2018年03月14日

介護ロボットの「導入・利用で考えられる課題・問題」の一部再考-「平成28年度 介護労働実態調査」に見る導入状況と課題-

青山 正治

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はじめに

介護ロボット(ロボット介護機器)という言葉がマスコミ報道などで見聞きされるようになって5年ほどの時間が経過した。近年では国際福祉機器展や各種展示会に国の開発支援を受けた様々な姿・形の介護ロボットや、企業の独自開発による多彩なサービスロボットが数多く登場を始めている。

2017年度は、「日本再興戦略(2013年6月)」に組込まれた「ロボット介護機器開発5カ年計画(2013~2017年度)」の最終年度であるが、その「計画」の中では関係省庁が積極的な支援事業を行ってきた。まず、経済産業省を中心に開発環境の整備が大きく進展し、開発支援を受けた「重点分野」のロボット介護機器が多数登場している。また、近年では厚生労働省が、開発された介護ロボット等の導入支援事業を開始し、介護施設などの介護サービス事業所へ広く介護ロボットが導入された。さらには、厚生労働省と経済産業省の両省によりロボット介護機器開発の「重点分野」が2017年10月に改訂され、それ以前の「5分野8項目」から「6分野13項目」へと「介護業務支援」分野や「コミュニケーション」などの項目が新たに追加された。2018年度以降は、自立支援等に役立つロボット介護機器の開発補助事業等が3年間で推進される予定である。

このような過渡期に、介護ロボットの直接的ユーザーである介護サービス事業所の導入状況や利活用の課題・問題意識はどのような状況にあろうか。本稿では「平成28年度介護労働実態調査1(2017年8月公表)」の事業所調査の介護ロボットに関する一部集計結果に着目し、その内容を再考する。
 
1 この調査結果は(公益財団法人)介護労働安定センターのホームページに公表されている(厚生労働省委託事業調査)。
 

1――注視が必要な「介護労働実態調査」の介護ロボットに関する2つの設問

1――注視が必要な「介護労働実態調査」の介護ロボットに関する2つの設問

2017年8月上旬に「平成28年度 介護労働実態調査」の結果が公益財団法人介護労働安定センターより公表された。この事業所調査(調査時点:2016年10月)の一部に「介護ロボットの導入状況」「導入や利用についてどのような課題・問題があると考えるか」との2つの設問があり集計結果が公表されている。この調査のように全国の介護サービス事業所が導入している介護ロボットのタイプ別導入状況に関するアンケート調査は、筆者の知る限りでは実施例がなく、調査価値が非常に高いと考える。このうち、特に注目する2つの設問について考察したい。

なお、この「事業所における介護労働実態調査」は全国の介護保険サービスを実施する事業所から無作為抽出された17,641事業所を対象にアンケート調査が実施(2016年10月)され、有効回答数は8,993事業所 2(有効回収率は51.0%)となっている3
 
2 n=8,907は、総回答数8,993から少数回答の「訪問リハビリテーション」「居宅栄養管理指導」「福祉用具貸与」「特定福祉用具の販売」を除外
3 (公益財団法人)介護労働安定センターのホームページ内の「調査概要」より引用。
 

2――介護ロボットのタイプ別「導入状況」について

2――介護ロボットのタイプ別「導入状況」について

図表-1 全事業所のタイプ別の導入状況 1|タイプ別導入状況の集計結果について(複数回答)
本調査における全事業所の「介護ロボットの導入状況(複数回答)」の結果は図表-1のとおりである。

同調査時点でのタイプ別介護ロボットの中で導入率トップは「入浴支援機器」が1.8%、次いで「見守り支援機器(介護施設型)」が1.5%「コミュニケーションロボット」が1.0%となっている。

なお、この調査結果で介護ロボットのタイプ別導入率が全体的に低水準であるがそれは、(1)介護ロボットの導入・活用はまだ開始された当初段階にあること、(2)調査時点(2016年10月)では厚生労働省の「介護ロボット等導入支援特別事業(平成27年度補正予算:52億円、同28年度に繰越)」の事業がまだ実施途中であったこと4、(3)介護サービス事業所の事業内容によっては介護ロボットを必要とせず、また事業規模などによっても導入が難しいケースもある、などの様々な要因が背景にあるためである。今後の中長期的な導入率の変化とクロス集計を注視したい。
 
4 このため、導入予定の施設によってはメーカーの介護ロボット等の生産が追いつかず、まだ納品されていない事業所が多数あったと推測される。
2|調査時点での導入率上位3タイプの機器について
本項では今回の調査結果(平成28年度)の上位3タイプの機器について補足する。

導入率1位の「入浴支援機器(1.8%)」は、介護職にとって負担の重い入浴介助を支援する機器であり、介護施設から通所サービスなどの幅広い介護サービス事業所で需要が見込まれる機器である。

「入浴介助」は三大介護の一つであり、導入率トップという点に違和感はないが、調査時点ではまだ上市されている機種数も少なかったという状況がある。この点では前述の「導入支援特別事業」終了後の2017年度調査の結果公表(2018年夏)が注目される。今後、より良い入浴支援機器が開発・上市され、介護施設等や、在宅介護の浴室などで広く活用されるようになることを大いに期待する。

第2位は「見守り支援機器(介護施設型)(1.5%)」であり、圧力センサーや赤外線センサーなどを使った様々な方式や形状の機器が既に実用化されている。国の開発支援を受けた見守り支援機器の中から赤外線センサー活用の一例を簡単に解説する。このセンサー本体(以降、本体)は両掌に載る箱型で、内部に赤外線センサーや通信機能などが組込まれている。初めにWi-Fiの活用可能な介護施設の居室内の壁に設置した本体に、スマートフォン(以降、スマホ)などで初期設定を行う。そこで設定されたベッド上の空間から見守り対象者の身体の一部がはみ出したり、離床すると、そのパターン別にセンサーが感知し、介護職のスマホに各アラートが送信される。介護職は手元のスマホで、対象者のプライバシーに配慮したシルエット状(濃淡のトーン表示)の動画で、その状況を確認できる。

次にこの機器の具体的な活用状況の例を示す。介護施設などで特に夜間の配置人員の少ない状況下で、介護職はアラート受信時の動画確認から、業務の優先順位や訪室の要否の判断が可能となる。転倒リスクがある対象者の場合は離床手前の段階で訪室し、事故を未然に防ぐなどの運用が試行されている。定期巡回の間の離床の見守りや少ない人数の介護職の心身の負担軽減への寄与も期待される。

なお、同調査の集計表で「主とする介護サービスの種類別」のクロス集計表で介護施設の「見守り支援機器」の導入率を見ると「介護老人福祉施設(n=733)」が8.7%「介護老人保健施設(n=286)」で6.6%と今回の調査結果の中では突出して高い割合となっている。その最大の理由は「見守り支援機器」の「介護施設型」の開発が先行し、比較的完成度の高い機器が数年前から上市されていたことがあろう。このため、2017年に厚生労働省による複数の介護施設でこれらの機器等の効果実証事業や、検討会が開催され、介護保険による制度的対応が決定し、2018年度の介護報酬改定で「夜間職員配置加算」への若干の加算を上乗せすることとなった。これに続く施設への適用条件(機器の定員数に対する導入割合など)の確定と「見守り支援機器」の今後の需要動向の変化を注視したい。

第3位は「コミュニケーションロボット(1.0%)」であり、既に様々な種類のコミュニケーションロボットが登場しており、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が2016年度に効果実証事業などを実施し、「重点分野」の改訂(2017年10月、(旧)5分野8項目→(新)6分野13項目)で新たな1項目(分野としては「見守り・コミュニケーション」、項目では「生活支援」)として加えられた。高齢者等とのコミュニケーションを通じて「生活支援」を促進するなどの開発が中心となりそうだ。また、現在、技術革新が進行する人工知能(AI)とクラウドなどを活用した対話型ロボットが多数開発中であり、在宅における高齢者の見守りなどを含めたコミュニケーションロボットの開発が、今以上に大きく進展する可能性がある。

上記の3タイプ以降に「移乗介助機器(装着型)(0.4%)」「移乗介助機器(非装着型)(0.3%)」などが続く。これら「腰痛」の予防・防止の装着型機器は他産業での活用の動きにも注目したい。
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青山 正治

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