2018年03月07日

Jリート市場は2年ぶりに反落。物件取得額は大きく減少-利用は3%、雇用形態で非利用理由に差、生産性向上と施策の柔軟性が必要

基礎研REPORT(冊子版)3月号

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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10-12月期のGDP成長率は8四半期連続のプラス成長となった。住宅市場は価格が強含むなか横ばいで推移している。東京のオフィス市場は空室率が低位で推移するなかAクラスビル賃料は高値圏で小幅な動きとなっている。2017年の訪日外国人客数は順調に増加し、宿泊者数や旅行消費額も2ケタの伸びとなった。J-REIT市場は2年ぶりに反落し物件取得額も昨年比減少した。

1―経済動向と住宅市場

図表1:鉱工業生産 10-12月期の実質GDP成長率(1次)は前期比年率0.5%となり安定した経済環境が続いている。経済産業省によると、10-12月期の鉱工業生産指数は前期比1.8%と7期連続で上昇し前期の0.4%から大きく加速した[図表1]。




 
図表2:新築住宅着工戸数
住宅市場は価格が強含むなか概ね横ばいで推移している。2017年の新設住宅着工戸数は前年比▲0.3%の約96.4万戸となり3年ぶりに減少した[図表2]。一方、2017年の首都圏のマンション新規発売戸数は前年比0.4%の35,772戸となり4年ぶりに増加した。都区部での販売増加が全体を下支えた。1戸当たりの平均価格は1990年以来の高値となる5,908万円(+7.6%)、㎡単価は5年連続上昇の85.9万円(+8.3%)となった。また、2017年の首都圏中古マンションの成約件数は約3万7千件(前年比0.4%)となり過去最高を記録した。

今後の住宅市場については、貸家着工と関連性の高い個人の貸し家業向け貸出(アパートローン)の動向や来年10月の消費税率引き上げを前にした駆け込み需要などが注目される。

2―地価動向

地価は引き続き上昇している。「地価LOOKレポート(平成29年第3四半期)」によると、全国100地区のうち86の地区が上昇となった[図表3]。中心部における大規模開発事業の進捗やインバウンド需要の拡大、金融緩和のもと国内外の投資マネーが流入していることなどから不動産需要は高い水準にある。
図表3:全国の地価上昇・下落地区の推移

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三鬼商事によると12月の都心5区空室率は前月比0.09%上昇の3.12%、平均募集賃料は前月比0.6%上昇し48ケ月連続でプラスとなった。12月は既存ビルで2次空室が発生し空室率がやや上昇したものの水準自体は依然低く、賃料は年率3~4%のペースで上昇している。他の主要都市でもオフィスの新規供給が限定的で需給が逼迫するなか空室率は一段と低下し、札幌と福岡の空室率は東京を下回っている[図表4]。
一方、成約賃料データに基づくオフィスレント・インデックス(第4四半期)によると、東京Aクラスビル賃料は前期比+0.6%の34,599円となり、2015年第3四半期をピークに小幅な動きが続いている[図表5]。

ニッセイ基礎研究所では、今後のAクラスビル賃料について今年から始まるオフィスビルの大量供給を受けて2018年後半から2021年まで下落すると予測している(2017年4Q ~2021年3Qの下落率は▲18.5%)。
図表5:東京都心部Aクラスビル賃料と空室率
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は緩やかに上昇している。第3四半期は前年比でシングルタイプが+1.5%、コンパクトタイプが+2.6%、ファミリータイプが+2.6%となり全てのタイプで上昇した。また、東京の高級賃貸マンションについても空室率の低下に伴い賃料が上昇している[図表6]。
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業動態統計によると、2017年の小売販売額(既存店ベース)は百貨店が+0.6%、スーパーが▲0.3%、コンビニエンスストアが▲0.3%となった。百貨店は訪日客向けや高額商品の売上が好調な一方で、コンビニは他業態との競合が厳しくマイナスとなった。

2017年の全国61都市のホテル客室稼働率は1~3月は前年を下回ったものの4月以降は全ての月で前年を上回り高稼動を維持した[図表7]
図表7:全国のホテル客室稼働率
2017年の訪日外国人客数は前年比+19%の2,869万人となり5年連続で増加した[図表8]。航空路線の拡充やクルーズ船寄港数の増加、ビザ緩和などを背景に主要20市場全てにおいて過去最高となった。また、訪日客の旅行消費額は18%増の4.4兆円、外国人の延べ宿泊者数は13%増加した。
図表8:訪日外国人客数
首都圏大型物流施設の第4四半期空室率は前期比▲0.9%低下の4.9%、近畿圏は前期比3.9%上昇の19.6%となった[図表9]。大規模な先進的物流施設への需要は旺盛なものの、首都圏では今後2年間過去最大の供給が予定されており空室率は上昇に向かう見込みである。
図表9:大型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)

第4四半期の東証REIT指数は、株式市場に対する出遅れ感から海外資金を中心に買戻しが入り9月末比0.6%上昇した。

2017年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数は▲10.4%下落した[図表10]。国内の不動産ファンダメンタルズは堅調を維持したものの、REIT市場で最大の投資家層であるJリート投信からの資金流出が止まらず、投資家心理が悪化した。新規上場は2社、物件取得額は約1.3兆円にとどまり市場の拡大ペースが鈍化した。資産タイプ別にみると、物流施設とホテルの占率が高まった。不動産売買市場での取得競争が厳しさを増すなか、これらの資産ではスポンサーからのパイプラインを活用し大型優良物件を取得する機会が増加している。
図表10:2017年のJ-REIT市場
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2018年03月07日「基礎研マンスリー」)

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