2024年03月26日

女性の更年期症状と就労

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――就労女性の更年期症状について~更年期症状があるのは40%程度。更年期症状は雇用や収入に影響。しかし、受診している人は少ない。

1現在、更年期症状への配慮が注目される理由
女性の健康支援が注目されるようになった背景として、働く女性が増えていることがあげられる。前稿でも指摘したとおり、1986年に男女雇用機会均等法が施行して35年あまりが経過し、学校を卒業した後、働き続ける女性が増えた。結婚、出産しても継続して働く女性が増え、あらゆるライフイベントを就労中に迎えることになり、これまで以上に健康課題が顕在化してきたことがあげられる。

女性の更年期の諸症状に注目すると、第二次ベビーブーマーのボリュームゾーンが50歳を迎えはじめたことで、更年期症状に悩まされる女性の人数はかつてないほど多いと思われる。企業内で指導的地位の女性や役員の女性比率を高めることが期待される中で、更年期症状を理由に退職する女性や昇進を辞退する女性がいることも、女性の更年期症状対策に取り組む背景としてあげられると思われる。さらに、これまでタブー視されがちだった女性特有の症状に社会的関心が高まり、話題にできるようになった等の社会環境の変化もあるだろう。

このような中、ここ数年は、女性の更年期に関する調査が数多く公表されている。本稿では、いくつかの調査報告を紹介した上で、ニッセイ基礎研究所が行った調査から、更年期症状への企業の対策に関する課題を考えたい。
2女性の更年期における諸症状の実態と影響(既存調査より)
2021年にNHK等が40~59歳の有業男女を対象とした大規模調査によると、過去3年以内に更年期特有の症状を経験した女性は4割弱いた。現在経験している女性は3割強だった。同調査によれば、更年期特有の症状を現在経験中の女性では、有業率と正社員比率が低い等、更年期の症状は、就労にも影響を及ぼしており、50代女性では、2割強で降格、非正社員化、無業化などの雇用劣化が起きていることがわかった。同調査によると、更年期離職は女性で推計45.9万人で年間の経済損失は約4,200億円と推計されている4

また、厚生労働省が2022年に公表した「更年期症状・障害に関する意識調査5」によると、40~59歳の女性の4割程度が更年期障害の可能性があると回答していた6。過去4週間のうち、更年期症状によって日常生活に影響が出た日数は、40~50代で0~2日が8割程度だった一方で、「20日以上」という人も5%いて、症状の程度は人によってかなり異なる。しかし、そのうち医療機関を受診していたのは、1割強にとどまっており、治療を受けていない人がほとんどだった。さらに、更年期症状を自覚してすぐに受診をしたのはごく一部であり、受診をした人であっても半数程度が6か月以上経過してから受診をしていた。

博報堂による「更年期に関する生活者意識調査7」によると、不調が発覚してから更年期による不調を自覚するまで6割弱が半年以上かかっている等、更年期による不調を自覚するのは難しいようだ。博報堂は、その理由として、症状が様々であり、不調の感じ方がそれぞれ異なっていることを指摘している。

NPO法人日本医療政策機構による「働く女性の健康増進調査 20188」では、18~49歳の働く女性を対象に調査を行った結果、更年期症状や更年期障害によって、元気な状態のときと比較して仕事のパフォーマンスが半分以下になる人が約半数いた。しかし、ヘルスリテラシー、特に女性の体に関する知識が高いと、更年期症状や更年期障害時におけるパフォーマンスへのダメージが少ないという結果を得ている。

こういった結果から、企業においても、職場・制度環境づくり、リテラシーの向上、相談できる体制を整備したり、企業が検査費用を補助する9等の対策を講じている。
 
4 「更年期と仕事に関する調査2021」(NHK、JILPT、一般社団法人女性の健康とメノポーズ協会、特定非営利活動法人POSSEによる共同企画)対象男性1038人、女性4296人
詳細は、周燕飛「NHK実施「更年期と仕事に関する調査2021」結果概要―仕事、家計への影響と支援について―(https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/collab/nhk-jilpt/docs/20211103-nhk-jilpt.pdf)」(2021年11月3日)を参照のこと。
NHKサイト「"更年期ロス"100万人」(https://www.nhk.or.jp/minplus/0029/topic042.html
5 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」(2022年7月)20~64歳の女性2,975人、男性2,025人を対象とするもの。詳細は、「更年期症状・障害に関する意識調査(https://www.mhlw.go.jp/content/000969166.pdf)」
6 更年期障害の可能性があるとは、「医療機関への受診により、更年期障害と診断された」「医療機関を受診したことがないが、更年期障害を疑ったことがある」「自分では気づかなかったが、周囲から更年期障害ではないか、といわれたことがある」「別の病気を疑って医療機関を受診したら、更年期障害の可能性を指摘された」を合計したもの。
7 博報堂「更年期に関する生活者意識調査 2023年」(https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/106300/
30~69歳の女性4,000名を対象に実施。
8 NPO法人日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査 2018」。対象は、フルタイムの正規社員・職員およびフルタイムの契約社員・職員、派遣社員・職員の女性2,000名。(https://hgpi.org/en/wp-content/uploads/sites/2/e5f333535ba1c799758287753d7229c9.pdf
9 例えば、朝日新聞DIGITAL(2024年1月29日)「頭痛薬なしで生活できない」更年期障害で退職検討も 企業は対策」等。

2――40~50代女性の健康課題

2――40~50代女性の健康課題

1更年期障害を自覚しているのは、50代前半をピークとして45~60
ニッセイ基礎研究所が2019年3月から毎年実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」では、被用者(公務員や会社に雇用されている人)を対象に、男性には23個、女性には24個の心身にかかわる諸症状10を提示し、その中から直近3か月間に経験した症状をすべて回答してもらっている。男女それぞれ提示している症状の1つに「更年期障害」を含んでいる。

そこで、2019~2023年の過去5年分の同調査結果をプールしたデータ(複数年にわたり、回答している人も含まれる)から、「更年期障害」を回答した年齢別割合を図表1に示す。45~60歳で、5~20%程度が更年期障害を自覚しており、更年期障害を自覚している人のおよそ9割が45~60歳だった。更年期障害が起きるとしてよく知られる年齢だろう。
図表1 直近3か月間に経験した症状として「更年期障害」を回答した女性の割合(過去5年分のプールデータ)
 
10 22個の心身の症状と、「その他」「特にない」の計24個を示している。
240~50代は心身のあちこちに不調が出ている可能性
また、24個の心身にかかわる諸症状のうち、「その他」と「特にない」を除く計22個の症状の中で、あてはまる症状の年齢別平均個数を図表2に示す。

42~51歳で、平均症状数がやや多い。調査で提示している症状は、部位や症状に偏りがあるため、回答した症状の個数が多いほど、体調が悪いことを示すわけではないが、この年代では心身のあちこちに症状が出ている様子がうかがえる。45~60歳で更年期障害を自覚している人についてみると、平均症状個数はおよそ6.5個(更年期障害以外に5.5個)とさらに多い。
図表2 直近3か月間の症状について回答した症状数の年齢平均(過去5年分のプールデータ)
本調査において、更年期障害があると回答した割合は、45~60歳で、10~25%程度にとどまり、冒頭で紹介した調査等とは大きく異なる結果となった。その理由として2つ考えられる。

1つは、既述のとおり、自分が抱える不調が更年期を原因とすることに気づいていない可能性が考えられる。(株)ツムラが2022年に20~60代の男女に行った「更年期に関するイメージと実態調査11」によると、女性の更年期症状の症状として一般に「イライラ」「ほてり」「発汗」がイメージされるのに対し、実際、経験した人の症状は「疲れやすさ」「肩こり」「気分の落ち込み」となっている。「ほてり」や「発汗」といった、更年期に特有として知られる症状ではなく、若い頃から経験してきた「肩こり」や「疲労」等が起きていることで更年期症状であることが気づきにくい可能性がある。例えば、本調査において、40~59歳の女性について、更年期障害を自覚している人自覚していない人を比べると、図表3のとおり、更年期障害を自覚していない人で、「特になし」が34.0%、更年期障害を自覚している人では、「更年期障害」が100%だった(「更年期障害」を回答した人を「自覚あり」と定義。)以外は、症状を経験した割合は異なるものの、経験した症状は同じだった。
図表3 直近3か月間に経験した症状(24個提示)
もう1つの理由は、本調査が被用者(公務員や会社に雇用されている人)を対象に行っている調査であることによると考えられる。記述のとおりNHK等による調査によれば、更年期における体調不良によって、離職や転職をしている女性は多い。しかし、この調査は離職してしまった女性は対象とならない。従って、この調査は相対的に症状が少ない人が対象となっている可能性がある。
 
11 株式会社ツムラ「更年期に関するイメージと実態調査」(https://www.tsumura.co.jp/onemorechoice/kounenki/survey/
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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