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- QE3縮小と新興国からの資金流出 ~耐久力、リスク、実体経済への影響
2013年08月30日
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- 今年5月22日、FRBのバーナンキ議長が量的緩和策の縮小について言及したことを引き金に、新興国・地域では資金流出の動きが加速した。量的緩和策と新興国・地域における資金流出入の関係を定量的に把握することは難しく、また実際にQE3は縮小されたわけではないが、売りが売りを呼んでいる状況にある。
- 過去20年を見ると、短期的な変動を除けば、株や為替の暴落が観測されたのは極端な信用収縮が発生した通貨危機と世界金融危機の2回である。それ以外の、マネーの収縮、投資家の(信用収縮までには至らない)リスクオフ姿勢、ファンダメンタルズの低迷を要因とした株安や通貨安は、変動が急激ではなく、また、それほど深刻化せずに調整されてきたと見られる。
- 今回の新興国売りが通貨危機に類する危機を誘発する可能性は低い。通貨危機時と比較し、外貨準備高を積み増し、通貨下落に対する耐久力が増していること、対外債務残高を減らし、また外貨調達のハードルを下げる枠組みを作ったことで、通貨安を引き金にした資金繰りのひっ迫が発生するリスクも低下しているためである。
- しかし、資金引き揚げに対する耐久力は国・地域ごとに異なる。経常赤字を抱え、外貨準備や対外金融資産が比較的少ないインドネシア、インド、ブラジルでは資金引き揚げに対する耐久力が弱まっている。これらの国ではさらなる通貨下落の可能性があるといえる。
- これら経常赤字国で懸念される悪影響は実体経済の成長鈍化である。通貨安によるインフレ圧力の増加や、利上げを含む通貨防衛で国内の景気が減速する可能性がある。問題の根源であるQE3の縮小が開始され、市場が材料を消化するまではじりじりと通貨安が進む可能性が高い。そのため、これらの国では景気の下押し圧力が強まるだろう。
- ただし、米国経済の回復などにより輸出が拡大、構造的要因である経常収支に改善が見られれば、通貨安圧力は弱まり、悪影響も限定的なものに留まるだろう。
- 逆に、輸出の拡大と経常収支の改善が見られなければ、通貨安圧力が続くリスクがある。この場合、成長を犠牲にしつつ追加利上げや規制によって通貨安を抑制する必要が生じるだろう。経済活動が鈍化すれば輸入が減り、経常赤字が改善するため、通貨安圧力も弱まるだろうが、成長率の低下はまぬがれ得ない。そのため、今後の新興国・地域の輸出や経常収支の動向は注目と言える。
(2013年08月30日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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