2018年03月20日

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2016年結果-

保険研究部 研究理事 気候変動リサーチセンター兼任 中村 亮一

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1―はじめに

前回のレポート「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1) -2016年結果-」では、以前の保険年金フォーカス「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1)-2015年結果-」(2017.2.28)について、2016年ベースの数値に更新する形で、民間医療保険の普及状況について報告した12

今回のレポートでは、「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2015年結果-」(2017.3.7)について、2016年ベースの数値に更新する形で、民間医療保険会社の市場シェア、経営効率及び財務面の状況について報告する。
 
1 ドイツの医療保険制度全体の概要及びその中での民間医療保険の位置付けや各種の制度の具体的な内容等については、基礎研レポート「ドイツの医療保険制度(1)~(3)」(2016.3.15~2016.4.18)を参照していただきたい。
2 以下の図表については、基本的には、ドイツ保険協会(GDV)の「Statistical Yearbook of German Insurance 2017」及び民間医療保険連盟(PKV)の「Financial report for private healthcare insurance 2016」からの数値に基づいているが、両者の数値は必ずしもベースが同じにはなっていない。PKVをデータ・ソースとするGDVの資料についても、GDVの資料に基づく、としている。また、2017年の公表資料において行われた2015年以前の数値の修正等を反映している。
 

2―民間医療保険会社の状況(1)-市場シェア-

2―民間医療保険会社の状況(1)-市場シェア-

ここでは、民間医療保険会社の市場シェアの状況について報告する。

1|会社数
2016年末で46社(2015年末は47社)の民間医療保険会社が存在しており、会社数では、保険会社全体の1割弱を占める形になっている。2016年には、2社が事業を停止して、新たに1社が事業を開始している。
民間医療保険-会社数の推移-
2|会社形態
2015年末の47社のうち、24社が株式会社で23社が相互保険組合3である。前者と後者の保険料ベースでの市場シェアはそれぞれ57.3%、42.7%となっている。

10年前との比較では、株式会社の数は減少し、相互保険組合の数は変化していないが、保険料では、株式会社が若干シェアを高めている。
民間医療保険-会社形態別-
 
3 英語の「mutual insurance association」の翻訳であるが、「共済組合」との翻訳も考えられる。
3|会社のシェア(市場の集中度)
上位会社のシェアは、保険全体の場合に比べて高く、より集中度が進んだ市場となっている。

外資系会社のシェアは13.6%と、保険全体の場合の17.4%に比べると低い水準となっている。
民間医療保険-市場の集中度(2015年 グループ収入保険料ベース)-
4|医療保険会社
2016年における医療保険各社の収入保険料及び被保険者数は、以下の通りとなっている。

上位5社の収入保険料シェアが約5割となっている。大手会社のシェアは5年前に比べて若干変動しているが、大きくは変わっていない。
 
民間医療保険会社の収入保険料(2016年度)/(参考)2011年度

3―民間医療保険会社の状況(2)-経営効率-

3―民間医療保険会社の状況(2)-経営効率-

ここでは、民間医療保険会社の各種の経営効率の状況について報告する。

1|損害率・収益率
保険料に対する給付額の割合を示す「損害率(Damage ratio)」は、以下の左の図表が示すように、事業年によって変動はあるものの、ほぼ80%前後で安定的に推移している。

一方で、総収入に対する保険事業からの財務業績の割合を示す「保険事業による利益率(Result ratio from insurance business activity)」については、ここ数年は12%~14%程度の水準で推移している。
民間医療保険損害率・利益率の状況/民間医療保険事業費率の状況
その性格上、医療保険制度改正の影響を受ける可能性もかなりあるが、比較的安定的な損害率や収益率を挙げてきている状況にあるといえる。

2|事業費率
事業費率を、新契約費率と維持費率4で見た場合、上記の右の図表が示すように、新契約費率は低下傾向にあったが、ここ数年はほぼ横ばいである。維持費率もここ数年はほぼ横ばいである。

このように、民間医療保険会社は、過去から事業費効率の改善化を図ってきているが、ここ数年は安定的な傾向にある。
 
4 新契約費には、ブローカーへの手数料を含む保険契約締結時に発生する全ての経費が含まれる。維持費には、保険契約の維持管理に関わる全ての経費が含まれるが、新契約費と給付金支払手数料等のサービス処理に伴う経費は含まれない。
3|資産運用効率
(1)資産構成比(運用ポートフォリオ)
民間医療保険会社の資産(投資ポートフォリオ)の推移は、下記の図表の通りであり、2016年末で260.7十億ユーロとなっている。2015年末に比較して5.6%の増加で、この水準は、生命保険会社の3.9%、損害保険会社の2.7%に比較して高い。
民間医療保険会社の資産の推移
その資産の構成比は、貸付が26.5%、カバードボンドが16.3%、政府債券等の上場債券が18.3%で、その他の債券等を含めて8割以上が金利資産となっている。また、株式の構成比は4.1%となっている。2015年末の構成比と比較すると、貸付とカバードボンドが低下し、上場債券と株式が上昇している。この傾向はここ数年続いている。

また、保険監督当局のBaFinのAnnual Report 2016によれば、全体ポートフォリオの28%が集団投資会社に投資されている。

(2)運用利回り
昨今の低金利環境を反映して、運用利回りは低下してきている。2016年は3.71%となっており、最高予定利率の3.5%を上回ってはいるが、両者の差であるマージンは殆どなくなってきている。

なお、金利の低下を反映して、2016年末の正味の含み損益は440億ユーロで資産の17%に相当している(2015年末はこの比率は16%だった)。
医療保険会社の資産構成比(2016年末)/民間医療保険運用利回りの状況
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保険研究部   研究理事 気候変動リサーチセンター兼任

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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