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- 金融行動でみたリタイアメント層のライフスタイル―投資経験とリタイアメント・ライフの生活設計開始時期にもとづくセグメンテーション(1)
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2012年から団塊世代が65歳を迎え、リタイアメント・マーケットへの注目はますます高まっている。本稿ではリタイアメント層の価値観や金融行動の調査結果をもとに、当該層のライフスタイルを分析する。その際、投資経験とリタイアメント・ライフの生活設計開始時期により、(1)投資経験あり・50歳以前から準備層、(2)投資経験あり・定年直前以降に準備層、(3)投資経験浅い・50歳以前から準備層、(4)投資経験浅い・定年直前以降に準備層の4セグメントに分類し、その違いを分析していく。
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各セグメントの性年齢や世帯金融資産の特徴をみると、生活設計開始時期の早い、50歳以前から準備層は年齢構成が若く現役世代が多い(特に(3))。(2)は高年齢が多く、(3)は各年代がほぼ均等に含まれる。男性は投資経験のある層で多く(特に(2))、女性は投資経験の浅い層で多い(特に(4))。世帯金融資産は投資経験のある層で多く(特に(1))、投資経験の浅い層では少ない傾向がある。各セグメントのボリュームは、(1)に当該層全体の16%、(2)に29%、(3)に13%、(4)に41%が含まれる。
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リタイア開始と考える年齢は、50歳以前から準備層の方が早く(66歳)、リタイア開始理由は定年退職が多くを占める。定年直前以降に準備層ではリタイア開始年齢も比較的遅く(67~68歳)、開始理由には公的年金の受給開始など、より高年齢であらわれるライフ・イベントがあがる。
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リタイアメント・ライフで重視したいことや不安は、全てのセグメントで同じものが首位を占める。重視したいことは圧倒的に健康維持であり、不安は自分が要介護状態になることである。重視したいことの2位以降をみると、投資経験がある層では旅行など費用を要するもの、投資経験が浅い層では家庭生活や友人づきあいなど日常生活の延長にあるものの選択割合が高い。この背景には両者の世帯金融資産の違いがある。今後の生活水準の見通しは、生活設計開始時期が早い層の方がやや明るい。生活水準の見通しは、世帯金融資産の量よりも生活設計開始時期の早さの影響が大きいようだ。
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リタイアメント・ライフの生活資金準備のきっかけは、50歳以前から準備層では生活設計や勤務先の研修、定年直前以降に準備層では定年退職があがる。期待する生活資金は、セグメントによらず圧倒的に公的年金だが、同時に受給額の減少や制度の破たんに対して強い不安も抱えている。月々の生活資金の金額は、投資経験がある層の方が多く、4分の1強が35万円以上45万円未満の金額帯に位置する。一方、投資経験が浅い層は3割弱が30万円以上35万円未満の金額帯に位置する。平均金額は(1)が最も多く(34.6万円)、(3)が最も少ない(29.0万円)。生活資金の内訳は、いずれのセグメントも公的年金が6割前後を占める。50歳以前から準備層では公的年金の見積り額が少ない。生活資金金額の差の背景には世帯金融資産の違いや年代による公的年金制度への不安感の違いがある。
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リタイアメント・マーケットへ高額商品の提供を考える場合、世帯金融資産が多く、今後の生活の見通しが明るい(1)が魅力的なセグメントである。ただし、セグメント・ボリュームが小さいため、懐事情が同等である(2)への同時アプローチなども検討すると良い。その際、両者のリタイアを意識する時期の違いによるアプローチ・タイミングの調整や収益性を重視する志向を捉える工夫などが有効だ。商品設計によっては(3)や(4)もターゲットとなるが、当該層に見合う訴求方法を検討する必要がある。本稿では金融行動によりリタイアメント層を4つのセグメントに分け、おおよその特徴を把握してきた。しかし、リタイアメント層は長い人生経験に基づく様々な価値観を持つ集合体であること、また、消費する高齢者というマーケットは多くのマーケッターにとって未経験のマーケットであることから、当該層を捉えるには他の年齢層よりも多くの試行錯誤が必要であることを念頭に置くべきである。
(2012年03月29日「基礎研Research Paper」)
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03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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