2022年02月15日

昨今のメイドカフェ事情-「萌え萌えキュン」だけがコンカフェじゃない!?

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――はじめに

新型コロナウイルスの流行により増えた空き店舗に「コンカフェ」と呼ばれる飲食店が次々と入居している。特に、名古屋市中区の大須商店街周辺においてはタピオカブームに次ぐ流行で、関東や関西の資本も目立つという1。コンカフェとは「コンセプトカフェ」の略称で、ある特定のテーマ(コンセプト)を基に世界観を再現したカフェのことを指す。我々に馴染み深いのは2000年代初頭に「萌え文化」を牽引したメイドカフェではないだろうか。メイドカフェはメイドになりきった店員が、客を「主人」に見立てて給仕などのサービスを行う飲食空間のことで、「おかえりなさいませ、ご主人様」というセリフや、メイドが給仕したオムライスに客がメイドと一緒に「萌え萌えキュン」とおまじないをかける光景をテレビなどで見たことがある人も少なくないだろう。このメイドカフェもメイドというコンセプトのもとに「空間」が提供されているコンセプトカフェの一種なのである。しかし、世の中にはメイドだけではなく、忍者や巫女など様々な世界観(テーマ)をベースにしたコンセプトカフェが数多く存在している。本レポートではコンセプトカフェの歴史や種類を整理する。またコロナ禍におけるコンセプトカフェ事情について言及し、読者の皆さんが想起する「メイドカフェ」以外のコンカフェの世界を紹介することが目的である。
 
1 「精霊、貴族、巫女…、非日常接客が人気呼ぶ 大須でコンセプトカフェ急増」中日新聞
2022/01/10 https://www.chunichi.co.jp/article/397754

2――コンセプトカフェの起源

2――コンセプトカフェの起源

コンセプトカフェの走りであったメイドカフェの歴史はここ20年ほどで築きあげられたものである2。1990年代初頭に『ヴァリアブル・ジオ』や『Piaキャロットへようこそ!!』といったウエイトレスの制服をコンセプトにしたPCゲームが人気を博し、1999年には「コスチュームカフェ」と呼ばれる制服系ジャンルオンリーの同人誌即売会が開かれるようになった。そして、そのイベント内で主催者がコスプレ店員のいるカフェイベントを開催したことがメイドカフェの起源の一つとされている。続いて『Piaキャロットへようこそ!!』の続編『Pia♡キャロットへようこそ!!2』の発売を受け、「東京キャラクターショー1998」にアニメゲームの企画・制作とショップ「ゲーマーズ」を運営する株式会社ブロッコリー(以下、ブロッコリー)が、同タイトルの舞台を再現したレストランを出店した。そこでは、そのゲームのコスプレをした女の子がドリンクやグッズなどを販売し、ファンから好評を博した。翌1999年7月にブロッコリーは運営するショップ「ゲーマーズスクエア店」内に同ゲームのコンセプトカフェを期間限定でオープンすると、その後も立て続けにコスプレウェイトレスが接客を行うカフェをオープンしていく。

その後2000年5月には「ゲーマーズスクエア店」に「Café de COSPA(カフェ・ド・コスパ)」として常設のコスプレカフェの運営が開始される。この頃には店員は『Piaキャロットへようこそ!!』シリーズのみならず、他の作品のコスプレもするようになっていた。2001年3月にはゲーマーズスクエア店の運営権がブロッコリーからコスプレ衣装製作会社「コスパ」とその関連会社に委譲されたことを受けて「Café de COSPA」の運営も変わり、「CURE MAID CAFÉ(キュアメイドカフェ)」としてリニューアルした。このCURE MAID CAFÉでは店員の制服をメイド服に統一し、それまでの様にただコスプレをする店員がいるカフェから、メイドが給仕する空間そのものがコンセプトとして提供されるようになった。これがメイド喫茶(コンセプトカフェ)の第一号だと言われている。
 
2 廣瀨涼「現代消費文化を覗く-あなたの知らないオタクの世界(3)」研究員の眼 2019/06/17 
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=61840?site=nli

3――あれもこれもホントはコンセプトカフェ

3――あれもこれもホントはコンセプトカフェ

前節で述べた通り、コンセプトカフェで消費されるのは「空間」そのものであり、ただコスプレをしている店員が接客するだけでは成立しない。例えば明治末期(1911年)に東京・銀座に築地精養軒(現在の上野精養軒)が開設した『カフェー・ライオン』では現在の和風メイド喫茶のように店員は和装の制服にエプロンを着用していた3。また、90年代に人気を博したペンシルベニア・ダッチスタイルの家庭料理をコンセプトとした「アンナミラーズ」なども独自の可愛らしい制服で接客をするなど、メイドカフェにも大きな影響を与えたと言われているが、どちらもあくまでも「食事」を提供することが目的にあり、食事に合わせて内装やコスチュームが決められている食事先行型のテーマ性のある飲食店なのである。

では、「コンセプト」が提供されているカフェ(飲食店)とはどのようなモノがあるのだろうか。筆者はコンセプトカフェには大きく分けて1)コスプレ系、2)世界観再現系、3)動物系、4)コンテンツ系、5)文化系の5つの種類があると考えている。まず、1)コスプレ系であるが、客が非日常的な体験を求めて利用するタイプで、メイドカフェがこれに当たる。店内内装や店員の制服、食事や言葉遣いまで、ある特定のテーマに沿ってすべてが決められており、客は入店した瞬間から店側から提供される外の世界とは異なる非日常に言わばごっこ遊びのように身を置くことになり、癒しや、エンターテイメント性を体験することになる。昨今ではメイドに限らず、巫女や忍者、ナースやミリタリーなど、様々な需要に応えるかのように、十人十色のコンセプトが存在している。客は主に店員の身なりやサービス(如何に自身を非日常に没入させてくれるか)という接客そのものを求めて来店しているともいえる。

2)世界観再現系は、店員が必ずしもコスプレはしていないが、内装や食事の世界観が統一され、その世界観を求めて客が来店する飲食店である。前述したアンナミラーズが食事先行型のテーマ性のある飲食店ならば、世界観再現系は、テーマ先行型のそれに沿った食事が提供される飲食店といえる。例えば監獄レストラン「ザ・ロックアップ」は、監獄個室というコンセプトの中で奇妙な食事や、突然の警報と「囚人が脱走しました!」という放送とともに始まるエンターテインメント体験など、テーマパークから得られるような視覚や聴覚に対する刺激を求めて客は来店している。他にも小学校を再現し、給食を食べることができる給食カフェや、映画『Always3丁目の夕日』の世界に迷い込んだかのようなノスタルジアを味わうことができる昭和カフェなどが存在している。

3)動物系は、猫カフェやふくろうカフェなど、動物との触れ合いが提供される飲食店である。1)コスプレ系や2)世界観再現系のように特定の世界観や物語が提供されているわけではないが、食事をするという行為は言わばおまけであり、「動物に触れあう」というブレない構想(コンセプト)が提供されている。

4)コンテンツ系は、映画や漫画アニメ、ゲーム、声優などコンテンツの世界観を提供するカフェのことである。コンテンツ系には(1)常設、(2)コラボの2種類が存在する。(1)常設の例であるが、秋葉原駅の間近にあった「AKB48カフェ&ショップ秋葉原」は大型モニターでAKB48のコンサートやMVを見ながら食事をしたり、カフェテーブルにあるメンバーが残したサインや落書きなどを楽しみながら食事をすることができ、AKB48というコンテンツを堪能することができる飲食店であった。このカフェはAKB48グループを運営する芸能プロダクション・株式会社AKSによって運営されていた。これと似た別の例を挙げると、株式会社エポック社は「シルバニアファミリー」の世界観を再現した「シルバニア森のキッチン」を運営している。いずれもコンテンツを保有する運営会社が、そのコンテンツの販促を目的に常設の店舗を用意しており、それ以外の用途(それ以外のコンテンツのプロモーション)を意図しての経営されてはいない。

次に(2)コラボであるが、キャラクター、アーティスト、映画、アニメやゲームなどの様々なコンテンツとカフェを連動させることにより、人気の高いIPコンテンツ4を期間限定で楽しめるコラボカフェという飲食店が多く存在している。例えば株式会社レッグスは、全国10数か所においてコラボレーションカフェ専用スペースを運営している。IP選定、版権元との許諾契約をはじめ、 カフェ空間・オリジナルメニュー・ 限定グッズの開発、店舗オペレーションまでをトータルにプロデュースし、それぞれの店舗を期間限定で人気コンテンツのカフェとして開設している。コラボレーションカフェの店舗自体は株式会社レッグスが保有しているため常設であるが、その中身(コンテンツ)が期間限定で変化するとイメージしたらわかりやすいかもしれない。例えば、そのうちの一つ、東急プラザ 表参道原宿で運営されている「OH MY CAFE」は、2019年4月、当時最新作のディズニー映画であった『シュガー・ラッシュ:オンライン』とコラボすると、その後『アラジン』、『トイ・ストーリー』、『リトル・マーメイド』などの人気のディズニー作品とコラボを続けている。

一方、『鬼滅の刃』や『Fate』 などを手掛けるユーフォーテーブル株式会社(以下、ufotable)は、全国5都市及び韓国・中国にて、ufotable cafeや映画館を12店舗経営しており、そこでは、同社が手掛けるアニメとのコラボメニューや原画などの展示が行われている。自社が手掛けるコンテンツを使用したカフェを運営していることから、(1)常設のように見えるが、AKB48カフェやシルバニア森のキッチンの様に、特定のコンテンツのためだけにカフェが常設されているわけではない。ufotableが手掛けた作品とのコラボレーションをするカフェというコンセプトでみれば、ufotable cafeは、常設であることには変わりないが、個々のコンテンツの視点から見れば、常にそのコンテンツを堪能できるわけではなく、あくまでもufotable cafeで期間限定でコラボレーションされるコンテンツの一つに過ぎないのである。『鬼滅の刃』を例に挙げれば、いくらufotable の製作したコンテンツであっても、ufotable cafeに行けば常に鬼滅の刃カフェを楽しむことができるというわけではないのである。

また、株式会社エスエルディーが運営する「kawara CAFE&KITCHEN」はデパートに常設する普通の飲食店として通常営業しながら、期間限定でIPコンテンツとコラボを行っており、過去には子どもに人気の「ピングー」や「おさるのジョージ」をはじめ、カナダ出身の人気シンガーソングライター「アヴリル・ラヴィーン」ともコラボをしている。内装が普通の店舗であることから、どのコンテンツとコラボレーションをすることが可能で、内装の代わりに当該コンテンツの世界観を再現した食事を提供しているのである。
表1 コンセプトカフェの種類
一方、コラボレーションの類語にタイアップという言葉も存在する。それぞれ、マーケティングの文脈で見ればコラボは付加価値のある作品(企画)の制作を第一目的にした共同作業のことで、タイアップは商業的成功を第一目的にした提携を指す。通常、タイアップというと企業が宣伝効果を求めてテレビドラマやアニメなどと協業して商品を企画されることが多い。前述した『鬼滅の刃』を例に挙げれば、ローソンとタイアップすることで、ローソンはキャラクターが描かれた包装によっておにぎりや弁当などの売り上げを伸ばすことを目標とし、『鬼滅の刃』側にとってもキャラクターが消費者の目に触れる機会が増えることに繋がる。以前よりも、飲食店でこのようなコンテンツとタイアップしたコースターやシールなどのノベルティーが配られ、タイアップする飲食店も増えてきたが、コラボカフェが台頭したことで、コンテンツの世界観や魅力が十分に提供されていなくともコラボを謳う企画も増えてきており、コラボカフェと企業タイアップとの境界は曖昧になってきている。
表2 鬼滅の刃におけるコラボレーションとタイアップ
最後に5)文化系であるが、昨今では様々な文化を楽しみながら飲食ができる文化カフェと呼ばれる飲食店も増えてきた。3)動物カフェでは「動物と触れ合う事」をコンセプトとして営業しているが、文化カフェも同様に「特定の文化に触れる事」をコンセプトにしている。例えば駒場公園内にある日本近代文学館に隣接するカフェ『BUNDAN COFFEE & BEER』は文学カフェと呼ばれ、客は店内にある本を楽しみながら文学作品に登場する食べ物を再現したメニューを楽しむことができるようになっており、食べ物を通して文学の世界に浸ることができる。他にもプラネタリウムを楽しむことを目的としたプラネタリウムカフェや、店内にあるボードゲームを自由に楽しむことができるボードゲームカフェなど、そのすそ野は広い。飲食を提供する以外に特定の付加価値が提供される飲食店の多くが、コンセプトカフェに分類されているともいえる。

ここまで、5種類のコンセプトカフェについて説明したが、俗にコンカフェと言うと1)コスプレ系について焦点が当てられることが一般的である。
 
3 https://www.ginzalion.jp/company/images/pdf/130321-3_2.pdf
4 著作権、知的財産権が発生するコンテンツのこと

4――メイドカフェの今

4――メイドカフェの今

コロナ禍においてもメイドカフェの人気は衰えなかった。何故なら今やメイドカフェは非日常を体験するトキ消費やコト消費ならず、推し活としての側面も持っているからである。推し活とは、お気に入りのタレントやキャラクターなどを応援する活動のことを指し、他人を応援することが自身の精神的充足に繋がる「ヒト消費(応援消費)」としての側面を擁している5。多くのメイドはSNSを通じて情報を発信し、このSNSをきっかけにメイドカフェに足を運ぶ人も増えている。もともとメイドカフェのスタッフは、通常の飲食店よりも店員個人がフィーチャー(売り物と)され、ある種のタレントとして消費されてきた経緯がある。店舗によってはメイドのブロマイド等のグッズ展開しているところもあり、メイドはアイドル等と同じように、SNSを使って情報発信をしたり、客と交流したりすることで、ファンとのネットワークを構築し、タレントとしてのアイデンティティの維持に努めている。そこでは、まさにアイドルとファンの関係の様に「推す・推される」という関係が構築され、その店員に会うために客は足繁く通う。元々、男性客が多かったメイドカフェ市場であるが、女性アイドルに女性ファンがつくのと同じ様に、店員を憧れや、かわいいと思う対象としてメイドカフェに通う女性客も多い。可愛らしい制服を着用したり、タレントの様にセルフプロデュースをすることに対して憧れをもつ女性やコスプレイヤーが、自らもメイドカフェで働きたいと思うことも多いようだ。更に現在のコンセプトカフェには、女性スタッフのみならず男性スタッフが給仕するカフェも多く、ジェンダレスな市場が形成されつつある。

一方、どの店舗も新型コロナ感染対策を徹底してはいるものの、対面の接客に対して抵抗感がある消費者がいることも事実である。秋葉原の街の観光活性化のために設立された合同会社AKIBA観光協議会と株式会社カヤックは、新型コロナウィルスの影響による新たな生活様式への対応、及びデジタルインバウンドの獲得に向けた秋葉原カルチャー発信の新たなプラットフォームとして、メイドカフェ・コンカフェに特化したライブコミュニケーションサービス「アキバメイドオンライン」の提供を2021年1月より開始した。アキバメイドオンラインとは、スマートフォンで気軽にメイドカフェ・コンカフェを体験できるライブコミュニケーションサービスのことである。配信プラットフォームを通して、秋葉原をはじめとしたメイドカフェのスタッフとオンラインでメイドカフェ気分を体験することができる。このように、メイドから始まったコンカフェは、コンセプトの多様化を経て、バーチャルという次の段階を迎えようとしているのである。
 
5 廣瀨涼「現代消費潮流概論-消費文化論からみるモノ・記号・コト・トキ・ヒト消費-」基礎研レポート2022/01/19 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69930?site=nli

5――さいごに

5――さいごに

本レポートでは、コンセプトカフェの歴史や種類の整理、そしてメイドカフェの今に焦点を当て論述した。筆者自身が学生時代に、メイドカフェの研究をしていたこともあり、足を運んだ経験も多数ある。テーマパークやごっこ遊びの様に自らもその空間を形成する一部として、メイドさんと交流を行い、非日常を経験できる楽しいエンターテインメントであると認識している。前述した通り、ここ数年でコンセプトの多様化やオンライン営業など様々な施策が取られ、その文化自体も大きく変容しつつある。コロナ禍の未曽有の状況下では、まだまだ来日旅行客を見込むことはできないが、コロナ収束後は、この日本で独自に発展した文化が益々外国人にとっても魅力的な日本の観光スポットとして人気を博すことを願っている。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
          ニッセイ基礎研究所入社

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2022年02月15日「基礎研レポート」)

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【昨今のメイドカフェ事情-「萌え萌えキュン」だけがコンカフェじゃない!?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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