2014年01月20日

労働時間の減少が就業率に与える影響について―韓国政府が時間選択制を拡大・実施、今後の課題は?―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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■要旨

  • 2011年の韓国人1人あたりの総実労働時間は平均2090時間で、OECD諸国34ヶ国中、メキシコ(2250時間)を除いて最も長く、OECD平均1765時間を大きく上回っている。
  • 韓国における長時間労働の原因は時間外労働や休日勤務の長さにあると言える。
  • 労働者は生計を維持する手段として相対的に賃金の高い時間外労働を選択するケースが多い。一方、企業側は新規雇用者の雇用による給料や社会保険料等の人件費の増加よりは、今いる労働者に割増賃金を払ってでも時間外労働をさせた方がコストのメリットが大きい。つまり、コストカットの企業側の思いと、収入アップの労働者側の思わくが暗黙に一致した結果、長時間労働が蔓延することになった。
  • 2012年における韓国の時間当たり労働生産性は28.9ドルで、OECD平均44.6ドルに至っておらず、韓国の労働者は他国よりも長時間働いている半面、生産性は非常に低いと言える。
  • OECD34カ国のデータを用いて、労働時間の減少が就業率に与える影響を回帰分析してみたところ、労働時間が100時間減少すれば就業率は1.8%上昇するという結果となった。しかしながら労働時間短縮の効果がすべて就業率の上昇に繋がるとは限らない。
  • 韓国政府は、労働時間を減らすために2014年から「代替休日制」を導入したり、「時間選択制業務」を拡大・実施している。
  • 「時間選択制雇用」の拡大・実施は労働に対する柔軟性を高め、女性のキャリア断絶を防ぐとともに、労働時間の短縮や就業率の上昇に繋がると期待されている。
  • 但し、「時間選択制雇用」が成功するためには、労働者の柔軟勤務を認める企業意識の変化や、既存の仕事を分かち合うことに対する社会的合意が何より大事である。また、時間制労働者の労働環境や評価システムを改善し、時間制労働者でも十分に意欲を持って能力が発揮できるシステムを構築すべきである。

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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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