2024年03月27日

文字サイズ

3.横浜オフィス市場の見通し

3-1.新規需要の見通し
(1)オフィスワーカーの見通し
総務省「労働力調査」によれば、2023年の神奈川県の就業者数は570.6万人(前年比+4.8万人)となり、2年連続で増加した(図表-9)。

また、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、横浜市の生産年齢人口は、2020年以降横這いで推移しており、2023年は238.2万人(前年比+0.2%)となった(図表-10)。
図表-9 神奈川県の就業者数/図表-10 横浜市の生産年齢人口
しかし、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」によれば、横浜市の生産年齢人口は2025年の239.6万人をピークに減少に向かい、2035年は222.4万人(2025年対比▲7%)、2045年は201.5万人(同▲16%)となる見通しである(図表-11)。
図表-11 横浜市の年齢帯別人口(予測)
以下では、横浜のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「雇用環境」と「企業の経営環境」について確認したい。

横浜市経済局・横浜商工会議所「横浜市景況・経営動向調査」によれば、「雇用人員BSI2」(全産業) は、2020 年第2 四半期に+5.7 へ大きく上昇した後、低下(回復)が続いている。2023 年第4四半期は▲35.9 となり、コロナ禍前の水準(▲31.9)を下回り人手不足感が強まっている(図表-12)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2023 年第4四半期は「製造業」が▲24.1、「非製造業」が▲43.8となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、人手不足感がより強い状況にあると言える。
図表-12 雇用人員BSI(横浜市)
一方、「企業の経営環境」に関して、横浜市経済局・横浜商工会議所の調査によれば、「新型コロナウイルス感染症による現時点の企業活動への影響」について、「マイナスの影響がある」が約半数を占めた(図表-13)。また、「最近の物価などの高騰(エネルギー高・原材料高・人件費の高騰など)の業績への影響」に関して、「悪い影響を受けている」(「かなり悪い影響を受けている」、「悪い影響を受けている」、「やや悪い影響を受けている」の合計)との回答は約8割を占めた(図表-14)。
図表-13 新型コロナウイルス感染症による現時点の企業活動への影響(2023年5月実施)/図表-14 物価高騰の影響等(2023年12月実施)
神奈川県の就業者数は増加しているものの、今後、生産年齢人口は減少に向かう見通しである。また、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強い一方、企業活動はコロナ禍からの回復は鈍く、物価高騰のダメージも受けている。これらのことを勘案すると、横浜ビジネスエリアの「オフィスワーカー数」の増加はやや力強さに欠ける懸念がある。
 
2 雇用人員が「過剰気味」と回答した割合から「不足気味」と回答した割合を引いた値。プラス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
(2)在宅勤務の進展に伴うオフィスの見直し
パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によれば、神奈川県のテレワーク実施率は、3割から4割の範囲で推移しており、2023年7月調査では33%となった(図表-15)。テレワーク実施率は全国平均を上回っており、横浜市でも「在宅勤務」を取り入れた新たな働き方が一定程度定着しているようだ。

また、帝国データバンクの調査よれば、「新型コロナ感染拡大に伴う働き方改革の取り組みの変化」について、「オフィスの移転」との回答が実施予定を含めて約1割を占めた3。横浜市では「在宅勤務」が定着するなか、オフィスの見直しに着手する企業が徐々に増えていることがうかがえる。
図表-15 神奈川県 テレワーク実施率
在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方が普及するなか、「コワーキングスペース」等の「サードプレイスオフィス」市場が全国的に拡大している。横浜市経済局の調査によれば、横浜市内に拠点をもつコワーキング運営事業者に「横浜市内に新たな拠点を開設したいか」を尋ねたところ、「開設したいと考え、具体的に検討している(42%)」との回答が最も多く、次いで、「具体的には検討していないが、横浜市内で開設したいと考えている(31%)」との回答が多かった(図表-16)。また、「新たな拠点を検討しているエリア」に関して、「横浜駅周辺(39%)」との回答が最も多く、次いで、「みなとみらい21(31%)」、「関内、山下町周辺(28%)」の順に多かった(図表-17)。横浜でも、「横浜駅周辺」や「みなとみらい21地区」を中心に「サードプレイスオフィス」の出店意欲は強いようだ。

今後も、フレキシブルな働き方に即したオフィスの拠点配置や利用形態を検討する企業の増加が予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。
図表-16 新たな施設の設置に関する意向/図表-17 新たな拠点の開設を検討しているエリア
 
3 帝国データバンク「働き方改革の取り組みに関する神奈川県内企業の意識調査」(2021 年9 月実施)。
「新型コロナ拡大で取り組み始めた」との回答が3.1%。「今後取り組む予定」との回答が6.3%
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【「横浜オフィス市場」の現況と見通し(2024年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「横浜オフィス市場」の現況と見通し(2024年)のレポート Topへ