やキャリアアップのための取組が義務化されるなど、大幅に規制が強化されている。派遣先についても、派遣社員と同種の業務に従事する直接雇用の社員との均衡待遇が、「配慮義務」として具体的な行動を求められるようになる等の改正が行われている。
既に施行された2015年改正派遣法について、正しい認識と対応が急がれることはいうまでもないが、もう一つ忘れてはならないのが、本日10月1日に施行される「労働契約申込みみなし制度」である。これは、派遣先が違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が派遣社員に対して、派遣会社と締結されていたのと同じ労働条件で、労働契約の申込みをしたとみなされる制度である。この制度は、違法派遣を受け入れた派遣先に民事的なペナルティを科すことにより、派遣規制の実効性を確保することを狙いとして、2012年改正派遣法(2012年10月1日施行)に盛り込まれたものである。この制度の施行日が2015年10月1日となっているのは、2012年改正派遣法のなかで、この制度については、施行までに3年間の猶予が設けられた経緯があるためである。
違法派遣の内容としては、次の4つがあげられている。
(1)派遣禁止業務に従事させた場合
(2)無許可の派遣会社から派遣を受け入れた場合
(3)派遣可能期間を超えて派遣を受け入れた場合
(4)派遣法等の適用を免れる目的で、いわゆる偽装請負を行った場合
従来から、(3)については期間制限の基準となる業務区分の定義が、(4)については偽装請負の定義1が曖昧であるとの批判があった。(3)については2015年改正派遣法で業務区分が撤廃されたことに伴い、違法性の判断が明確にできるようになった2。(4)については、こうした批判への配慮から、「派遣法等の適用を免れる目的で」という条件が付されている。
なお、(3)については、2015年改正派遣法で設けられた2本建ての期間制限のいずれを超えても、違法派遣だとみなされる。派遣先事業所単位の派遣受入期間については、前述のとおり、期間制限の延長に向けて過半数労働組合または過半数代表からの意見聴取が必要となる。過半数代表者の選出においては、管理監督者ではないこと、投票・挙手等の民主的な手続きによること、が求められる点にも留意する必要がある。また、派遣社員個人単位の期間制限については、同一の組織単位(「課」など)でカウントされることから、たとえば派遣受入期間の途中で、受入先を別のチーム(課の下部組織)に変更したとしても期間が通算される。
どんな制度でも、違法な形で利用されれば、関係者のみならず、制度そのものの将来に深刻な影響を及ぼす。2015年改正派遣法に加えて、2012年改正派遣法による「労働契約申込みみなし制度」についても、正しく内容が理解され、派遣制度が適正に利用されることが求められる。正しく内容を理解するために必要な情報の所在を以下に付記するので、参考にして頂けると幸いである3。
(参考情報:厚生労働省ホームページ)
労働契約申込みみなし制度について(職発0930第13号・通達)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000092369.pdf
平成27年労働者派遣法の改正について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386.html
・派遣元事業主の皆さまへ
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000097166.pdf
・派遣先の皆さまへ
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000097167.pdf
・派遣で働く皆さまへ
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000097169.pdf
(2015年10月01日「研究員の眼」)
松浦 民恵
松浦 民恵のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2017/04/07 | 「男性の育児休業」で変わる意識と働き方-100%取得推進の事例企業での調査を通じて | 松浦 民恵 | 基礎研マンスリー |
2017/02/20 | 「男性の育児休業」で変わる意識と働き方-100%取得推進の事例企業での調査を通じて | 松浦 民恵 | 基礎研レポート |
2016/12/07 | 「130万円の壁」を巡る誤解-2016年10月からの適用要件拡大の意味を正しく理解する | 松浦 民恵 | 基礎研マンスリー |
2016/11/17 | 再び注目される副業-人事実務からみた課題と方向性 | 松浦 民恵 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く -
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【「知らなかった」では済まされない労働契約申込みみなし制度~10月1日から「派遣先」に科されるペナルティ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「知らなかった」では済まされない労働契約申込みみなし制度~10月1日から「派遣先」に科されるペナルティのレポート Topへ