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昨年来のアベノミクスの取組みにより、日本社会は活気を取り戻しつつある。大胆な金融政策(第一の矢)、機動的な財政政策(第二の矢)、新たな成長戦略(第三の矢)と、矢継ぎ早に展開された取組みは、国民及び市場の「期待感」を高めることに成功した。国民としては、迎えた2014年度、この「期待」を肌で「実感」できる社会の前進が期待されるところである。
この前進の鍵を握るのが、第三の矢である「成長戦略」であろう。これまで「日本再興戦略」(2013年6月)をもとに、「日本産業再興プラン」、「戦略市場創造プラン」、「国際展開戦略」が推し進められてきたが、まだまだこれからの状況にある。本戦略は、今後も進捗を見ながらブラッシュアップされていく予定であり、現時点でとやかく述べることは拙速な感があるが、一つ決定的に不足している「視点」がある。それは「高齢化への対応」である。政策担当者からすれば、「何を言っている、十分対応している」と反論をいただきそうであるが、筆者からすれば、「高齢化に伴う課題を“チャンス”に変える視点」、「国民の高齢期の生活を安心で豊かに“創造”していく視点(策)」が足りない。かつては(2011年)、経済産業省主導のもとで「シルバー・イノベーション(≒高齢者向けの商品サービス開発の推進)」に関する政策が、政府内で議論されていたが、以降、その議論の姿が見えない。医療及び介護に特化したライフ・イノベーションの政策、及び健康長寿を推進する政策に吸収されてしまった可能性もあるが、幅広い領域に散在する多様な高齢期(高齢者)の生活ニーズに照らした場合、市場創造に関する対策の不足感が否めない。
このことは、昨年度、筆者が「高齢社会における選択と集中に関する研究会」(財務省財務総合政策研究所)i の中でも主張してきたことであるが、やがて人口の3人に1人が65歳以上の高齢者となる本格的な超高齢社会を如何に持続的に成長させることができるか、その中で人生90-100年にも及ぶ可能性のある国民一人ひとりの長寿を如何に豊かなものにできるか、を考えれば考えるほど、高齢期の生活を安心で豊かにする“イノベーション”が必要である。そのキーマンは民間の“産業界”であるとも考える。高齢化最先進国であり最長寿国である日本であるにも関わらず、高齢期の生活充実に焦点を当てた“戦略”がないことは不思議なくらいである。ぜひ高齢期のニーズを今一度広く捉え直した上で、そのニーズに応える“戦略”が打ち立てられ、政策として推進されることを期待したい。
※なお、筆者の考える具体策については、追ってご紹介させていただく予定である。
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk101.htm
(2014年05月13日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)、超高齢社会・市場、高齢者就労問題、ライフデザイン、高齢者のQOL/well-being
03-3512-1878
- 2004年 :ニッセイ基礎研究所入社
2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員
2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター 訪問研究員
2023年度 :早稲田大学Life Redesign College(人生100年時代の大学)講師
内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)
厚生労働省「生涯現役地域づくり普及促進事業有識者委員会」委員長(2024年度)
財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)
東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)
神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017-19年度)
生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)
全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)
一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)
一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)
【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他
前田 展弘のレポート
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