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ご馳走しあうことで「絆」を深めよう!― 無縁死や孤独死の減少を期待する ―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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筆者が韓国にいたときには、学校や会社で1人で昼食を食べることは滅多になかった。さらに夜になると大勢で集まり食事を楽しんだ。二人で食事をするときにはご馳走しあうことが多く、また、大勢で食事をするときには、その日の主役(例えば誕生日を迎えた人)がご馳走をすることが一般的であった。先輩は後輩によくご馳走をし、後輩はまた、自分の後輩にご馳走をする。まさにご馳走の継承であり、このようなご馳走の文化が絆を作り人々を孤立感から守っていたと思われる。
では、最近の韓国はどうだろうか。韓国出張の際に、人と会えない時などは、一人で昼食を食べることもあるが、周りはグループなど複数で昼食を食べる人ばかりで一人で食べている人は私以外には見あたらない。私は周りの視線が気になり、なかなか食事が進まない。
韓国は今でも皆で昼食をとる習慣が残っている。しかしながら、私が韓国にいた十数年前と比べて少し変わったのは、レジの前の揉みあいが少なくなったことである。一昔前には、「今日は私が払う」、「いや私が」という言い争いが、会計の際に頻繁に聞こえたが、最近はそういう風景を見ることも少なくなった。すなわち、韓国にも「ご馳走の文化」に変わって「割り勘文化」が普及してきたのであろう。
2010年に韓国の会社員を対象にした昼食代の支払いに関する調査によると、「自分の分は自分で払う」と答えた割合は51.5%で最も多かった。一方、回答者の27.6%が、現在でも「仲間同士で順番を決め、ご馳走しあう」と回答し、4.7%は「主に先輩がご馳走をしてくれる」と回答した。「割り勘文化」は、海外への留学経験がある若者の増加や、個人主義の普及などにより広がってきたのであろう。
日本も以前はご馳走の習慣が今よりもあったが、バブル崩壊により、経済の低迷が続く中、そういう習慣がだんだんなくなっていったと知人から聞いた。ここで筆者は新しい「ご馳走」の文化を提案したい。グループ同士で一緒に食事をし、順番に昼食代を払う仕組みを作り、最初は週1~2回の頻度でやってみればどうだろうか。一日だけを考えると、払う人が損をすることになるが、順番に「ご馳走」の行動を繰り返すと、結局は自分が自分のお金でご飯を食べていることと同じ結果になる。「割り勘」をした時と支払う金額は変わらず、さらに上司や仲間、友達や地域住民などとの「絆」というボーナスがいただける。
人との付き合いによる幸せは、日頃からの付き合いを大事にしてこそ得られるものであり、ある日突然現れるものではない。一緒に食事をしながらご馳走しあうことは、忙しい日々をすごしている現代人には面倒かもしれない。しかし、それをすることにより絆が生まれ、大げさではあるが将来的に「無縁死」や「孤独死」を減らすことに繋がるのではないだろうか。
(2012年04月26日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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