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金融行動でみたリタイアメント層の資産形成・運用―投資経験やリタイアメント・ライフの生活設計開始時期によるセグメンテーション(2)
保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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昨今の運用状況悪化の中、金融商品の選択において安全志向が強まり、この数年の退職金等いわゆる「団塊マネー」の多くが預貯金として保有され、リスク性商品には向かっていないと言われている 。そこで本稿では、定年前後にあるリタイアメント層を対象とした価値観や金融行動に関するアンケート調査から、当該層の資産形成や運用についての考え方を分析する。分析には、リタイアメント・ライフの生活設計開始時期と投資経験で分割したセグメントを使用する。
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金融資産残高および不動産価値は、(1)や(2)の投資経験あり層の方が(3)や(4)の投資経験浅い層より多い。これは、(1)や(2)は、投資にまわせるだけの経済的余力があることと、資産運用に関心を持ち、資産を増やしてきたことが相乗的に働いているものと考えられる。また、投資経験が同程度であれば、(1)や(3)の50歳以前から準備層の方が、(2)や(4)の定年直前以降に準備層より多い。これは、(1)や(3)では、比較的若いうちから生活資金を準備する経済的余裕があったことと、早くから老後にむけて資産形成を行うことができたことによる成果とによるものと考えられる。
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資産運用についてみると、(1)投資経験あり・50歳以前から準備層は運用において利用したい情報も情報源も幅広い。資産運用への関与が強く、金融商品に関する知識もあり、リスク性商品を運用手段として取り入れている様子が窺える。しかし、購入した商品に対する不安は大きい。(2)の投資経験あり・定年直前以降に準備層も同様の傾向があるが、(1)と比べれば情報の利用も資産運用への関与も弱い。一方、(3)の投資経験浅い・50歳以前から準備層は、利用する情報源が少なくクチコミや勤め先による情報に依存する傾向がみられる。金融機関に関する情報の利用意向が高く、資産運用の不安においても機関に関する不安が強い。もっともボリュームの多い(4)投資経験浅い・定年直前以降に準備層は、利用したい情報も少なく、資産運用へのかかわりも弱く受動的である。また、資産運用に関する不安は小さいが、多岐にわたる。
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金融資産の配分状況をみると、いずれのセグメントも預貯金の配分が最大で、およそ半分程度である。ただし、資産運用に関する考え方を反映して、(1)と(2)の投資経験あり層では、2番目に多いのが有価証券であるのに対し、(3)や(4)の投資経験浅い層では保険資産が多い。(1)や(2)の投資経験あり層の資産配分の決定理由は、「社会への関心・収益性」や「利回り」であり、現在保有する資産を増やすことを目的に商品を決定している。(1)や(3)の50歳以前から準備層では、非流動的であってもより安全に地道に運用する意向がある。
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各セグメントに金融商品を勧めるとすれば、セグメントによって資産運用ポリシー、利用する情報源や生活設計開始のタイミングが異なるため、セグメントにあった勧め方が必要だろう。たとえば、セグメント分割の結果、もっともボリュームが多かった(4)投資経験浅い・定年直前以降に準備層は、金融商品の購入について受動的で、現在保有する資産の中で安全に運用することを想定している。この層は定年直前まで老後の資産形成については考えておらず、職場情報を利用することが多いため、退職セミナーなどの活用が考えられる。(3)の投資経験浅い・50歳以前から準備層は、(4)に比べれば資産運用に関する関心がやや高い。時間がかかっても安定した機関で地道に運用する点が特徴的である。この層も勤め先の情報を活用する傾向があるが、資金準備の開始年齢が低いことや、金融商品の購入にあたっての不安をもつことから、若いうちから金融リテラシーを高めるような情報提供が有効かもしれない。一方、これらの層よりやや経済的に余裕がある投資経験あり層は、より有利な運用に積極的に参加する意向があると考えられる。ただし、この層においても退職金・企業年金の配分においては、比較的安全性資産が高いことから、当然のことながら「安全性」も考慮に入れられていると思われる。特に50歳以前から準備層では、金融商品に関する知識や資産運用への関心が高いほか、評価できる基準をもつ割合が高いことから、自ら選択させるような商品や情報の提供が必要だろう。
(2012年03月30日「基礎研Research Paper」)
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2003年 ニッセイ基礎研究所入社
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