コラム
2015年07月30日

米国が採るべき外交政策スタンス-イアン・ブレマー氏の“SUPERPOWER(超大国)”で示された3つの選択肢

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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日本でも著名な国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、米国が採るべき外交政策スタンスの選択肢を提示した“SUPERPOWER(超大国)”を5月に出版した。同書では、(1)「特別な存在としてのアメリカ(Indispensable America)」、(2)「利益優先のアメリカ(Moneyball America)」、(3)「独立したアメリカ(Independent America)」の3つの選択肢が示されている。これらの選択肢の違いは、主に米国の外交問題に対する関与の程度である。具体的に、それぞれの外交スタンスは以下のように整理されている。

(1)「特別な存在としてのアメリカ」は、米国が世界における唯一の超大国であり、世界の警察としての役割を積極的に果たすべきであるとの立場。

(2)「利益優先のアメリカ」は、米国を会社のように考え、外交問題の優先順位をつけた上で、米国に利益をもたらす外交問題に絞って関与すべきとの立場。

(3)「独立したアメリカ」は、外交問題に極力関与せず、米国内への投資など内政を重視する立場。

一方、ブレマー氏は同書でオバマ大統領の外交政策を政策スタンスが曖昧で場当たり的であると痛烈に批判している。同氏は場当たり的な外交政策の具体例として、同大統領が、シリアの化学兵器使用疑惑に対して、シリアが超えてはならない一線(レッドライン)を超えたとして、当初空爆することを主張していたものの、他国や世論の反発を受けてあっさり空爆方針を取り下げてしまったことなどを挙げている。さらに、外交スタンスが曖昧な点についても、同大統領が昨年アジアを歴訪した時に同行した記者に対して、外交の基本方針(ドクトリン)は、「馬鹿なことはしないこと」であると説明した発言を挙げ、ヒラリー・クリントン前国務長官が、「大国には組織化原理が必要だが、馬鹿なことをしないは組織化原理ではない」と批判したことと併せて紹介している。

では、今後どの政策スタンスを採るべきかだが、ブレマー氏は3つの選択肢のどれも採り得るとしながらも、(3)「独立したアメリカ」を選択すべきだと主張している。すなわち、外交問題に極力関与せず、国内の教育やインフラ整備などに投資することで米国の国力を向上させるべきとしている。

同氏がそう考える理由として、米国の国力が相対的に低下している中で、米国を取り巻く外交問題は、同国が世界の警察として積極的に関与することが、今後益々困難になっていくことが予想される上、国内世論の支持も得られないこと等が挙げられている。

一方、同氏はアジアにおける日本や、欧州におけるドイツは、米国の役割が低下する中で、これまで以上に安全保障問題等において積極的に関与すべきだと主張している。日本では、安保法制や集団的自衛権についての議論が活発になっており、米国の外交スタンスについての思惑も交錯している。そうした中、オバマ大統領の任期切れは迫っており、今後は次期大統領の外交政策スタンスが重要になってくる。

米国では2016年の大統領選挙に向けた選挙戦は始まったばかりで、次期大統領がどのような外交スタンスを採るかは未だ明確ではない。しかしながら、米国の外交政策スタンスによって日本の安全保障問題も大きな影響を受けることから、有力候補の外交政策が注目される。

(2015年07月30日「研究員の眼」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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