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- 女性大統領の誕生は女性の雇用拡大や地位向上につながるのか!
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2012年 12月19日、韓国の第18代大統領選挙でパク・クネ候補が大統領に当選したことにより、韓国の歴史において初めて女性大統領時代が開かれることとなった。しかしながら、韓国における女性の労働力率は54.9%でOECD 平均(61.8%) より6.9% ポイントも低い。また、男女間における賃金格差は、39%でOECD平均(15%)の2倍以上になっている(図表)。さらに管理職に占める女性の割合は10%で、OECD平均の3分の1に過ぎない。このように女性に対する就業の機会が十分確保されず、処遇や資金面において女性が何らかの不利益を受けている可能性が高い国で女性大統領が誕生することは本当に画期的なことである。
さて、韓国の女性たちの地位と権利を今より向上させるためには、何より安定した雇用の場を確保する必要がある。韓国は女性の労動力率が低いのみならず、働く女性の多数がパートやアルバイトなどの不安定的な雇用に従事している実態にある。2012年現在、非正規職として働く女性の割合は 41.5%で、男性の 27.2%より 14.3%ポイントも高い状況である。過去には生活の足しとしての小遣いを稼ぐためにパートやアルバイトなどで働く女性が多かったことに比べて、最近は就職が厳しくなって正規職として就職できなかった女性や子育ての母親世帯が増加している。また、女性の場合、出産や育児によりキャリアが断絶され、男性より勤続年数が短く、その結果管理職に昇進する割合は男性より圧倒的に低くなっていた。
しかしながら、昨年の12月にパク・クネ氏が大統領選で勝利してから早くも少しずつ変化が起き始めている。最も大きな変化はマスコミが女性の雇用や管理職登用と関連した記事を連日のように掲載することになったことである。実際には、女性の機会拡大は大統領選に勝利する前のパク・クネ氏の周辺からも起きていた。つまりパク・クネ氏が大統領候補に確定されてから、相当数のマスコミがパク・クネ氏の担当記者を女性に交替していた。パク・クネ氏により密着して取材するためである。
企業にも変化が起きている。現代・KIA自動車グループは昨年12月 28日に定期人事を行い、創業以来最も多い3人の女性を役員として昇進させた。 全役員昇進者(379人)に対する比重はまだ小さいが、現代・KIA自動車が今まで韓国を代表する男性中心企業であったことを考慮すれば決して少ないとはいえない。このような動きはグローバル企業でもっとはっきり現われている。製薬会社である韓国MSDは、全役員 13人の中 8人が女性である。また、韓国ノバルティスの場合にも全役員15人の中 9人が女性で構成されている。また、韓国 IBMは 1967年設立以後初めて中国系アメリカ人女性を社長として任命した。
政策面にも変化が生じ、女性雇用を支援するための政策も継続して発表されている。
まず女性の雇用率を拡大する目的で、政府は500人以上の民間大企業や公共機関に対して、そこで働いている女性労働者と管理職の割合が業種平均の70%に達しておらずかつ政府の是正勧告に従わない場合、企業・機関名を公開するとともに政府が実施する事業への参加を制限するなどの措置を行う予定である。
一方、中小企業に対しては、女性雇用の支援状況に応じてポイントを付与する「男女雇用平等インセンティブマイレージ制度」を導入する。この制度では、女性雇用率、 女性管理者の割合、 出産及び育児休職の使用割合、 姙娠及び出産後の再雇用率などを電算システムを通じて統合管理し、その結果に基づいて企業に税制優遇措置や金融支援、そして社会保険料支援などを段階的に実施する予定である。
さらに、公共機関に対しては、女性役員の割合を順次拡大する内容を骨子にした「公共機関運営に関する法律改正案」が 1月 13日に国会に提出された。主な内容は公的企業の女性役員の割合を 3年以内に15% 以上に、さらに5年以内には30%以上にまで引き上げることである。しかしながらこれに対する問題点も指摘されている。2006年3月から積極的労働市場政策1 を実施することにより女性役員の割合が少しずつ上昇してはいるが、女性の場合、出産及び育児などが原因でキャリアが断絶される場合が多く、役員としての経歴及び能力を持っている人材が男性に比べて少ないのが事実である。従って現段階で女性役員の割合を供給能力より高く設定してしまうと、企業は基準を達成しなかった時の罰則から逃れるために外部から女性管理職を引っ張ってくるか、経歴や能力が十分ではない内部の女性従業員を昇進させざるを得なくなり、その結果男性が逆差別を受ける可能性もある。韓国の実情から考えると、企業における女性役員の供給能力を把握し、女性役員の割合を供給能力以上に高く設定しないことや、将来女性が経歴や能力が足りず、役員として昇進できないことが発生しないようにキャリアの断絶を防ぐ措置に力を入れることも必要であろう。
韓国で大統領が任命できる政府関連高位職は1万人に達すると言う。 就任を一ヶ月余り後に控えている韓国史上最初の女性大統領パク・クネ当選者が、今後どのような人事を行うか世間が注目している。女性の雇用率が高まり、女性がより躍進する社会になるのか今後の動きに注目するところである。
(2013年01月28日「研究員の眼」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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