2014年02月28日

「新興国・地域からの資金引き揚げ」と警戒すべきリスク

経済研究部 主任研究員 高山 武士

文字サイズ

  1. 2013年5月にバーナンキFRB議長(当時)が量的緩和策の縮小に言及して以降、経常赤字国を中心に新興国・地域の通貨が大きく下落し、特に「外国人投資家による新興国・地域からの資金引き揚げと先進国市場への還流」に注目が集まった。本稿では、この時期の新興国・地域における資本の流出入の動きを確認していく。
  2. 証券投資(株や債券)に限れば「外国人投資家による新興国・地域からの資金流出」がすべての新興国・地域で言葉通りに発生した訳では無かった、つまり、証券投資収支が「流出超過」とならなかった国・地域は多かったことが分かる。
  3. 証券投資に預金や貿易信用、貸付などを含んだ資産全体で見ると流出に転じている国も多い。ただし、この流出規模はそれほど大きくなく、フラジャイル・ファイブに関しては、経常収支赤字による外貨流出の方が深刻な状況とも言える。
  4. 金融市場では外国人投資家の株式の売り越しが目立つ。ただし、海外への資本流出がそれほど目立っていないことを考えると、新興国・地域の市場内で、国債など比較的安全な資産の形でとどめて置かれたことや、一部の外国人投資家が、相場下落時のタイミングで、むしろ値ごろ感から買いを入れたことなどの可能性も考えられる。この場合、新興国・地域では、いまだに多くの資本が外国人投資家によって保有されており、潜在的な資本流出リスクを抱えているという点には警戒が必要だろう。
  5. 新興国・地域で危機が発生するリスクは低いと思われるが、トルコのように短期の外貨対外債務に比べ外貨準備の保有残高が少ない国も見られる。こうした国については、今後の資金繰りの動向には注意を払う必要があるだろう。

新興国・地域における外貨準備の増減/新興国・地域の外貨準備高




(2014年02月28日「Weekly エコノミスト・レター」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【「新興国・地域からの資金引き揚げ」と警戒すべきリスク】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「新興国・地域からの資金引き揚げ」と警戒すべきリスクのレポート Topへ