2024年03月26日

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1――推奨されている運動習慣とは

国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針に基づき、2024年度から「健康日本21(第三次)」が始まる。この中で、運動習慣については、2032年度の評価に向けて図表1の目標を掲げている。成人の運動習慣についてはこれまでと同様「1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続していること」で、運動習慣をもつ人の割合を2032年度に20~64歳の男女について30%、65歳以上の男女について50%とすることを目標としている。
図表1 「健康日本 21(第三次)」 運動習慣者の増加目標
スポーツ庁の「令和4年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」によれば、30分以上の運動を週2日以上実施している成人(18~64歳)のうち、それを1年以上継続している割合はその63.8%(男性69.3%、女性57.2%)で、運動習慣を身に着けるのは難しい。足元のスタートラインとしては、令和元年の国民健康・栄養調査の20~64歳男性の23.5%、女性16.9%、65歳以上男性の41.9%、女性33.9%である。この10年ほどは、運動習慣をもつ人の割合は男性で横ばい、女性で低下傾向にあることから、健康日本21(第三次)における目標値は現状を踏まえると高く設定されている。

2――週1日程度の運動実施者と、運動習慣をもつ人の運動をする理由

2――週1日程度の運動実施者と、運動習慣をもつ人の運動をする理由

11日以上の運動をしていたのはおよそ半数。30分以上の運動を週2回、1年以上継続しているのは2割程度。
スポーツ庁の「令和4年度スポーツの実施状況等に関する世論調査」によると、成人(18~64歳)で、2022年に週1日(年51~100日)以上運動を実施していたのは、全体の47.9%(男性50.8%、女性45.0%)で、全体のおよそ半数程度だった。

週2日(年101~150日)以上の運動となると、全体の34.8%(男性37.1%、女性32.5%)だった。「健康日本21(第三次)」で国が推奨する1回30分以上の運動を週2日以上実施していたのは、全体の24.8%(男性28.6%、女性20.9%)、それが1年以上継続していたのは全体の22.2%(男性25.7%、女性18.6%)だった。

週1日以上の運動を実施していても、それが週2日になったり、1回の運動時間を30分以上としたり、さらにはその習慣を1年以上継続となると、半減してしまう。
21日以上運動した理由は「健康のため」「体力増進・維持のため」「運動不足を感じるから」
この調査では、週1日以上(年51~100日以上)運動を実施した人に対して、運動を行った理由を尋ねている(図表2)。全体では、「健康のため」が最も高く、次いで「体力増進・維持のため」「運動不足を感じるから」「楽しみ、気晴らしとして」「筋力増進・維持のため」が続く。

男女別の特徴をみると、女性で「運動不足を感じるから」と「美容のため」「肥満解消、ダイエットのため」等が高く、男性で「精神の修養や訓練のため」「自己のきろくや能力を向上させるため」等が高い。年齢別にみると、「健康のため」「体力増進・維持のため」「運動不足を感じるから」等は、年齢が高いほど高く、「筋力増進・維持のため」「楽しみ、気晴らしとして」「精神の修養や訓練のため」等は年齢が低いほど高い。
図表2 週1日(年51~100日)以上運動を実施した理由(18~64歳男女、複数回答)
3「頻度を増やす」「1回あたりの時間を延ばす」「継続する」を実現している人が運動した理由
運動しようと思っても、定期的に実施するのは難しく、さらに、それを1年以上継続するのはもっと難しい。継続できている人とそうでない人では、運動を行うモチベーションに差がある可能性がある。そこで、「運動をした理由」について、(1) 週1日以上運動した人のうち、どういった理由で運動を実施した人が、週2日以上(年101日以上)実施したか、(2)週2日以上運動をした人のうち、どういった理由で運動を実施した人が、30分以上の運動を週2日以上したのか、(3)1回30分以上の運動を週2日以上した人のうち、どういった理由で運動を実施した人が、1年以上継続しているかについて、男女別に線形確率モデルを使って分析した。それぞれ国の推奨する運動習慣を目指す上で、(1)週2日とする(頻度を増やす)、(2)1回30分以上とする(1回あたりの時間を延ばす)、(3)1年以上継続する(継続期間を延ばす)ための参考となり得る。分析では、年齢(18~64歳)、職業、世帯年収、都道府県、都市規模、主観的健康感1を調整変数として投入した。結果を図表3に示す。
 
まず、(1)「週2日とする」について、男性の結果をみると、週1以上運動している人のうち、「健康のため」「筋力増進・維持のため」「自己の記録や能力を向上させるため」「美容のため」「肥満解消のため、ダイエットのため」を理由とする人で、週2以上運動している人が多く、「運動不足を感じるから」「わからない」で少ない。女性は、「健康のため」「体力増進・維持のため」「精神の修養や訓練のため」「自己の記録や能力を向上させるため」「美容のため」「肥満解消、ダイエットのため」を理由とする人で、週2以上運動している人が多く、「運動不足を感じるため」で少ない。

次に、(2)「1回30分以上」について男性の結果をみると、「健康のため」「筋力増進・維持のため」「楽しみ、気晴らしとして」「自己の記録や能力を向上させるため」「肥満解消、ダイエットのため」を理由とする人で、実施している運動が1回30分以上である人が多く、「運動不足を感じるから」「わからない」で少ない。女性は、「健康のため」「楽しみ、気晴らしとして」「自己の記録や能力を向上させるため」「友人・仲間との交流として」「美容のため」「肥満解消、ダイエットのため」を理由とする人で、実施している運動が1回30分以上である人が多く、「運動不足を感じるから」「家族のふれあいとして」「わからない」で少ない。

最後に、(3)「1年以上継続」について男性の結果をみると、「健康のため」「自己の記録屋能力を向上させるため」を理由とする人で、1回30分以上の運動を週2日以上を1年以上継続している人が多く、「わからない」で少ない。女性は、「健康のため」「楽しみ、気晴らしとして」「自己の記録屋能力を向上させるため」「美容のため」を理由とする人で、1回30分以上の運動を週2日以上を1年以上継続している人が多く、「運動不足を感じるから」で少ない。
図表3 「(1)週2日とする」「(2)1回30分以上」「(3)1年以上継続」が多い理由
図表3から、「健康のため」「自己の記録や能力を向上させるため」は男女とも、「(1)週2日とする」「(2)1回30分以上」「(3)1年以上継続」でプラスであり、週2日以上、1回30分以上、1年以上継続を実現する高いモチベーションとなり得る理由だと考えられた。「肥満解消、ダイエットのため(男女)」「筋力増進・維持のため(男性)」「美容のため(女性)」は、週2回実施したり、1回30分以上実施する理由となり得たが、1年以上の継続は実現しにくいようだった。「楽しみ、気晴らしとして」は、男性にとっては、1回30分以上続ける理由となり得たが、女性はそれに加えて、1年以上継続する理由となり得た。また、女性は「友人・仲間との交流として」が、1回30分以上の運動をする理由となり得るようだったが、「家族のふれあいとして」マイナスであり、家族のふれあいとしての運動は、運動以外の手段もあり得るためか、30分未満で終わってしまっている可能性があった。女性では「体力増進・維持のため」が週2日実施する理由となり得た。

それに対して、「運動不足を感じるから」という理由は、男女とも「(1)週2日とする」「(2)1回30分以上」、女性の「(3)1年以上継続」で、「わからない」は、男女とも「(1)週2日とする」「(2)1回30分以上」、男性の「(3)1年以上継続」でマイナスとなっており、週1日から週2日、1回30分以上、1年以上継続を実現しにくい理由となっていた。「わからない」は、大きな理由なく運動をしていると考えられ、頻度を上げたり、運動時間を延ばしたり、継続するのには至らない可能性は十分ある。「運動不足を感じるから」も、その理由だけだと週1日、30分未満の一時的な実施で運動不足が解消されているのかもしれないし、解消されなくても、週2日、1回30分以上、1年以上継続を実現するほど強い理由ではないと考えられそうだ。

運動習慣の継続には、運動不足を解消するといった消極的な理由では難しく、より積極的な心身への効果を期待したり、運動によって自分なりの目標を持てること、また、楽しみ等を見出せることが重要となりそうだ。
 
1 都市規模(東京23区・政令指定都市/大都市/小都市/町村)
職業(自営業主-事務職/自営業主-販売・サービス・保安職/自営業主-農林漁業職/自営業主-生産・運輸・建設・労務職/自営業主-その他/家族従業者/勤め人(被雇用者)-管理職/勤め人(被雇用者)-専門・技術職/勤め人(被雇用者)-事務職/勤め人(被雇用者)-販売・サービス・保安職/勤め人(被雇用者)-農林漁業職/勤め人(被雇用者)-生産・輸送・建設・労務職/勤め人(被雇用者)-その他)
世帯年収(収入なし/100万円未満/100~200万円未満/200~300万円未満/300~400万円未満/400~500万円未満/500~600万円未満/600~700万円未満/700~800万円未満/800~1,000万円未満/1,000~1,200万円未満/1,200万円以上/わからない/答えたくない)
主観的健康感(健康である/どちらかといえば健康である/どちらかといえば健康でない/健康でない/わからない)
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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